上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

 愛する人と結婚して、幸せになる。

 そんな未来を想っていた頃もあった。
 まだ幼い頃だけれど。

 けれども私はそんな未来を掴めず――今、結婚している相手の男性ウィシュレルからは、日々暴力を奮われている。

「死ね! くそが! ふざけやがって……お前なんてなぁ! 生きてるだけで罪なんだよ! 分かってんのか? くそ! くそ! くそが! こうして一緒にいてやってんのは俺が優しいからだろうが、それに甘えていつまで無能でいるつもりなんだ……ああッ!? ふざけんなよお前!? 無能なところをどうにかしろや!!」

 殴られ、蹴られ。

 悲しいことだがもう慣れてしまった。
 結婚から一年ほど経つがもう何十回もこういうことをされてきたのだ。

 人は経験したことのある痛みには徐々に鈍感になっていく。

 ウィシュレルからの暴力も例外ではない。


 ◆


「またやられたの!?」

 このことを知っているのは妹だけだ。

「うん……」
「もういい加減別れたら? 離婚! できるでしょ、それが理由なら!」

 妹は気が強いけれど姉想いの優しい娘だ。
 だからいつだって私のことを気にかけてくれている。

 彼女がいるから生きていられているようなものだ、私は。

「でも……もしそんなことをしたら、多分、もっと酷い目に遭わされるわ。そんなことになるくらいなら……今のままでいる方がましなの」
「姉さん、いつまでそういうこと続ける気?」
「分からない……」
「あのねぇ、姉さん? 暴力は犯罪なんだよ? 訴えればいい、あんなやつ」
「無理よ」
「どうして!」
「だって怒るもの……」

 すると妹は溜め息をついた。

「ま、いいわ」

 申し訳ない。
 溜め息が出るような心情にしてしまって。

 そんなことを思っていたのだが。

「私がどうにかするから」

 彼女の口から出てきたのは意外な言葉で。

「……え?」

 思わずきょとんとしてしまう。

「もう見ていられない。だから取り敢えず、姉さんは今日からうちに戻ってきて」

 私は妹に助けてくれと言ったわけじゃない。もうすべて諦めているから、助けを求めることはないのだ。単に、ただ話を聞いてもらっていただけである。

 なのにどうしてこんな話へと進展していくのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約者の妹が悪口を言いふらしていたために周りからは悪女扱いされ、しまいに婚約破棄されてしまいました。が、その先に幸せはありました。

四季
恋愛
王子エーデルハイムと婚約していたアイリス・メイリニアだが、彼の妹ネイルの策により悪女扱いされてしまって……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

それは母の過去の話です。~彼女はかつて婚約者の母親にはめられ婚約破棄されてしまったのです~

四季
恋愛
それは母の過去の話です。 彼女はかつて婚約者の母親にはめられ婚約破棄されてしまったのです。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...