4 / 4
4話
しおりを挟む
「……お辛いのですね。王女」
エリアスはベッドの横に片膝を立てて座り、静かに私の指を握る。
「私にうつしても構わないのですよ」
「エリアス、何を言っているの? そんなのダメよ」
「貴女を護れるなら風邪くらい平気です」
「平気なわけないわ。いくら貴方でも風邪には勝てないわよ」
恐らく無自覚なのだろうが、彼はいつも芝居がかった優しいことを言う。普段の暮らしではなかなか聞かないようなことを。
だからヴァネッサに「口説くな」と注意を受けるのだ。
「では私は何をすれば良いのでしょうか。何をすれば王女のお役に立てますか? どうか、教えて下さい」
そんな捨てられた子犬のような目で見つめられても……という気分である。「自分で考えてほしい」と時にはそう思うこともある。疲れている時は特に。
だが、自ら私のために何かしようとしてくれている彼を邪険に扱うのも、心苦しいものがある。私の中の善の部分が良しと言わないのだと思う。
「そうね……じゃあ、私が眠るまで傍にいてくれる?」
さすがに断られるだろうと思うことを頼んでみる。これなら無理だと返してくるはずだ。
——しかし、私の護衛隊長はそれほど普通な天使ではなかった。
「はい。常に貴女の傍に」
何の躊躇いもなくそう答え、曇りのない瞳で微笑む。
想像の遥か斜め上を行く——。それが私の護衛隊長・エリアスの恐ろしさである。
◆
翌日、私は起きるなりヴァネッサに凄まじい雷を落とされた。
結局彼は、本当に、私が眠りにつく直前まで傍にいたらしい。そっと片手を握ったままで。
寒い冬のよく晴れた日。私とエリアスに対するヴァネッサの説教は、昼過ぎまで続いた……。
◇終わり◇
エリアスはベッドの横に片膝を立てて座り、静かに私の指を握る。
「私にうつしても構わないのですよ」
「エリアス、何を言っているの? そんなのダメよ」
「貴女を護れるなら風邪くらい平気です」
「平気なわけないわ。いくら貴方でも風邪には勝てないわよ」
恐らく無自覚なのだろうが、彼はいつも芝居がかった優しいことを言う。普段の暮らしではなかなか聞かないようなことを。
だからヴァネッサに「口説くな」と注意を受けるのだ。
「では私は何をすれば良いのでしょうか。何をすれば王女のお役に立てますか? どうか、教えて下さい」
そんな捨てられた子犬のような目で見つめられても……という気分である。「自分で考えてほしい」と時にはそう思うこともある。疲れている時は特に。
だが、自ら私のために何かしようとしてくれている彼を邪険に扱うのも、心苦しいものがある。私の中の善の部分が良しと言わないのだと思う。
「そうね……じゃあ、私が眠るまで傍にいてくれる?」
さすがに断られるだろうと思うことを頼んでみる。これなら無理だと返してくるはずだ。
——しかし、私の護衛隊長はそれほど普通な天使ではなかった。
「はい。常に貴女の傍に」
何の躊躇いもなくそう答え、曇りのない瞳で微笑む。
想像の遥か斜め上を行く——。それが私の護衛隊長・エリアスの恐ろしさである。
◆
翌日、私は起きるなりヴァネッサに凄まじい雷を落とされた。
結局彼は、本当に、私が眠りにつく直前まで傍にいたらしい。そっと片手を握ったままで。
寒い冬のよく晴れた日。私とエリアスに対するヴァネッサの説教は、昼過ぎまで続いた……。
◇終わり◇
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
常に貴女の傍に
四季
恋愛
流されるままに生きてきたエリアスに、今、確かに存在している決意。
※この作品は自作『エンジェリカの王女』の番外編ですが、本編を読んでいない方でも全く理解できないことはないと思います。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ヴィッタの休日(ティータイム)
四季
ファンタジー
悪魔の娘ヴィッタはいつも気まぐれ。
※この作品は自作『エンジェリカの王女』の番外編ですが、本編を読んでいない方でも全く理解できないことはないと思います。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。
予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。
エリアスと二人の出会い
四季
ファンタジー
天使の国エンジェリカにて王女の護衛隊長を務めているエリアスは、優秀な人材を探していた。
※この作品は自作『エンジェリカの王女』の番外編ですが、本編を読んでいない方でも全く理解できないことはないと思います。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる