護衛娘と気ままな王子

四季

文字の大きさ
上 下
3 / 32

3話 のんびりまったり

しおりを挟む
 今日はモノハシカ昼食会。

 この昼食会は、モノハシカ王国全土から身分の高い者が集まり催される、比較的大きな規模の催し物だ。開催場所は王国城内。王族も皆参加するため、ルカ王子も参加である。そして、その護衛である私も、行かなくてはならない。

「フェリスさんと一緒に昼食会は初めてだね。楽しみだなー」

 ルカ王子は今日ものんびりしている。

 風になびく銀髪。燃ゆるような紅の瞳。容姿自体は「見るからにただ者でない」といった雰囲気だが、それとは対照的に、言動はのんびりまったり。

「一緒に楽しもうね」
「はい? 意味が分かりませんけど」

 私はあくまで護衛である。
 危機から護る、ということ以上を私に期待するのは、なるべく止めていただきたいものだ。

「え? どうして?」

 ルカ王子は不思議そうな顔をしながら、子どものように首を傾げる。それに加え、紅の瞳はこちらをじっと見つめていた。

 正直少し面倒臭い。

 しかし、彼の中に疑問を残すのは良くないだろうから、一応答えておくことにした。

「どうしても何も、私は護衛です。楽しむなんてありえません」

 するとルカ王子は、微笑みながら、こちらへ歩み寄ってくる。何かと思っていると、彼は私の手をそっと握り、顔を近づけてきた。

「駄目だよ。フェリスさんも楽しまないと」

 彼はどうして、こうも距離を近づけようとしてくるのだろう。
 男女のことに慣れていない私が戸惑う様を眺め、密かに楽しんでいるのだろうか。

 ……いや、それはないはずだ。

 ルカ王子は女遊びをするほど大人びた人ではない。

「いいえ、私はあくまで護衛ですから。気を抜くわけにはいきません。それと、ことあるごとに近づくのは止めて下さい」
「フェリスさんは相変わらず厳しいなぁ」
「いえ、これが普通です」
「そうなのー? でも侍女たちはいつも、何も言わなかったよ?」

 いつも、ということは、侍女たちにもこんなことをしていたのだろうか。
 だとしたら女性として許せない。
 王子という地位を利用して接近するなら、私がここで一発、言っておかなくては。

「侍女の方々にもこんなことをしていたのですか? それは——」

 言いかけた瞬間。
 ルカ王子が、人差し指を私の唇へ、そっと当ててきた。

「違うよ」

 いつになく真面目な声色。表情も日頃の呑気なものとはまったく違っている。一瞬にして変わったルカ王子に、私は言葉を失った。

「こういうことは、気に入っている女性にしかしない」

 思わず数秒黙ってしまったが、すぐに気を取り直し、唇に触れる彼の指を払う。

「……止めて下さい」

 私はくるりと体を返し、ルカ王子から離れる。そして、愛用の剣が置いてあるテーブルまで歩いていく。革製のカバーに入った細めの剣を手に取り、状態を確認。そして、問題がなさそうなことを確認すると、腰にかけた。

 今日は王国中から人が集まる。その中に暗殺者が混じっていたとしても、おかしな話ではない。

 だから、日頃よりも警戒しなくては。

「私は護衛。ただの護衛です。なので、それ以上のことを私に求めないで下さい」
「えー? 可愛いのにもったいないなぁ」

 こうして呑気に話している間にも、何者かがルカ王子を狙っているかもしれない。そう思っておくくらいでちょうどいいだろう。特に今日は。

 そんなことで普段よりピリピリしていると、それを宥めるような柔らかい声でルカ王子が言ってくる。

「フェリスさんって、食べ物は何が好きなの?」
「……はい?」
「食べ物。甘いのとか好き?」
「はい……まぁ」

 もっとも、好きな食べ物について考えたことはあまりないが。

「じゃあ今度お茶とかしない? 僕も甘いもの大好きなんだ」

 ルカ王子は心なしか恥ずかしそうに笑った。恥じらいの混じった笑みは、いつもの屈託のない笑みとはまた違った雰囲気で、興味深い。

 それにしても、突然お茶の誘いだなんて。

 お茶なんて、私には似合わないだろう。
 なんせ私は、戦いばかりに集中していた身だ。甘いものとお茶を楽しむなんて、そんな贅沢でおしゃれな暮らしは、しっくりこない。

「どうかな?」

 だが、一度くらいは経験しておいてもいいかもしれない。この機会を逃せば、もう二度と、そんな経験はできないだろうから。

 だから私は首を縦に動かした。

「分かりました」

 すると、ルカ王子の顔が、ぱあっと明るくなる。

「本当!? やったぁ!!」

 第一王子ともあろう人が「やったぁ」だなんて、少々おかしな感じがする。
 けれども、喜んでくれるに越したことはない。護衛たるもの、護衛対象と友好的な関係を築くことは大切である。

 ……もっとも、過剰な関わり合いはしたくないけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。 そこで思い出した前世の記憶。 進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。 そこには確かに自由があった。 後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。 皇帝の寵愛を一身に受けるために。 ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。 しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。 危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。 療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……? 設定はゆるゆるなので、見逃してください。 ※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。 ※溺愛目指します ※R18は保険です ※本編18話で完結

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...