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4話

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「ねぇ。女癖の悪い婚約者さんのことなのだけれど」
「あ、はい」
「他の女性と肉体関係を持っていたということなら、婚約破棄の際、慰謝料の支払いを求めることができそうよ」
「そうなんですか」

 温かな場所にいればいるほど、婚約者のことを思い出すのが辛くなる。

 どのみちあそこに戻るつもりはない。あのようは理不尽かつ威圧的な人と暮らしてゆく自信がないから。しかも、威圧的なだけならまだしも、すぐに他人に身体を許すような人である。彼と共に生きていくのは、私には無理だ。

 そういうことが平気な女性でなければ、彼の妻にはなれないだろう。

「知人で力になってくれそうな人がいるわ。頼んでみる?」
「え。でも、私、お金があまりなくて……」
「大丈夫よ。知り合いだから。高額な報酬はなくても、力を貸してくれるわ」
「そうですか……」

 私はすぐに頼む気にはなれなかった。高額な報酬を支払う能力は私にはないから。けれども、伯母から色々な話に聞いているうちに、少し頑張ってみようかという気持ちになって。取り敢えず頼んでみることにした。

 それから数ヶ月は忙しくなった。


 ◆


 婚約破棄は正式に認められた。

 また、その理由が彼の不貞行為であるということも、認めてもらうことができた。

 婚約相手の罪を第三者に認めてもらうのは大変だった。とにかくいろんな証拠が必要だし、手続きも複雑だし、相手が言い逃れできないよう詰めていく必要があるから。多分、一人でならできなかった。認めてもらうところまで進めなかったと思う。
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