11 / 13
11話「訪問者は嬉しくない人でした」
しおりを挟むクロミヤスで暮らすことに慣れていたのだが――ある日、急に訪問者があった。
しかもその訪問者というのが、懐かしい顔で。
そう、その人は、かつて住んでいたあの国の国王たる人であった。
「お久しぶり、ローゼマリンさん」
「こ、国王陛下……」
そして彼はルミッセルの父親でもある。
「いきなりで申し訳ないのだが、国へ戻ってきてはくれないだろうか?」
「え」
「あのカサブランカという無礼極まりない女はもう処刑した。よって、貴女に害をなす者はもういないのですぞ。ですからどうか……戻ってきてはくださらないだろうか」
国王は平然とそんなことを言う。
それも、私がすんなり「はい」と答えるだろうと当たり前のように思っているような顔で。
戻る? あの国に? ようやくこのクロミヤスで穏やかな暮らしを手に入れたのだ、そんなこと何があったとしても考えられない。多くの難を越えて手に入れたこの場所を手放す? そんなわけがないだろう。だって、これまでで一番過ごしやすい場所がここなのだから。いくら国王が頼んできたからって、その安住の地を気軽に手放すことなんてできるわけがない。
「そして、もう一度我が息子とやり直してほしい」
「申し訳ありませんが……それは不可能です」
はっきり返すと。
「ふがっ!? い、今、何と!?」
国王は目玉が飛び出しそうなくらい驚いていた。
……よほど、私がすんなり戻ると思い込んでいたのだろう。
「ですから申し上げたのです、やり直す気はないと」
「し、しかし、このような不気味な国――」
「失礼ですよ陛下。この国は素晴らしい国です、それを不気味などと」
不愉快だった。
この国を馬鹿にされるのは。
「な、なんという……もしや、ローゼマリンさん、洗脳されているのでは……」
「いいえ、私は正常です」
特に彼ら王族だけには言われたくない。
「こちらの国の方が私には合っています、ですから、もう戻りません」
「金か!? ああ、金なら出そう! たんまりと!」
「……国民から巻き上げたお金を、ですか」
「ああそうだ、もちろん! 民もきっと喜ぶであろう!」
「結構です。お金だけではないですから。国王陛下、どうか、お帰りください」
そうよ、私はもうあんなところには戻らないわ。
「私はここから離れる気はありませんので」
馬鹿にされて、切り捨てられて、それでもまたあの場所へ戻る? ――そんなのは馬鹿げている。
「これ以上、お話することはありません」
「ま、待ってくれ! ローゼマリンさん! もう少し話を!」
「お帰りください」
言えば、警備兵たちが追い出してくれた。
そうしてようやく解放された。
ああ、面倒臭いな。
そんな気持ちで胸の内が満ちている。
ただ、そんな時ですら、窓の外を眺めれば世界は美しくて。
やはり戻りたくない――改めて、強くそう思った。
◆
その日の晩、バーレットが自室へやって来て「今日国王が来たそうですな」と言ってきた。
「そうなんです」
「問題はありませんでしたか?」
「はい」
「それで……戻らなくて良かったのです?」
「ええ、私はもう戻りません」
こう見えて決意は固いのだ。
「それは……嬉しいですな、実に心強い」
1
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
あなたが運命の相手、なのですか?
gacchi
恋愛
運命の相手以外の異性は身内であっても弾いてしまう。そんな体質をもった『運命の乙女』と呼ばれる公爵令嬢のアンジェ。運命の乙女の相手は賢王になると言われ、その言い伝えのせいで第二王子につきまとわられ迷惑している。そんな時に第二王子の側近の侯爵子息ジョーゼルが訪ねてきた。「断るにしてももう少し何とかできないだろうか?」そんなことを言うくらいならジョーゼル様が第二王子を何とかしてほしいのですけど?
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる