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11話「訪問者は嬉しくない人でした」

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 クロミヤスで暮らすことに慣れていたのだが――ある日、急に訪問者があった。

 しかもその訪問者というのが、懐かしい顔で。
 そう、その人は、かつて住んでいたあの国の国王たる人であった。

「お久しぶり、ローゼマリンさん」
「こ、国王陛下……」

 そして彼はルミッセルの父親でもある。

「いきなりで申し訳ないのだが、国へ戻ってきてはくれないだろうか?」
「え」
「あのカサブランカという無礼極まりない女はもう処刑した。よって、貴女に害をなす者はもういないのですぞ。ですからどうか……戻ってきてはくださらないだろうか」

 国王は平然とそんなことを言う。
 それも、私がすんなり「はい」と答えるだろうと当たり前のように思っているような顔で。

 戻る? あの国に? ようやくこのクロミヤスで穏やかな暮らしを手に入れたのだ、そんなこと何があったとしても考えられない。多くの難を越えて手に入れたこの場所を手放す? そんなわけがないだろう。だって、これまでで一番過ごしやすい場所がここなのだから。いくら国王が頼んできたからって、その安住の地を気軽に手放すことなんてできるわけがない。

「そして、もう一度我が息子とやり直してほしい」
「申し訳ありませんが……それは不可能です」

 はっきり返すと。

「ふがっ!? い、今、何と!?」

 国王は目玉が飛び出しそうなくらい驚いていた。

 ……よほど、私がすんなり戻ると思い込んでいたのだろう。

「ですから申し上げたのです、やり直す気はないと」
「し、しかし、このような不気味な国――」
「失礼ですよ陛下。この国は素晴らしい国です、それを不気味などと」

 不愉快だった。
 この国を馬鹿にされるのは。

「な、なんという……もしや、ローゼマリンさん、洗脳されているのでは……」
「いいえ、私は正常です」

 特に彼ら王族だけには言われたくない。

「こちらの国の方が私には合っています、ですから、もう戻りません」
「金か!? ああ、金なら出そう! たんまりと!」
「……国民から巻き上げたお金を、ですか」
「ああそうだ、もちろん! 民もきっと喜ぶであろう!」
「結構です。お金だけではないですから。国王陛下、どうか、お帰りください」

 そうよ、私はもうあんなところには戻らないわ。

「私はここから離れる気はありませんので」

 馬鹿にされて、切り捨てられて、それでもまたあの場所へ戻る? ――そんなのは馬鹿げている。

「これ以上、お話することはありません」
「ま、待ってくれ! ローゼマリンさん! もう少し話を!」
「お帰りください」

 言えば、警備兵たちが追い出してくれた。

 そうしてようやく解放された。

 ああ、面倒臭いな。
 そんな気持ちで胸の内が満ちている。

 ただ、そんな時ですら、窓の外を眺めれば世界は美しくて。

 やはり戻りたくない――改めて、強くそう思った。


 ◆


 その日の晩、バーレットが自室へやって来て「今日国王が来たそうですな」と言ってきた。

「そうなんです」
「問題はありませんでしたか?」
「はい」
「それで……戻らなくて良かったのです?」
「ええ、私はもう戻りません」

 こう見えて決意は固いのだ。

「それは……嬉しいですな、実に心強い」
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