57 / 61
2部
56.撤退、そして
しおりを挟む
「あれが……すべてのコアになってたとでも言うのか……?」
アウディーは目を大きく開き瞳を震わせている。まるで信じられないものを目撃したかのような目つき。僅かに震えながらではあるが時が止まっているようにも見えるくらい、彼は今、告げられた言葉に驚いていた。
「アウディーおじさま、大丈夫ですか?」
「え――あ、ああ、大丈夫だ。わりぃぼんやりして」
フィオーネはアウディーに目を向け眼球に少し不安げな色を滲ませる。それに対しアウディーは少しばかり申し訳なさそうな顔をした。が、それでも、二人の関係が良好であることに変わりはない。
「とにかく、一旦神殿に帰るか」
「そうですね」
幸い付近に敵はいない。
今は自由に動ける。
フィオーネとアウディーはひとまずその場から離れ神殿へ戻ることにした。
◆
「ただいま戻りました!」
神殿敷地内に戻ったフィオーネはレフィエリシナに遭遇。
明るく挨拶しておく。
「ああ良かったフィオーネ……無事で良かった」
レフィエリシナは胸を撫で下ろしたが――。
「というより! どうして勝手に出ていっていたの!」
――きっちり注意もする。
「勝手な行動は慎むようにと言ったでしょう!」
「う……ごめんなさい」
フィオーネは視線を横へずらす。
やらかした自覚はあった。自分だけの判断で勝手に外へ出て好きなように行動したのだ、怒られるかもしれないということは分かっていないわけではない。もっとも、それを分かっていてもなおじっとしていられなかったのだが。
「まったく、貴女は女王なのよ? その身に何かあったらどうするのよ」
「女王だから、です」
「……何ですって?」
「女王だからこそ、民のために戦いたかったのです」
フィオーネは想いを真っ直ぐそのまま伝えることにした。
事実を捻じ曲げて伝えても意味がないと思ったから。
レフィエリシナにはレフィエリシナの女王の道があるけれど、フィオーネにはまた別の像がある――そこはたとえなんと言われようとも変わらない。
フィオーネはそれを伝えたかった。
「じっとしてなどいられません」
目の前の女性を真っ直ぐに見つめるフィオーネ。
「人々を護るために戦うのが今の私の使命です」
どこまでも揺らぎのない言葉、それに圧されたのか、レフィエリシナは一度溜め息をついてから呆れたように言葉を紡ぐ。
「……結果的に上手くいったから良かったけれど」
レフィエリシナは呆れ顔でフィオーネを見つめ返し、それから、一歩近づいてその身を抱き締める。
「無事で良かった」
母と呼び敬愛する人が耳もとで囁いた言葉。
それにフィオーネは涙ぐんでしまいそうになる。
そこに理由なんてなかった。
「ありがとう」
静けさの中、レフィエリシナの一言を最後に言葉は途切れた。
◆
あの日をもって、オヴァヴァ鋼国による侵略は停止した。
国内には敵兵の残りが複数いたため、それらは、レフィエリの警備隊によって駆除作戦が行われ。その成果もあり、国内の敵兵はやがてほぼすべて狩ることができた。
また、現在、街は復興作業に追われている。
街へ敵が突入してからの期間はそれほど長くはなかったものの、犠牲は小さくはなかった。多くの建物が被害を受け、石畳が破壊されるなどという現象も街の多くの箇所で起きてしまった。これから、それらをどうにかしなくてはならない。
一方、フィオーネはというと、オヴァヴァ鋼国の現統治者であるIUI――イーウィと読むが――その者との初会談に臨んだ。
会場は国境付近。
当然レフィエリシナも同行した。
その中でフィオーネらはIUIから侵略は南部組織による勝手な行動であったことを伝えられた。また、それでも一国の代表として、と、謝罪を受けた。また、IUI及びオヴァヴァ鋼国より、復興のため金銭的に支援をするという申し出もあった。
「良かったですね、お母様。会談、無事終われそうで」
「そうね」
会談の日の夜、宿泊する客室内でフィオーネとレフィエリシナはお茶を飲みながら言葉を交わす。
二人が口にしているお茶は既に毒見が不自然な点がないかと確認したものだ。
「これから……レフィエリはどうなるのでしょう」
フィオーネは茶色いカップを手にしたまま意味もなく天井を見上げる。
「わたしにできることはわたしがするわ」
「……お母様」
「女王の位を貴女に渡したのは混乱の中でわたしに何があっても良いように、よ」
「といいますと?」
「生き延びたのなら、できることは引き続き行います。――そういうことよ」
瞬間、フィオーネは瞳を煌めかせる。
「本当ですか!!」
フィオーネは子どもみたいな顔で喜んでいた。
「良かった! 不安だったのです! 馬鹿な私に何ができるだろうって! ですが! お母様が力を貸してくださるなら安心です!」
アウディーは目を大きく開き瞳を震わせている。まるで信じられないものを目撃したかのような目つき。僅かに震えながらではあるが時が止まっているようにも見えるくらい、彼は今、告げられた言葉に驚いていた。
「アウディーおじさま、大丈夫ですか?」
「え――あ、ああ、大丈夫だ。わりぃぼんやりして」
フィオーネはアウディーに目を向け眼球に少し不安げな色を滲ませる。それに対しアウディーは少しばかり申し訳なさそうな顔をした。が、それでも、二人の関係が良好であることに変わりはない。
「とにかく、一旦神殿に帰るか」
「そうですね」
幸い付近に敵はいない。
今は自由に動ける。
フィオーネとアウディーはひとまずその場から離れ神殿へ戻ることにした。
◆
「ただいま戻りました!」
神殿敷地内に戻ったフィオーネはレフィエリシナに遭遇。
明るく挨拶しておく。
「ああ良かったフィオーネ……無事で良かった」
レフィエリシナは胸を撫で下ろしたが――。
「というより! どうして勝手に出ていっていたの!」
――きっちり注意もする。
「勝手な行動は慎むようにと言ったでしょう!」
「う……ごめんなさい」
フィオーネは視線を横へずらす。
やらかした自覚はあった。自分だけの判断で勝手に外へ出て好きなように行動したのだ、怒られるかもしれないということは分かっていないわけではない。もっとも、それを分かっていてもなおじっとしていられなかったのだが。
「まったく、貴女は女王なのよ? その身に何かあったらどうするのよ」
「女王だから、です」
「……何ですって?」
「女王だからこそ、民のために戦いたかったのです」
フィオーネは想いを真っ直ぐそのまま伝えることにした。
事実を捻じ曲げて伝えても意味がないと思ったから。
レフィエリシナにはレフィエリシナの女王の道があるけれど、フィオーネにはまた別の像がある――そこはたとえなんと言われようとも変わらない。
フィオーネはそれを伝えたかった。
「じっとしてなどいられません」
目の前の女性を真っ直ぐに見つめるフィオーネ。
「人々を護るために戦うのが今の私の使命です」
どこまでも揺らぎのない言葉、それに圧されたのか、レフィエリシナは一度溜め息をついてから呆れたように言葉を紡ぐ。
「……結果的に上手くいったから良かったけれど」
レフィエリシナは呆れ顔でフィオーネを見つめ返し、それから、一歩近づいてその身を抱き締める。
「無事で良かった」
母と呼び敬愛する人が耳もとで囁いた言葉。
それにフィオーネは涙ぐんでしまいそうになる。
そこに理由なんてなかった。
「ありがとう」
静けさの中、レフィエリシナの一言を最後に言葉は途切れた。
◆
あの日をもって、オヴァヴァ鋼国による侵略は停止した。
国内には敵兵の残りが複数いたため、それらは、レフィエリの警備隊によって駆除作戦が行われ。その成果もあり、国内の敵兵はやがてほぼすべて狩ることができた。
また、現在、街は復興作業に追われている。
街へ敵が突入してからの期間はそれほど長くはなかったものの、犠牲は小さくはなかった。多くの建物が被害を受け、石畳が破壊されるなどという現象も街の多くの箇所で起きてしまった。これから、それらをどうにかしなくてはならない。
一方、フィオーネはというと、オヴァヴァ鋼国の現統治者であるIUI――イーウィと読むが――その者との初会談に臨んだ。
会場は国境付近。
当然レフィエリシナも同行した。
その中でフィオーネらはIUIから侵略は南部組織による勝手な行動であったことを伝えられた。また、それでも一国の代表として、と、謝罪を受けた。また、IUI及びオヴァヴァ鋼国より、復興のため金銭的に支援をするという申し出もあった。
「良かったですね、お母様。会談、無事終われそうで」
「そうね」
会談の日の夜、宿泊する客室内でフィオーネとレフィエリシナはお茶を飲みながら言葉を交わす。
二人が口にしているお茶は既に毒見が不自然な点がないかと確認したものだ。
「これから……レフィエリはどうなるのでしょう」
フィオーネは茶色いカップを手にしたまま意味もなく天井を見上げる。
「わたしにできることはわたしがするわ」
「……お母様」
「女王の位を貴女に渡したのは混乱の中でわたしに何があっても良いように、よ」
「といいますと?」
「生き延びたのなら、できることは引き続き行います。――そういうことよ」
瞬間、フィオーネは瞳を煌めかせる。
「本当ですか!!」
フィオーネは子どもみたいな顔で喜んでいた。
「良かった! 不安だったのです! 馬鹿な私に何ができるだろうって! ですが! お母様が力を貸してくださるなら安心です!」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
蛮族女王の娘 第2部【共和国編】
枕崎 純之助
ファンタジー
女戦士ばかりの蛮族ダニア。
その女王ブリジットの娘として生まれたプリシラ。
外出先の街で彼女がほんのイタズラ心で弟のエミルを連れ出したことが全ての始まりだった。
2人は悪漢にさらわれ、紆余曲折を経て追われる身となったのだ。
追ってくるのは若干16歳にして王国軍の将軍となったチェルシー。
同じダニアの女王の系譜であるチェルシーとの激しい戦いの結果、プリシラは弟のエミルを連れ去られてしまう。
女王である母と合流した失意のプリシラは、エミル奪還作戦の捜索隊に参加するべく名乗りを上げるのだった。
蛮族女王の娘が繰り広げる次世代の物語。
大河ファンタジー第二幕。
若さゆえの未熟さに苦しみながらも、多くの人との出会いを経て成長していく少女と少年の行く末やいかに……。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる