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前編
しおりを挟む「ミレーネは歌が上手いなぁ、すごいよほんと」
婚約者となった赤髪の彼モルテットはいつも私の歌を褒めてくれていた。
「君みたいな女性が婚約者で将来の妻だなんて……嬉しいな」
「そんな。大層よ」
「でも事実なんだよ? 心からそう思っている」
「そう。……ありがとう、モルテット。ありふれた表現で申し訳ないけれど、そう言ってもらえるととても嬉しいわ」
私たちは共に同じ未来を見ていたのだ――少なくとも、その頃はまだ。
しかしいつからか変わってしまった。
何もかもすべてが。
私と彼の見つめる未来は異なるものとなってしまって。
「悪いがミレーネ君とはもう歩めない」
「え……」
「君にはもう疲れた。歌なんてできたって何にもならないし。よって、婚約は破棄とする! いいね」
「ど、どうして……どういうことなの……」
困惑し硬直する私に、彼は「君より好きな人ができたんだ」と何の躊躇いもなく言葉を投げた。
「だからもうおしまいにする。……さよなら」
そして彼は自ら終わりを宣言したのだ。
私と、彼と、その間に境界線を引いたのは、他の誰でもない彼だった。
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