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前編

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 子どもの頃から友人のような関係であった婚約者アドフルは愉快な人だったけれど悪いことや他者を傷つけるようなことをする人ではなかった。
 それゆえ、周囲では揉めているカップルも多くいた中、私たち二人はそこそこ順調に進んでゆけていた。

 私たちは昔から知っているということもあって仲良しだった。

 刺激的な恋ではないかもしれない、が、確かな絆を築いていたので大きな問題は発生しなかったのだ。

 しかし、ある夜、私は見てしまう。

 ――アドフルが見知らぬ栗色の髪の女性と少々いかがわしい関係に発展しているところを。

 その時期私たちは将来を見据えて同棲していた。
 それゆえ同じ屋根の下で毎日暮らしていたのだ。

 だが、その日私が帰宅すると、男女の不気味な声が聞こえてきて。

 アドフルが家に女を連れ込んでいることが発覚したのであった。

「ちょ、ちょっとアドフル……何してるの……? どうして、そんな、他の女がここに……?」

 驚いたのは私だけではない。

「なっ! リリア!? ど、どうしてここに、お前が!? 今日は帰ってこないんじゃなかったのか!?」

 むしろ彼の方が驚いているような感じだ。

「今日は日帰りだって言ったでしょう」
「う、嘘だ! 騙したな!? 嘘をついたのだろう!? さ、さ、最初から……はめるつもりで……?」

 彼は青い顔をしている。

「いやいや、帰るって伝えていたわよ」
「ば、馬鹿な。嘘だ。絶対嘘だ」
「嘘? そんなわけないわよ。だって私、貴方のこと疑っていなかったもの」

 少し間を空けて。

「ま、でも、もういいわ。アドフル、貴方との婚約は破棄します」

 私はそう宣言する。

 だってそうだろう?
 こんないちゃいちゃを見せられて黙っていることなどできるはずがない。
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