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5話「流れで来てしまいました」
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バーレットに誘われたどり着いたクロミヤスは、キノコモチーフがやたらと多い国だった。
少々古臭い感じ。
けれども懐かしい愛おしさが感じられて、ほっこり。
多く使われている煉瓦の色も赤っぽくて目に優しい。
「素敵な街ですね」
「ありがたきお言葉」
来たことない場所、見たことのない物――多すぎて、自然ときょろきょろしてしまう。
バーレットと歩いていたら、魔物の姿の通行人が何度も声をかけてきた。狼を二足歩行にしたような魔物、べたべたしていそうな形が変化する魔物、鋼鉄で構成された身を持つ魔物。本当にいろんな種類の魔物がいる。人から見れば明らかに異端な彼ら。でも、彼らもここでは普通の一人として存在を認められて生きている様子だ。
「本当に……多いですね、魔物の方」
「そうですね、人間もいますよ?」
「魔物が普通に歩いて暮らしているって少し不思議な感じ……」
「嫌ですか?」
「い、いえ! そんな意味では!」
「そう。なら良かった」
本当に、嫌とか不愉快とかではない。
ただ少々違和感があって。
じきに慣れるのだろう、ここで暮らしていれば。
「けど、バーレットさんは普通の人間に見えます」
「先ほども言いましたが、この国には普通の人間もいるんですよ」
「あ、そうでした。すみません」
やがて、煉瓦で作られた大きな建物へと入ってゆくこととなる。
バーレットが話してくれた話によれば、ここがクロミヤスの城だそうだ。
「ここにも城なんてものがあるのですね」
「ええ、ありますよ。けれど珍しいことではないですな。城なら大抵どこの国にでもあるものでは」
「そうですよね……」
「この国に城があることがそんなにも不思議ですか?」
「いえ……」
少し気まずくなってしまった。
そうだ、私は流されるようにここへ来た。
これからどうなるのだろう?
痛い目に遭わされたりはしないだろうか?
今になって様々な不安が込み上げてくる。
「ローゼマリン様? どうかなさいましたかな」
「あっ……い、いえ……」
「何か考え事をなさっているようにお見受けしますが」
「……ええと、その、私はこれからどうなるのでしょうか。今になって疑問に思って、それで」
するとバーレットは面に笑みを浮かべる。
「ここで暮らしていただくのですよ、これからは」
その時ふと思い出す。
『では、ローゼマリン様はいただきますので』
ルミッセルの前でバーレットが発していた言葉を。
あれは、本気だったのではないか……?
「そしてゆくゆくは我が妻となっていただきます」
やっぱり!
「ええっ! それはハードルが高いです!」
動揺して、思わず大きな声が出てしまう。
しかしバーレットは冷静だった。
「そうでしょうな。ですから、急にとは言いません。それに、妻となっても私を本当の意味で愛する必要などありませんよ」
「え……?」
「妻という座に就いていただければそれだけで構わないのです。むしろ、愛よりその魔法の才が欲しいのです」
バーレットはどこか寂しげな目をしながらそんなことを言っていた。
……目的は、愛でなく魔法。
この力が欲しいのか、彼とこの国は。
「その力を我が国のために使っていただきたいのです」
「でも、私の魔法は……気軽に使えるものではなくて、危ないので……」
「もちろん、今すぐ使えとは言いませんよ」
「ではどういう意味で……?」
すると彼は一度瞼を閉じ、少ししてから、そっと目を開けた。
バーレットの双眸から放たれる視線は私の顔へ向いている。
「この国を護るため、その力を使ってほしいのです」
少々古臭い感じ。
けれども懐かしい愛おしさが感じられて、ほっこり。
多く使われている煉瓦の色も赤っぽくて目に優しい。
「素敵な街ですね」
「ありがたきお言葉」
来たことない場所、見たことのない物――多すぎて、自然ときょろきょろしてしまう。
バーレットと歩いていたら、魔物の姿の通行人が何度も声をかけてきた。狼を二足歩行にしたような魔物、べたべたしていそうな形が変化する魔物、鋼鉄で構成された身を持つ魔物。本当にいろんな種類の魔物がいる。人から見れば明らかに異端な彼ら。でも、彼らもここでは普通の一人として存在を認められて生きている様子だ。
「本当に……多いですね、魔物の方」
「そうですね、人間もいますよ?」
「魔物が普通に歩いて暮らしているって少し不思議な感じ……」
「嫌ですか?」
「い、いえ! そんな意味では!」
「そう。なら良かった」
本当に、嫌とか不愉快とかではない。
ただ少々違和感があって。
じきに慣れるのだろう、ここで暮らしていれば。
「けど、バーレットさんは普通の人間に見えます」
「先ほども言いましたが、この国には普通の人間もいるんですよ」
「あ、そうでした。すみません」
やがて、煉瓦で作られた大きな建物へと入ってゆくこととなる。
バーレットが話してくれた話によれば、ここがクロミヤスの城だそうだ。
「ここにも城なんてものがあるのですね」
「ええ、ありますよ。けれど珍しいことではないですな。城なら大抵どこの国にでもあるものでは」
「そうですよね……」
「この国に城があることがそんなにも不思議ですか?」
「いえ……」
少し気まずくなってしまった。
そうだ、私は流されるようにここへ来た。
これからどうなるのだろう?
痛い目に遭わされたりはしないだろうか?
今になって様々な不安が込み上げてくる。
「ローゼマリン様? どうかなさいましたかな」
「あっ……い、いえ……」
「何か考え事をなさっているようにお見受けしますが」
「……ええと、その、私はこれからどうなるのでしょうか。今になって疑問に思って、それで」
するとバーレットは面に笑みを浮かべる。
「ここで暮らしていただくのですよ、これからは」
その時ふと思い出す。
『では、ローゼマリン様はいただきますので』
ルミッセルの前でバーレットが発していた言葉を。
あれは、本気だったのではないか……?
「そしてゆくゆくは我が妻となっていただきます」
やっぱり!
「ええっ! それはハードルが高いです!」
動揺して、思わず大きな声が出てしまう。
しかしバーレットは冷静だった。
「そうでしょうな。ですから、急にとは言いません。それに、妻となっても私を本当の意味で愛する必要などありませんよ」
「え……?」
「妻という座に就いていただければそれだけで構わないのです。むしろ、愛よりその魔法の才が欲しいのです」
バーレットはどこか寂しげな目をしながらそんなことを言っていた。
……目的は、愛でなく魔法。
この力が欲しいのか、彼とこの国は。
「その力を我が国のために使っていただきたいのです」
「でも、私の魔法は……気軽に使えるものではなくて、危ないので……」
「もちろん、今すぐ使えとは言いませんよ」
「ではどういう意味で……?」
すると彼は一度瞼を閉じ、少ししてから、そっと目を開けた。
バーレットの双眸から放たれる視線は私の顔へ向いている。
「この国を護るため、その力を使ってほしいのです」
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