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4話「パトリー・ヘリオドール」
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突如現れた狸に似た男性、ボク・ヘリオドール。彼は出会ってまもない私に「息子に会ってみないか」なんて言い出した。私は最初、怪しいとしか思えなくて。でも、彼の人の好さそうな顔を見ていたら悪質な誘いだとは思えなくなり、取り敢えずついていってみることにした。ちょうどその頃、パーティーは本格的に始まっていたが、私はボクについて歩くだけ。ほっとするような、少し残念なような、言葉にできない心持ちだった。
「パトリー様! あたくしとお話しませんこと!?」
「断る。化粧が濃く、好みでない」
「パトリー殿! 吾輩と共に人生を歩んでくれぬだろうか!?」
「断る。重い気持ちは、負担でしかない」
「パトリー様ぁ。うちと今度お茶せぇへん?」
「断る。積極的な者は、面倒臭い」
前を行く男性・ボクが足を止めた時、幾人もの女性に取り囲まれている青年の姿が視界に入った。
背が高く、眉はやや太めで、表情は硬い。そんな青年だ。女性に囲まれているにもかかわらずデレデレしていないところは好印象。ただ、険しい表情をしているので、あまり話したくない。また、顔を合わせたとしても、私が話せなくなってしまいそうだ。
もしかして、その青年がボクの息子なのだろうか?
だとしたら……うぅ、少し胃が痛くなってきた。
「パトリー! 今いいかぁ?」
女性に囲まれている青年に向かって片手を掲げる、ボク。
直後、青年を取り囲む女性たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。針のような視線が痛い。
しかも、私は既にこんなにも痛い視線を浴びているにもかかわらず、青年本人はなかなかこちらを向かない。彼が早くやって来てくれれば、速やかに話が済み、ここから離れられるのに。
「パトリー! 無視するのは止めなさい!」
ボクは青年の方へとずんずん歩み寄っていく。が、青年はかなりの間無視を続け。結局、彼がこちらを向いた時には、ボクと私は彼にかなり近づいていた。
近づいていたこと自体は、まだ良い。だが、割って入る形になったがために、元々そこにいた女性らに睨まれてしまっている。
「父さん」
やがて、女性に取り囲まれていた青年が、ついにこちらを向いた。
イケメンというやつだ!
それが第一印象だった。
きりりとした眉。高い鼻。切れ長な目。
確かに、かっこいい。女性たちが集まるのも、分からないことはない。
だが私は、「人の魅力は外見だけでは判断できない!」と、一瞬彼に惚れそうになった自分を叱る。
「パトリー。父さんが可愛らしいお嬢さんを連れてきた」
ボクは少し横にずれ、私を、青年——パトリーの前へ押す。
「リリエラ・カルセドニーさんだよ」
狸に似た男性・ボクが、息子のパトリーに、私のことを紹介する。
「厚化粧でもない。言い寄ってくるでもない。慎ましい性格。パトリー、彼女はお前の好みに合った女性だと思うよ」
ボクから説明を受けたパトリーは、不快なものを見るような目でこちらを凝視してくる。
イケメンに見つめられるというのなら悪くはないが、眉間にしわを寄せながら凝視されるというのは嬉しくない。
「リリエラです……」
「パトリーだ」
少し空けて、彼は続ける。
「自ら名乗る分、他の女よりは利口なようだ」
妙に偉そうな言い方ではあるが、多分、褒めてくれているのだろう。
「それで、目的は何か」
「え」
「我が家の権力。地位。あるいは、私自身か。どれだ」
えぇー……。
そんな中から選択しろと言われても。
いや、そもそも、『目的』なんて言い方はおかしいのだ。私は何も、自ら進んで彼に近寄っていったわけではないのだから。
「目的はありません」
「あり得ない」
「嘘偽りはありません。ボクさんが声をかけて下さったので、来てみただけです」
ここは退けない。
目的などない——それが真実なのだから。
「……真実なのか」
「はい」
嘘をついていると思われてはいけない。だから私は、彼の顔を真っ直ぐに見るよう心掛ける。
暫し、沈黙。
それから十数秒が経過した頃、パトリーはようやく首を縦に動かす。
艶のある黒髪がさらりと揺れていた。
パトリーの髪は漆黒。耳を隠す程度の長さはあるが、長髪ではない。ただ、艶はある。そこらの女性たちより、ずっと綺麗な髪だ。
「そうか。それは信じよう」
「ありがとうございます」
「だが私は、パートナーという意味では女性を必要としていない」
え、そうなの?
「友人になら、なっても良いが」
またしても上から目線な発言。
私はそんなに下に見られているのだろうか。だとしたら悔しい。
パトリーが魅力ある青年だということは認めるが、だからといって、上から目線の失礼な発言をすんなり受け入れることはできない。
敬えとは言わない。
下からの物言いをしろとも言わない。
ただ、どんな関係であろうとも、最低限の礼儀というものは必要なはずだ。
「……その上から目線な言い方、止めていただけませんか」
友人になるならなおのこと。
「何だと?」
「友人というのは、両者が対等な関係でなければなりません」
するとパトリーは、二三秒ほど考えて、口を開く。
「そうか。……では改めて。友人で、よろしく頼む」
「パトリー様! あたくしとお話しませんこと!?」
「断る。化粧が濃く、好みでない」
「パトリー殿! 吾輩と共に人生を歩んでくれぬだろうか!?」
「断る。重い気持ちは、負担でしかない」
「パトリー様ぁ。うちと今度お茶せぇへん?」
「断る。積極的な者は、面倒臭い」
前を行く男性・ボクが足を止めた時、幾人もの女性に取り囲まれている青年の姿が視界に入った。
背が高く、眉はやや太めで、表情は硬い。そんな青年だ。女性に囲まれているにもかかわらずデレデレしていないところは好印象。ただ、険しい表情をしているので、あまり話したくない。また、顔を合わせたとしても、私が話せなくなってしまいそうだ。
もしかして、その青年がボクの息子なのだろうか?
だとしたら……うぅ、少し胃が痛くなってきた。
「パトリー! 今いいかぁ?」
女性に囲まれている青年に向かって片手を掲げる、ボク。
直後、青年を取り囲む女性たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。針のような視線が痛い。
しかも、私は既にこんなにも痛い視線を浴びているにもかかわらず、青年本人はなかなかこちらを向かない。彼が早くやって来てくれれば、速やかに話が済み、ここから離れられるのに。
「パトリー! 無視するのは止めなさい!」
ボクは青年の方へとずんずん歩み寄っていく。が、青年はかなりの間無視を続け。結局、彼がこちらを向いた時には、ボクと私は彼にかなり近づいていた。
近づいていたこと自体は、まだ良い。だが、割って入る形になったがために、元々そこにいた女性らに睨まれてしまっている。
「父さん」
やがて、女性に取り囲まれていた青年が、ついにこちらを向いた。
イケメンというやつだ!
それが第一印象だった。
きりりとした眉。高い鼻。切れ長な目。
確かに、かっこいい。女性たちが集まるのも、分からないことはない。
だが私は、「人の魅力は外見だけでは判断できない!」と、一瞬彼に惚れそうになった自分を叱る。
「パトリー。父さんが可愛らしいお嬢さんを連れてきた」
ボクは少し横にずれ、私を、青年——パトリーの前へ押す。
「リリエラ・カルセドニーさんだよ」
狸に似た男性・ボクが、息子のパトリーに、私のことを紹介する。
「厚化粧でもない。言い寄ってくるでもない。慎ましい性格。パトリー、彼女はお前の好みに合った女性だと思うよ」
ボクから説明を受けたパトリーは、不快なものを見るような目でこちらを凝視してくる。
イケメンに見つめられるというのなら悪くはないが、眉間にしわを寄せながら凝視されるというのは嬉しくない。
「リリエラです……」
「パトリーだ」
少し空けて、彼は続ける。
「自ら名乗る分、他の女よりは利口なようだ」
妙に偉そうな言い方ではあるが、多分、褒めてくれているのだろう。
「それで、目的は何か」
「え」
「我が家の権力。地位。あるいは、私自身か。どれだ」
えぇー……。
そんな中から選択しろと言われても。
いや、そもそも、『目的』なんて言い方はおかしいのだ。私は何も、自ら進んで彼に近寄っていったわけではないのだから。
「目的はありません」
「あり得ない」
「嘘偽りはありません。ボクさんが声をかけて下さったので、来てみただけです」
ここは退けない。
目的などない——それが真実なのだから。
「……真実なのか」
「はい」
嘘をついていると思われてはいけない。だから私は、彼の顔を真っ直ぐに見るよう心掛ける。
暫し、沈黙。
それから十数秒が経過した頃、パトリーはようやく首を縦に動かす。
艶のある黒髪がさらりと揺れていた。
パトリーの髪は漆黒。耳を隠す程度の長さはあるが、長髪ではない。ただ、艶はある。そこらの女性たちより、ずっと綺麗な髪だ。
「そうか。それは信じよう」
「ありがとうございます」
「だが私は、パートナーという意味では女性を必要としていない」
え、そうなの?
「友人になら、なっても良いが」
またしても上から目線な発言。
私はそんなに下に見られているのだろうか。だとしたら悔しい。
パトリーが魅力ある青年だということは認めるが、だからといって、上から目線の失礼な発言をすんなり受け入れることはできない。
敬えとは言わない。
下からの物言いをしろとも言わない。
ただ、どんな関係であろうとも、最低限の礼儀というものは必要なはずだ。
「……その上から目線な言い方、止めていただけませんか」
友人になるならなおのこと。
「何だと?」
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