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前編

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「俺はお前とはもう生きない」

 婚約者で王子でもある青年エルトリッチに呼び出されたと思ったら。

「お前との婚約は破棄とする! そして――」

 二人きりの空間で冷ややかな視線を向けられて。

「それゆえ、お前には死んでもらわねば」

 彼が片手をそっと持ち上げると、背後の草むらから覆面の男が出現。

「え、ちょ、待っ」
「殺れ!」

 エルトリッチは間違いなくそう言った。
 覆面の男に命令したのである。

 婚約者であった私を殺す? そんな馬鹿な。そんなことがあるのか? 普通に考えればそんなことが起こるとは思えない。そもそも婚約破棄と殺害を繋げる意味がないし。

 だが目の前の彼は確かに――。

 間もなく、覆面の男が刃物を手にして襲いかかってきた。

「いやっ!」

 死にたくなかった。
 だから私は生き延びる選択をした。

 そう、その場から逃げ出したのだ。

 このままここにいたら間違いなく殺される、強くそう感じたからこそ、私は他のことなんて何も考えずに足を動かした。


 ◆


(な、なんとか……逃げられた……)

 まさか王子があんなことをする人だったなんて。
 あれでは悪魔ではないか。

(取り敢えず家に……)

 もう王城へは戻らない。
 でもいいのだ、どうせ戻れないのだから。

 婚約破棄されたのだから。
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