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1話

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「あんたはねぇ! クズなのよ!」

 私の母は情緒不安定だ。
 日頃は悪い人ではないのだが時折急に激しく怒り実娘である私にやたらと当たり散らしてくる。

 これまでには「気に入らないから」と私の婚約者を殴ろうとして大揉めになり婚約破棄されたこともあるくらい――それほどに彼女は情緒不安定だ、もはや気質なんてレベルではない。

「あんたなんて、あんたなんて……あんたなんてねぇぇぇぇぇ!! クズ娘なのよ!! もっと素晴らしい理想的な娘が欲しかったわ。あんたなんてぇぇええええぇぇぇぇぇッ!!」

 父は私が当たり散らされていても何もしてくれない。見て見ぬふりをしているのだ。多分彼は妻の怒りが自分に向くのが怖いのだろう。きっとそれで私が酷い目に遭わされていても見なかったことにしているのだろう。

 そうに違いない。
 それ以外に見て見ぬふりをする理由なんてないだろうし。

 それでも、毎日のようにあれこれ心ない言葉をかけられるというのはなかなか辛さもあるもので。
 鬼のような形相で「もっとモテモテで優秀な娘が良かったわ」とか「あんたみたいな女、誰からも選ばれないのよ。だって低級だから」とか言われ続けるのはそこそこしんどくもあった。

 私、何もしていないのに。
 悪いこととか、迷惑をかけることとか、特にしていないはずなのに……。

 ――なんて言えるわけもないよね。

 ただ耐えるしかないのだ、今は。

 でもいつかはきっと。
 ここから抜け出して優しい世界へと飛び込んでみせる。
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