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前編

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 私は小さい頃から草取りをして生きてきた。

 山や森へ出掛ける。そしてそこで売り物とできそうな種類の草を摘む。で、街へ帰り、草買取店へ行って売る。

 それが私の日課だった。

 でも、ちょっとしたきっかけからアイブという十歳ほど年上の男性と婚約することになって、それからは草を取りには行けなくなった。

 彼は私が草取りをすることを許さなかったのだ。

 以前一度行きたいと言ってみたことがあるのだが、貧乏臭いことをするな、と言われてしまって無理だった。

 草は食料や薬にもなるので売らなくても役立つこともあるのだが……。

 でも、植物について何も知らない彼には、そういうことは理解できないようであった。


 ◆


「お前! 草取りに勝手に行ったそうだな!」

 婚約から数ヶ月が経ったある日、私は、少し散歩していると怪我しているうさぎに似た魔物を発見した。生きてはいるが傷が大きく辛そうだったので何とか苦しみを緩和したく思って、近くの森へ入り手当てに使える草を集めてきた。

 だがその話がアイブの耳に入ってしまって。

「行くなと言っただろう!!」

 今、激怒されている。

「ごめんなさい……でも、怪我している魔物がいて……放ってはおけなくて……」
「黙れ! そんなもの言い訳に過ぎん!」
「怪我しているのを……放ってはおけません……」
「魔物? そんなもの放っておけよ! どうせ人間でもないのだから!」

 魔物の命も、人間の命も、同じ命なのになぁ……。

「魔物なんぞを助けようとしたとは馬鹿そのものだな」
「……すみません。でも、同じ命です、放っておくことはできません」

 すると彼は顔を真っ赤にする。

「口ごたえするとは! 最低だな! あぁそうだ、もう、こうなったら婚約なんぞ破棄してやる。この婚約は本日をもって破棄だ!!」
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