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前編

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 婚約者に裏切られた。

 彼は陰で他の女を持っていた。
 そして彼女を私よりも大事にしていた。

 私は彼を信じていた。だから怪しんではいなかった。彼が裏でこそこそ狡いことをしているのではないか、なんて考えてはいなかった。

 にもかかわらず、彼は裏切っていた。

 少しでも想像していたら、痛みはきっと少しはましだっただろう。

 でも欠片ほども想像していなかったから――だからこそ心が辛く痛かった。

 しかも婚約破棄まで告げられてしまって。

 彼が作っていた女からも馬鹿にしたような笑みを向けられたうえ「愛されていると信じていたの? 馬鹿ね。ばーかばーか。そんな馬鹿だから上手に騙されるのよ」なんて言われてしまって。

 ……ああもう消えてしまいたい。

 そんな風に思っていた。

 ――のだけど。

「貴女に一目惚れしました!!」

 ある時、視察に来ている王子一行と偶然出会い、そこで。

「僕と将来を共にしてください!!」

 王子よりそんなことを告げられてしまった。

 彼は私に惚れてくれたようなのだ。

「う、嘘、ですよね……?」
「嘘じゃない!!」
「ええっ」
「本気です!! 絶対に、嘘ではありません!!」
「あ……そ、そうですか……」

 王子の勢いは凄まじかった。

 最初は何の茶番かとも思ったが。
 彼はどうやら本気で言葉を発しているようであった。
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