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2部
36.調査のため北の森へ向かうと……(1)
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その日、レフィエリシナから呼び出しを受けたのは、リベルとエディカだった。
呼び出しを拒否する理由はないため二人とも素直にレフィエリシナのもとへ向かったのだが――リベルも、エディカも、同じ場所へ現れたお互いの顔に驚いていた。
リベルとエディカが関わりをこれまで持つことはあまりなかった。
まったくなかったというわけでもないが。
それに、そもそも、共通の話題がフィオーネ関連くらいしかないのだ。
「まさか……アンタもいるとは、な」
「うんうんー、珍しいよねー」
出会いがしら、互いに少しだけ言葉を発して、それからレフィエリシナの方へと視線を向ける。
二人の前に立つレフィエリシナは凛とした佇まいだった。
女王の座はフィオーネに譲った彼女だがそれで終わりではなかった――レフィエリシナの気高い姿は今も変わらずそこに在る。
あくまで女王という席から降りただけだ。
現在も、フィオーネへ教えつつではあるが、担当できる仕事は自身でこなしている。
「本日は二人に頼みごとがあり呼びました」
レフィエリシナはそう言葉を始める。
「ここのところ、北の森周辺にて怪しい動きがあるそうです。その件に関して、調査してきてほしいのです」
リベルはにこにこしたままレフィエリシナの方へ顔を向けている。
それとは対照的に、エディカの表情は固くまるで剣先のようだ。
「あの、怪しい動きって?」
真剣な面持ちのエディカが問う。
「真偽は定かではありませんが、レフィエリに攻め込む作戦があるらしいという情報が流れています」
答えを発するレフィエリシナも同じように真剣な面持ちだった。
室内の空気はぴりりとしたものであり、既に戦闘態勢に入っているかのようなものであったが、そんな中でもリベルだけは春風のような笑みを浮かべている。
「はいはーい! じゃ、北の森行ってきまーす!」
いきなりぶっこむリベル。
「お、おい! 自己中心的過ぎだろ!」
エディカが突っ込みを入れると、リベルは彼女へどこか冷たさのある視線を向けて「どうして?」と返す。エディカが言葉を詰まらせれば、リベルはすぐに面に笑みを戻した。
「エディカ、よろしくねー?」
リベルは黒い手袋をはめたままの片手を握手を求めるかのように差し出すのだが。
「……ったく、なんでアンタと」
対するエディカはどこか不満げで。
「えー? 僕じゃ力不足かなー?」
「調子狂うんだよ」
「嫌かなー?」
「ま、でも、仕方ねぇな。レフィエリシナ様には逆らえないしな」
こうして結成される心の距離が離れた二人組。
調査のため北の森へ向かうことになった。
◆
北の森は静かだった。
空にはまだ明るさがある時間帯で、けれど、周辺に人の気配はない。
途中までは馬車で進めたが、馬車を降りてからは徒歩での移動となる。これはどうしようもないこと。どう頑張ろうとも変えられないことだ。
「そういえばさー、前、フィオーネと一緒に来たことあるんだー」
整備されていない歩きづらい道を歩いていた時リベルが急にそんな話題を提供した。
「そうなのか?」
いきなり話を振られたエディカは少し戸惑ったような顔をしていた。
昔からの知り合いであるかのような軽い雰囲気で話しかけられるとは思っていなかったのだろう。
「魔獣退治だったかなぁ」
「フィオーネをそんな危険な目に遭わせたのかよ」
「彼女強かったよー」
「……強かっ、た?」
「そうだよー。剣がね。初めは緊張し過ぎたり逃げ出したりって感じだったんだけどさー、そのうち慣れてきたみたいで、魔獣ばんばん倒してたよー」
刹那、草が擦れ合うような音が空気を揺らし、出現したのは――紋章が刻まれた大きな岩を複数重ねたような化け物。
それへの反応速度はエディカよりリベルの方が勝っていた。
リベルは「下がって!」と鋭く発しエディカを庇うように化け物と彼女の間に入る。そして小指薬指を除く指を立てた右手を前方へ出せば、その指先付近に濃紺のインクで描かれたようなほのかに光る図形が出現する。目を大きく開いたまま固まるエディカ。そうしているうちにも図形は広がりを見せ――やがて放たれる、人の上半身をまるごと吹き飛ばしそうな太さの青い光線。凄まじいエネルギーが目の前の化け物を貫く。
そして静寂が戻る。
岩を重ねたような化け物はただの複数の石ころになった。
「すっげぇ威力……」
「ごめんね、急に、びっくりさせちゃったかなー」
リベルは涼しい顔をしている。
「ってか! 何だよ『下がって!』って!」
「えー?」
「アンタみたいな華奢な男のせりふじゃねぇだろ!」
はっきり言われたリベルは笑顔のまま首を横に倒す。
「そうかなぁ」
はぁー、と長めの溜め息をつくエディカ。
「アンタみたいなのは後ろで戦ってればいいんだって!」
「何それかんじわるーい」
「前出ちゃ危ないだろ!?」
「えー、心配してくれてるんだー? 優しーい、紳士ー」
「はぁ!? 何言ってんだ意味分からん!!」
化け物の片づき少し心を緩めて喋っていた二人だったが――刹那、リベルは急に目の前のエディカを突き飛ばした。
急に押されたエディカはバランスを崩し近くの草の塊に頭から突っ込んでしまう。
何が起きたのか分からず突き飛ばされたことへの文句を吐こうと思うエディカだったが、背後から男の下品な声がすることに気づき、葉を掻き分けるようにして隙間から様子を窺うにとどめた。
呼び出しを拒否する理由はないため二人とも素直にレフィエリシナのもとへ向かったのだが――リベルも、エディカも、同じ場所へ現れたお互いの顔に驚いていた。
リベルとエディカが関わりをこれまで持つことはあまりなかった。
まったくなかったというわけでもないが。
それに、そもそも、共通の話題がフィオーネ関連くらいしかないのだ。
「まさか……アンタもいるとは、な」
「うんうんー、珍しいよねー」
出会いがしら、互いに少しだけ言葉を発して、それからレフィエリシナの方へと視線を向ける。
二人の前に立つレフィエリシナは凛とした佇まいだった。
女王の座はフィオーネに譲った彼女だがそれで終わりではなかった――レフィエリシナの気高い姿は今も変わらずそこに在る。
あくまで女王という席から降りただけだ。
現在も、フィオーネへ教えつつではあるが、担当できる仕事は自身でこなしている。
「本日は二人に頼みごとがあり呼びました」
レフィエリシナはそう言葉を始める。
「ここのところ、北の森周辺にて怪しい動きがあるそうです。その件に関して、調査してきてほしいのです」
リベルはにこにこしたままレフィエリシナの方へ顔を向けている。
それとは対照的に、エディカの表情は固くまるで剣先のようだ。
「あの、怪しい動きって?」
真剣な面持ちのエディカが問う。
「真偽は定かではありませんが、レフィエリに攻め込む作戦があるらしいという情報が流れています」
答えを発するレフィエリシナも同じように真剣な面持ちだった。
室内の空気はぴりりとしたものであり、既に戦闘態勢に入っているかのようなものであったが、そんな中でもリベルだけは春風のような笑みを浮かべている。
「はいはーい! じゃ、北の森行ってきまーす!」
いきなりぶっこむリベル。
「お、おい! 自己中心的過ぎだろ!」
エディカが突っ込みを入れると、リベルは彼女へどこか冷たさのある視線を向けて「どうして?」と返す。エディカが言葉を詰まらせれば、リベルはすぐに面に笑みを戻した。
「エディカ、よろしくねー?」
リベルは黒い手袋をはめたままの片手を握手を求めるかのように差し出すのだが。
「……ったく、なんでアンタと」
対するエディカはどこか不満げで。
「えー? 僕じゃ力不足かなー?」
「調子狂うんだよ」
「嫌かなー?」
「ま、でも、仕方ねぇな。レフィエリシナ様には逆らえないしな」
こうして結成される心の距離が離れた二人組。
調査のため北の森へ向かうことになった。
◆
北の森は静かだった。
空にはまだ明るさがある時間帯で、けれど、周辺に人の気配はない。
途中までは馬車で進めたが、馬車を降りてからは徒歩での移動となる。これはどうしようもないこと。どう頑張ろうとも変えられないことだ。
「そういえばさー、前、フィオーネと一緒に来たことあるんだー」
整備されていない歩きづらい道を歩いていた時リベルが急にそんな話題を提供した。
「そうなのか?」
いきなり話を振られたエディカは少し戸惑ったような顔をしていた。
昔からの知り合いであるかのような軽い雰囲気で話しかけられるとは思っていなかったのだろう。
「魔獣退治だったかなぁ」
「フィオーネをそんな危険な目に遭わせたのかよ」
「彼女強かったよー」
「……強かっ、た?」
「そうだよー。剣がね。初めは緊張し過ぎたり逃げ出したりって感じだったんだけどさー、そのうち慣れてきたみたいで、魔獣ばんばん倒してたよー」
刹那、草が擦れ合うような音が空気を揺らし、出現したのは――紋章が刻まれた大きな岩を複数重ねたような化け物。
それへの反応速度はエディカよりリベルの方が勝っていた。
リベルは「下がって!」と鋭く発しエディカを庇うように化け物と彼女の間に入る。そして小指薬指を除く指を立てた右手を前方へ出せば、その指先付近に濃紺のインクで描かれたようなほのかに光る図形が出現する。目を大きく開いたまま固まるエディカ。そうしているうちにも図形は広がりを見せ――やがて放たれる、人の上半身をまるごと吹き飛ばしそうな太さの青い光線。凄まじいエネルギーが目の前の化け物を貫く。
そして静寂が戻る。
岩を重ねたような化け物はただの複数の石ころになった。
「すっげぇ威力……」
「ごめんね、急に、びっくりさせちゃったかなー」
リベルは涼しい顔をしている。
「ってか! 何だよ『下がって!』って!」
「えー?」
「アンタみたいな華奢な男のせりふじゃねぇだろ!」
はっきり言われたリベルは笑顔のまま首を横に倒す。
「そうかなぁ」
はぁー、と長めの溜め息をつくエディカ。
「アンタみたいなのは後ろで戦ってればいいんだって!」
「何それかんじわるーい」
「前出ちゃ危ないだろ!?」
「えー、心配してくれてるんだー? 優しーい、紳士ー」
「はぁ!? 何言ってんだ意味分からん!!」
化け物の片づき少し心を緩めて喋っていた二人だったが――刹那、リベルは急に目の前のエディカを突き飛ばした。
急に押されたエディカはバランスを崩し近くの草の塊に頭から突っ込んでしまう。
何が起きたのか分からず突き飛ばされたことへの文句を吐こうと思うエディカだったが、背後から男の下品な声がすることに気づき、葉を掻き分けるようにして隙間から様子を窺うにとどめた。
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