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前編
しおりを挟む愛する人と結婚して、幸せになる。
そんな未来を想っていた頃もあった。
まだ幼い頃だけれど。
けれども私はそんな未来を掴めず――今、結婚している相手の男性ウィシュレルからは、日々暴力を奮われている。
「死ね! くそが! ふざけやがって……お前なんてなぁ! 生きてるだけで罪なんだよ! 分かってんのか? くそ! くそ! くそが! こうして一緒にいてやってんのは俺が優しいからだろうが、それに甘えていつまで無能でいるつもりなんだ……ああッ!? ふざけんなよお前!? 無能なところをどうにかしろや!!」
殴られ、蹴られ。
悲しいことだがもう慣れてしまった。
結婚から一年ほど経つがもう何十回もこういうことをされてきたのだ。
人は経験したことのある痛みには徐々に鈍感になっていく。
ウィシュレルからの暴力も例外ではない。
◆
「またやられたの!?」
このことを知っているのは妹だけだ。
「うん……」
「もういい加減別れたら? 離婚! できるでしょ、それが理由なら!」
妹は気が強いけれど姉想いの優しい娘だ。
だからいつだって私のことを気にかけてくれている。
彼女がいるから生きていられているようなものだ、私は。
「でも……もしそんなことをしたら、多分、もっと酷い目に遭わされるわ。そんなことになるくらいなら……今のままでいる方がましなの」
「姉さん、いつまでそういうこと続ける気?」
「分からない……」
「あのねぇ、姉さん? 暴力は犯罪なんだよ? 訴えればいい、あんなやつ」
「無理よ」
「どうして!」
「だって怒るもの……」
すると妹は溜め息をついた。
「ま、いいわ」
申し訳ない。
溜め息が出るような心情にしてしまって。
そんなことを思っていたのだが。
「私がどうにかするから」
彼女の口から出てきたのは意外な言葉で。
「……え?」
思わずきょとんとしてしまう。
「もう見ていられない。だから取り敢えず、姉さんは今日からうちに戻ってきて」
私は妹に助けてくれと言ったわけじゃない。もうすべて諦めているから、助けを求めることはないのだ。単に、ただ話を聞いてもらっていただけである。
なのにどうしてこんな話へと進展していくのか。
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