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カルテッタ ~たとえ過去を思い出すとしても、私が愛するのは貴方だけ~
しおりを挟む窓を開けて、青く染まりきった空を見上げる。
私――カルテッタは、そんな時、ふと思い出す。
それは私がまだ王妃となる前の出来事。否、王妃どころかかつての王子で今の夫である彼と出会う前のこと。青い爽やかな空を見上げるたび、それを思い出すのである。
あれは、当時婚約していた男性との思い出だ。
その日彼は私を海の見える思い出の崖へ呼び出して婚約破棄を告げてきた。何でも好きになった女性がいるとかで。でも私はそれを即座には受け入れられなくて、拒否した。どうしてそんなことを急に言われなくてはならないの、と言って。すると彼は感情的になり、私を突き飛ばした。死ね、などという心ない言葉も加えて。
――そう、私はあの時死んでいたかもしれなかった。
しかし私はたまたま下を通りかかっていた漁船に助けられ一命を取り留めたのだ。
その後、彼は、私を殺そうとしたとして身柄を拘束された。
そうして彼は社会的に終わったのだ。
以降彼がどうなったのかは知らない。けれどもきっとろくでもない人生となったことだろう。なんせ人殺し一歩手前として扱われるのだから、まともな人生を歩めるはずもない。
その後色々あって私は王子と出会い、彼と結ばれ、今はこうして王妃として国の頂に存在している。
「何を見ていたんだい? カルテッタ」
そこで、声をかけられた。
振り返ればそこには愛する人の姿があって。
「ああ、帰ってきていたのね」
「窓を開けているなんて珍しいな」
なんだろう、複雑な気持ち――でも幸せも感じる。
「そうね……確かに久々かもしれないわ」
だから自然に笑みがこぼれる。
「空はあまり好きじゃないって言ってなかったっけ」
「ええ。前の婚約者との……少しだけ複雑な思い出」
「あああれか。確か、殺されかけたとか」
「ええそれよ」
「じゃあそのことを考えていたのかい?」
「そうね……少し思い出していたの」
でも、今私が愛しているのは彼一人だけだ。
「勘違いしないで、未練とかじゃないから」
それは確かなこと。
「私が愛するのは貴方だけ、ただ一人、貴方一人だけよ」
◆終わり◆
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