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前編

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『私は常に見える存在ではありません。ただ、私はいつも貴女を見守り想っています。ですから、本当に辛くなった時には、私に向かってそう言ってください。支援するように言ってください。そうすれば私は貴女に力を貸しますから。どんな時も絶望せず、私へ手を伸ばしてください。そうすれば必ず、奇跡が起こるでしょう』

 幼き日、私は、得体のしれない女性からそんなことを言われた。

 その女性はとても美しかった。

 陶器のような肌、長い髪は虹色に染まっており、睫毛はとても長くまるで細やかに作られた人形であるかのよう、そしてガラスのドレスをまとっている――そんな、幻想的な、女神のような女性だった。

 ……あれは一体何だったのだろう?

 私はずっとそう思っていた。

 彼女が姿を現したのはあの時だけ。
 でも私は彼女をずっと気にかけていた。

 もっとも、そこに深い意味なんてないのだけれど。

 それでも我が心の端には常にあの日見た彼女の姿があった。


 ◆


 両想いだと思っていた婚約者ヴィセルから婚約破棄を告げられた。
 しかもその理由が「君には飽きた、刺激がなさすぎる」というようなもので。
 揉めたわけではない、こちらが何かやらかしたわけではない、にもかかわらず突然一方的に婚約破棄されたのだ。

 そして私は闇に落ちた。

 どうして、どうして、こんなことに……。

 そんなことばかり考えてしまって絶望していた夜、私は思い出す――あの時あの女性が言っていたことを。
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