ぼくの憧れの人

四季

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 気づけば女性はぼくの目の前にまで来ていて、ぼくの顔を覗き込むようにしてきていた。

 近くで見ると桃色の髪はより一層綺麗。返り血に濡れはしているものの肌は滑らかだし、唇には髪に似た色の口紅を塗っておしゃれしている。それに何より瞳が美しい。赤系統の色の瞳は宝玉の一種のよう。



「カーリン・ブルペントリーツくんかしら~?」

「……は、はい」

「無事みたいね~良かった~」



 言いながら、女性はぼくの手足を自由にしてくれた。



「さ、これでもう大丈夫よ~」

「ありがとうございます」

「怖かったわよね~。大丈夫かしら、歩けそう~?」

「歩けます」

「安心したわ~。さ、行きまし——っ!?」



 女性の言葉が途切れる。

 驚いたぼくが女性を見ると、その左肩に先ほどまではなかったはずの傷ができていた。



「はは、甘いやつだな」



 しかも女性の向こう側に男一人が立っている。



「……まだいたのね~」

「馬鹿だろ」

「もう、痛いじゃない」

「ははは、そうだろうな。オレの魔術弾丸の威力はスゲーぜ」



 女性の左肩からは赤いものが溢れる。



「お前のことは知ってるぜ、ミカエラ。ばけもんみてーな怪力女だろ、きめーな」

「……余計なことばかり言うのね~」


 ミカエラという名前なのか、と思いつつも何もできずにいると、彼女は急に男に接近——男が放った魔術弾丸数発は左腕を盾にして防ぎ、右腕一本で武器を大きく振った——そしてそれは男の頭に命中した。



 男を倒したミカエラさんは暫しじっとした後、その場で崩れ落ちた。



「ミカエラさん!」



 ぼくは彼女に向かって走る。



「怪我を!」

「……平気よ~」



 彼女は顔を上げると微笑んだ。

 しかしぎこちない笑みになってしまっている。



「でも……あ! ちょっとすみません!」



 ぼくは赤く濡れたミカエラさんの左の肩と腕に手のひらを当てる。



「……ぼく?」

「能力を使います。一時的に痛みを抑える能力なんです」



 手のひらから光が溢れる。

 すると彼女は目を大きく開いた。



「痛くないわ!」



 ミカエラさんの瞳は煌めいていた。
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