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2部
34.どんな道も一歩から
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「あー、くそっ! 重てぇっ!」
大きな茶色の箱を持ち上げようとして苦労している男がいた。
見るからに腕力のありそうな大男だが、かなり重量のある箱を持ち上げることには苦戦している。
「大丈夫ですか?」
そんな男の前に現れたのはフィオーネ。
「んなっ……フィオーネ!?」
「はい、よければ手伝わせてください」
フィオーネはレフィエリシナに可愛がられていたこともあって前から有名人だ。そのため、神殿に出入りしている者であれば、大抵名と顔くらいは知っている。たとえ接点はなくとも、だ。
「二人で運びましょう」
両手を箱に添えるフィオーネ。
男は困惑した面持ちのまま流れに乗せられ箱を持つ。
そして二人で持ち上げると――何とか持ち上がった。
「おっ、いけそうだ」
「ですね! では運びましょう」
「おう」
「どこへ運ぶのですか?」
「食糧庫」
「そうですか!」
驚くほど重い箱も、二人で持てば持ち上がるし運べる。
男とフィオーネは箱を食糧庫へ運び込むことができた。
「ふう! これでみっしょんくりあですね!」
特別汗をかいているわけではないが汗を拭くような動作をしてみせるフィオーネ。
「……わりぃな、フィオーネ」
「へ?」
「その……手伝ってもらって、よ」
「ああはい! 大丈夫です! 少しは力になれて良かったです」
真っ直ぐに笑うフィオーネを見て、男は調子が狂うとでも言いたげにどこか気まずそうな顔をした。
「しかしこの食糧庫、凄く広いですね」
「あ、ああ」
「まだ運ぶ箱がありますか?」
「いや、今ので今日は最後だ」
「なら良かったです!」
食糧庫内には独特の匂いがある。
けれどもフィオーネはそれが好きだった。
どこか懐かしいような香りで。
つい、手をぱたぱたして、もっと嗅ぎたくなってしまう。
「さっきから何してるんだ?」
「匂いを嗅いでます」
「に、匂い……そ、そうだったんだな」
男は少し引き気味だった。
女王となったフィオーネがあまりに素朴で純粋でいきっていなくて――思っていた姿と違っていて、逆にどう反応して良いものか分からなくなっていた。
◆
後日。
「フィオーネ、食料の運搬を手伝ったそうね」
レフィエリシナが唐突にフィオーネへそんな言葉をかける。
女王の職務について習っていたのが一段落したタイミングだった。
「え、どうしてそれを……」
「男性がお礼を」
「ええっ」
「印象が大きく変わった、とても良い人だ――ですって」
レフィエリシナは羽毛のように微笑む。
フィオーネは恥ずかしくて頬を僅かに染めてしまう。
「偉いわねフィオーネ、わたしは……あまりそういうことはしてこなかったから」
「い、いえ! お母様は! 生きていらっしゃるだけで尊敬されていました!」
「素晴らしいことと思うわ」
「ありがとうございます! お母様!」
「でも……無理し過ぎないようにね」
「あ、はい。気をつけます」
どんな道も一歩から。
大きな茶色の箱を持ち上げようとして苦労している男がいた。
見るからに腕力のありそうな大男だが、かなり重量のある箱を持ち上げることには苦戦している。
「大丈夫ですか?」
そんな男の前に現れたのはフィオーネ。
「んなっ……フィオーネ!?」
「はい、よければ手伝わせてください」
フィオーネはレフィエリシナに可愛がられていたこともあって前から有名人だ。そのため、神殿に出入りしている者であれば、大抵名と顔くらいは知っている。たとえ接点はなくとも、だ。
「二人で運びましょう」
両手を箱に添えるフィオーネ。
男は困惑した面持ちのまま流れに乗せられ箱を持つ。
そして二人で持ち上げると――何とか持ち上がった。
「おっ、いけそうだ」
「ですね! では運びましょう」
「おう」
「どこへ運ぶのですか?」
「食糧庫」
「そうですか!」
驚くほど重い箱も、二人で持てば持ち上がるし運べる。
男とフィオーネは箱を食糧庫へ運び込むことができた。
「ふう! これでみっしょんくりあですね!」
特別汗をかいているわけではないが汗を拭くような動作をしてみせるフィオーネ。
「……わりぃな、フィオーネ」
「へ?」
「その……手伝ってもらって、よ」
「ああはい! 大丈夫です! 少しは力になれて良かったです」
真っ直ぐに笑うフィオーネを見て、男は調子が狂うとでも言いたげにどこか気まずそうな顔をした。
「しかしこの食糧庫、凄く広いですね」
「あ、ああ」
「まだ運ぶ箱がありますか?」
「いや、今ので今日は最後だ」
「なら良かったです!」
食糧庫内には独特の匂いがある。
けれどもフィオーネはそれが好きだった。
どこか懐かしいような香りで。
つい、手をぱたぱたして、もっと嗅ぎたくなってしまう。
「さっきから何してるんだ?」
「匂いを嗅いでます」
「に、匂い……そ、そうだったんだな」
男は少し引き気味だった。
女王となったフィオーネがあまりに素朴で純粋でいきっていなくて――思っていた姿と違っていて、逆にどう反応して良いものか分からなくなっていた。
◆
後日。
「フィオーネ、食料の運搬を手伝ったそうね」
レフィエリシナが唐突にフィオーネへそんな言葉をかける。
女王の職務について習っていたのが一段落したタイミングだった。
「え、どうしてそれを……」
「男性がお礼を」
「ええっ」
「印象が大きく変わった、とても良い人だ――ですって」
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フィオーネは恥ずかしくて頬を僅かに染めてしまう。
「偉いわねフィオーネ、わたしは……あまりそういうことはしてこなかったから」
「い、いえ! お母様は! 生きていらっしゃるだけで尊敬されていました!」
「素晴らしいことと思うわ」
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「でも……無理し過ぎないようにね」
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