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前編

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「貴様、我が妹を虐めていたそうだな! 信じられん! 可愛い可愛い我が妹に手を出して無傷でいられると思うな! それと、婚約は破棄とする!」

 その日、唐突に、婚約者の彼アフリングはそう宣言した。

 妹がいることは知っていた。が、虐めたという話に心当たりはない。そもそも私と彼の妹には関わる機会がなかった。知り合いなわけでもないし。

「待ってください、私は妹さんを虐めてなどいません」
「なら我が妹が嘘をついていると言うのか!?」
「言いたくはありませんが、そうではないでしょうか。私は虐めていませんので」

 ここは自分の名誉のためにもはっきりと真実を言っておかなくては。

 だが。

「貴様! 何ということを! 我が妹に謝れ! あんな可愛いのに嘘をつくわけがないだろうが!」

 アフリングは怒りだしてしまった。
 彼は足を交互に踏み鳴らして子どものように怒る。

 いい年してそんな怒り方はないと思うのだが……。


「貴様のことは絶対に許さん! 生涯を費やしてでも! 絶対に! 罰を与えてやる! 奴隷にしてやるからな! 覚えていろよ!」

 散々言われ、その日は別れることとなった。

 なぜあんな風に言われなくてはならなかったのだろう。
 もやもやだけが心に残る。

 その翌日、アフリングは刺激物の液体を持ちながら私の家まで来て放火しようとしているところを近所の人に通報され、治安維持組織によって拘束された。

「彼、貴女の婚約者だった人なの? 逆恨み?」
「妹を虐めたと言われてしていないと言うと激怒していたので……もしかしたらそれが原因かもしれません」

 通報してくれたのは数十年この村で暮らしている近所のおばさんだった。
 私も幼い頃からよく可愛がってもらってきた優しくしっかりした女性である。

「まぁ……酷い男ね」
「通報してくださってありがとうございました」
「いいのよいいのよ。しかし怖いわね、放火しようだなんて……」
「迷惑おかけしました」
「あ! そういう意味ではないわ! 責めているわけではないの、気にしないでね」

 誰も気づかなかったとしたら。
 そう考えると恐ろしい。
 危うく大惨事になるところだった。

 おばさんが彼を発見してくれたのは幸運だった。

 その後、私を含む一家三人は、別の街へ引っ越すことになった。

 アフリングのせいではなく。
 父親の仕事の事情である。
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