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後編

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 ――私はもう彼を許しはしない。

 この手で彼の生もまた終わらせてやろう。

 身勝手に婚約破棄して、保身のために私を殺すところまでやって。そんな人だ、彼は。だから躊躇する必要はない。人殺しなのだから。殺人は隠蔽できていたとしても、死者の苦しみからは決して逃れられない。

 そうして舞い戻った私は、彼に悪夢を見せ続けた。

 死後だからこそなせるわざだ、これは。だって、ただの人間には他人の夢をコントロールする能力なんてないのだから。でも今の私にはそういう非現実的なことができる。これは今だからこそできる復讐である。

 そうして毎晩悪夢にうなされるようになったルトニウスはやがて心を病み、恐怖のあまり寝ることを拒否するようになって、やがて自ら死を選んだ。

 彼は私を殺したその罪を隠し通せていた。
 でもその代わり死んだ私から罰を受けた。
 そしてその罰によって精神を崩壊させ、やがて自らにその牙を向けることとなったのだ。

 自分で死を選ぶ、というのは、少々気の毒なことではある。
 でも彼に関してはもってこいの最期だろう。
 忠実に付き合ってきた私のことでさえ殺したのだ、彼が己だけ殺さないならそれはあまりに身勝手なことである。

 そうして私は天国へ戻った。

 その時、この胸には、もうもやもやはなくて。

 ――これで本当の意味で死ねるのか。

 とても爽やかな心持ちだった。

 生まれて初めて、純粋な幸せを感じた。


◆終わり◆
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