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5話

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 そうして私は婚約破棄を済ませた。

 婚約相手の彼には、慰謝料の支払いが命ぜられることとなる。
 彼は慰謝料の支払いを拒んでいた。が、公の命令には逆らえず、渋々支払いを了承した。

 きっと激怒しているだろうな、と想像はできる。でも、今はもう関係ないし、直接会う機会もない。だからそれほど気にはならない。顔を合わせる機会があれば相手の機嫌も気になるものではあるが、顔を合わせることがなければ相手の機嫌などそれほど気にはならないものだ。

 慰謝料を支払い完了によって、彼との縁は切れた。

 彼のその後についてはあまり知らなかった。が、数年後に聞いた噂によると、彼は婚約破棄後かなり荒れていたらしい。

 自分の行為に問題があったと指摘されたことがどうしても許せなかったようだ。
 その点は、彼らしいと言えるかもしれない。

 だが、荒れた彼の行いは、かなり凄まじいものだったようだ。毎日大量に酒を飲み、時には暴れることもあったらしい。近隣に住む人たちは、路上で暴れまわる彼の姿をよく目撃したとか。また、中には、酔っ払った彼に絡まれ被害を受けた人もいたらしい。

 そんなことを続けていた彼は、やがて、近隣の人たちから嫌われるようになっていった。

 そして、最終的には、その地区から追い出されてしまったそうだ。

 何も持たず追い出されるままに家を出た彼の行方を知る者はいない。いや、絶対にいないかというとはっきりしないけれど。少なくとも、追い出されてからの彼を知る者からの情報は、私の耳には入ってこなかった。

 婚約破棄から十数年後、私は一人の男性と結婚した。

 子どもは生まれなかったが不幸ということはなかった。もちろん子どもを設ける夫婦を批判するわけではない。が、二人で過ごす時間は私にとってはとても尊いものであった。


◆終わり◆
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