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18話「打ち明ける難しさ」
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パトリーが私の体調不良を心配してくれたという事実を知ることができたのは、嬉しいこと。それは純粋に嬉しいし、ありがたいことだと思う。
けれど、こんな近くに居座られたら、不安しかない。
本調子でない状態の私がパトリーが満足する話し相手になれるとは、とても思えないからである。
しかも、アナは気を遣って退室していってしまった。
今、自室には、私とパトリーだけ。つまり、二人きり。
何か話さなくては、と思うけれど、なかなか上手く話せない。良い話題が思いつかない。蜘蛛の話は、既に手紙に書かれていたし。
そんな風に一人色々考えながら黙っていると、パトリーが口を開いた。
「やはり体調が優れないのか」
静かで淡々とした口調。
パトリーはぶれない。
「なぜ黙っている」
「……すみません」
どう返すべきか分からなくなった私は、つい、意味もなく謝ってしまう。そんな意味のない謝罪に、パトリーの片眉がぴくりと動いた。
「なぜ謝る」
「……何と返して良いか分からず」
「謝るほどのことではない」
つい「すみません」と言いそうになるのを、私は慌てて飲み込んだ。
パトリーは、意味もなく謝ったところを気にしていた。にもかかわらず、さらに意味のない謝罪を重ねたりなんかすれば、余計に気まずくなってしまいかねない。
だから私は、つい謝ってしまいそうになるのを堪え、お礼の言葉に変える。
「ありがとうございます」
するとパトリーは納得したような顔。
「その方が、ずっといい」
彼の表情がほんの僅かに柔らかくなったのを見て、私は内心安堵の溜め息を漏らす。
「罪を犯したならば、謝罪はすべきだ。だが、罪を犯していないにもかかわらず謝罪する必要はない」
「は、はい……」
いや、いきなり何を?
そんな風に思っていると、パトリーは話を振ってくる。
「そういえば、リリエラ」
「は、はい?」
「あの女に絡まれているのだろう?」
彼の言う「あの女」とは、ローズマリーのことだろうか。だとしたら、驚きだ。彼の口からそのような話が出てくるなんて、考えてもみなかった。
「……ローズマリーさんのことですか?」
「そうだ」
「少し、不快な思いをさせてしまったみたいで」
私は敢えて控えめな表現にしておいた。
理不尽! 鬱陶しい! 執拗! 悪質!
……なんて、言えるわけがないから。
「不快な思いを? 貴女がそんなことをするとは、とても思えないのだが」
パトリーは怪訝な顔。
「失礼なことをしてしまったみたいで。こちらが悪いんです」
「いや、待て」
「え……?」
戸惑いつつ、パトリーを見つめる。
ちょうどその時、彼も、私の方を見つめていた。そう、私の顔を凝視していたのだ。
「それは本心か」
パトリーに淡々とした調子で尋ねられた私は、言葉を詰まらせてしまう。何をどう返せばいいか分からなくて。
「黙るな。リリエラ」
「えっ、と……」
「何も隠すことはない。本心を言え」
ローズマリーには苛立っていた。だから、その苛立ちを聞いてもらえたなら、いいストレス発散になる。それはとてもありがたいことだ。
けれど、もし一言でも発すれば、止まらなくなりそう。
私が怖いのはそれだ。
パトリーは本心を言って良いと言ってくれてはいる。だが、もし私が本気でローズマリーの悪口を言ったら、彼は私のことを嫌いになるかもしれない。
そう思うと怖くて、本心を打ち明けられない。
「いえ……もう気にしないで下さい……」
絞り出すようにして言い放つと、パトリーは私の片腕を掴んだ。そして、そのままの体勢で彼は発する。
「それは駄目だ」
真剣な眼差しで見つめられると、心臓がトクンと脈打つような感覚を覚えた。また、時間が経つにつれて、胸の奥が微かに温かくなってくる。それも、春の日差しを浴びたような、じんわりと広がる温もり。こんな感覚は初めて。
「言い触らしはしない。だから、安心して本心を話せ。本心を言い合えるのが友というものだろう」
それでも、すぐには言えなかった。ローズマリーの嫌なところを述べることに、躊躇いがあったから。
「何でも話せ」
「……ごめんなさい、無理です」
言うか言わないか悩んだ末、私はそう言った。
愚痴を聞いてほしいという思いが微塵もなかったというわけではない。けれども、今の私には、自身の本心を打ち明ける勇気はまだなくて。
「パトリーを信頼していないというわけではなくて……けど、今はまだ、言えそうにありません」
パトリーは黙った。
が、十数秒ほど経過してから、口を開く。
「そうか。分かった」
けれど、こんな近くに居座られたら、不安しかない。
本調子でない状態の私がパトリーが満足する話し相手になれるとは、とても思えないからである。
しかも、アナは気を遣って退室していってしまった。
今、自室には、私とパトリーだけ。つまり、二人きり。
何か話さなくては、と思うけれど、なかなか上手く話せない。良い話題が思いつかない。蜘蛛の話は、既に手紙に書かれていたし。
そんな風に一人色々考えながら黙っていると、パトリーが口を開いた。
「やはり体調が優れないのか」
静かで淡々とした口調。
パトリーはぶれない。
「なぜ黙っている」
「……すみません」
どう返すべきか分からなくなった私は、つい、意味もなく謝ってしまう。そんな意味のない謝罪に、パトリーの片眉がぴくりと動いた。
「なぜ謝る」
「……何と返して良いか分からず」
「謝るほどのことではない」
つい「すみません」と言いそうになるのを、私は慌てて飲み込んだ。
パトリーは、意味もなく謝ったところを気にしていた。にもかかわらず、さらに意味のない謝罪を重ねたりなんかすれば、余計に気まずくなってしまいかねない。
だから私は、つい謝ってしまいそうになるのを堪え、お礼の言葉に変える。
「ありがとうございます」
するとパトリーは納得したような顔。
「その方が、ずっといい」
彼の表情がほんの僅かに柔らかくなったのを見て、私は内心安堵の溜め息を漏らす。
「罪を犯したならば、謝罪はすべきだ。だが、罪を犯していないにもかかわらず謝罪する必要はない」
「は、はい……」
いや、いきなり何を?
そんな風に思っていると、パトリーは話を振ってくる。
「そういえば、リリエラ」
「は、はい?」
「あの女に絡まれているのだろう?」
彼の言う「あの女」とは、ローズマリーのことだろうか。だとしたら、驚きだ。彼の口からそのような話が出てくるなんて、考えてもみなかった。
「……ローズマリーさんのことですか?」
「そうだ」
「少し、不快な思いをさせてしまったみたいで」
私は敢えて控えめな表現にしておいた。
理不尽! 鬱陶しい! 執拗! 悪質!
……なんて、言えるわけがないから。
「不快な思いを? 貴女がそんなことをするとは、とても思えないのだが」
パトリーは怪訝な顔。
「失礼なことをしてしまったみたいで。こちらが悪いんです」
「いや、待て」
「え……?」
戸惑いつつ、パトリーを見つめる。
ちょうどその時、彼も、私の方を見つめていた。そう、私の顔を凝視していたのだ。
「それは本心か」
パトリーに淡々とした調子で尋ねられた私は、言葉を詰まらせてしまう。何をどう返せばいいか分からなくて。
「黙るな。リリエラ」
「えっ、と……」
「何も隠すことはない。本心を言え」
ローズマリーには苛立っていた。だから、その苛立ちを聞いてもらえたなら、いいストレス発散になる。それはとてもありがたいことだ。
けれど、もし一言でも発すれば、止まらなくなりそう。
私が怖いのはそれだ。
パトリーは本心を言って良いと言ってくれてはいる。だが、もし私が本気でローズマリーの悪口を言ったら、彼は私のことを嫌いになるかもしれない。
そう思うと怖くて、本心を打ち明けられない。
「いえ……もう気にしないで下さい……」
絞り出すようにして言い放つと、パトリーは私の片腕を掴んだ。そして、そのままの体勢で彼は発する。
「それは駄目だ」
真剣な眼差しで見つめられると、心臓がトクンと脈打つような感覚を覚えた。また、時間が経つにつれて、胸の奥が微かに温かくなってくる。それも、春の日差しを浴びたような、じんわりと広がる温もり。こんな感覚は初めて。
「言い触らしはしない。だから、安心して本心を話せ。本心を言い合えるのが友というものだろう」
それでも、すぐには言えなかった。ローズマリーの嫌なところを述べることに、躊躇いがあったから。
「何でも話せ」
「……ごめんなさい、無理です」
言うか言わないか悩んだ末、私はそう言った。
愚痴を聞いてほしいという思いが微塵もなかったというわけではない。けれども、今の私には、自身の本心を打ち明ける勇気はまだなくて。
「パトリーを信頼していないというわけではなくて……けど、今はまだ、言えそうにありません」
パトリーは黙った。
が、十数秒ほど経過してから、口を開く。
「そうか。分かった」
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