28 / 61
1部
27.まったくもって成果なし
しおりを挟む
自室内にいることを求められているアウディーのもとへレフィエリシナがやって来た。
「調子はどうかしら、アウディー」
部屋の主である扉を開けるとすぐそこにレフィエリシナが立っていた。
しかし優しさに満ちた表情ではない。
「あ……れ、レフィエリシナ、様」
気まずさに上下の唇を近づけるアウディー。
「少しは反省できた?」
「できました」
今はもう夜、外は暗い。そして、人通りもあまりない。神殿内は一応常に警備されているため安全ではあるのだが、見た目はどことなく怪しげだ。そう感じさせるのは、恐らく、通路などの多くの部分が無機質な素材でできているからだろう。
「もうあのようなことをしないように、良いですね?」
「……はい」
アウディーは叱られた子どものように俯き気味だった。
大きな身体の持ち主なのに小さくなっている。
「では明日午後より外へ出ることを認めます」
「ありがとうございます……!」
「リベルからそのようにしてほしいとの話があったからよ、感謝は彼にしなさい」
「そ、そうでしたか……」
そこで沈黙が訪れる。
どちらも言葉を発さず、無の時間だけが流れてゆく。
「あ、そうでした、レフィエリシナ様にお聞きしたいことが……」
やがて口を開いたのはアウディー。
本当は直接聞いてみるなんて気が進まない――それでもリベルから頼まれ引き受けてしまったから今さらなかったことにもできず、思いきってここで問いを放ってみることにしたのである。
「レフィエリシナ様に隠し事が、あると……聞きまして、それで……隠していることとは何なのです……?」
レフィエリシナの顔面からすっと熱が引く。
そして恐ろしいほど冷ややかな顔つきになる。
「――リベルね」
ガラス細工のような彼女の唇を通り過ぎて流れ出る言葉。
「彼が問わせているのでしょう?」
アウディーは気まずそうに視線を逸らす。
「皆揃って暴こうとして――何なのかしら」
「あ、いや、俺はただ……何か、レフィエリシナ様がお悩みだったらと、不安で……」
うにうにしてしまうアウディー。
それに対し、レフィエリシナは口角を僅かに持ち上げて笑みを浮かべる。
「残念だけれど、わたしには隠し事などないわ」
目つきはどこか冷ややかなままで。けれども口もとには笑みが浮かんでいる。それこそ、絶対に暴かせない、とでも言っているかのような笑み。絶対的な自信を窺わせるような色。
「嘘だと思うかしら」
「……いえ」
「そうよね?」
「ああ、はい。もちろん。俺はレフィエリシナ様を信じています」
少し間を空けて、けど、と続ける。
「もし、本当に、どうしようもなくなったら……その時は誰かに頼ってくださいよ」
アウディーは勇気を振り絞るように声を発している。
大柄な肉体に似合わない繊細さである。
「レフィエリシナ様が辛い想いをなさるようなことがあってはなりませんから……そんなことになっては妻に顔向けできません……」
するとレフィエリシナは顔を軽く右へ傾けて微笑む。
「そうですね、ありがとうアウディー」
その後レフィエリシナはアウディーの前から去った。
話は一見綺麗にまとまったかのようだが――肝心なところはまったく聞き出せなかった。
すべて済んでから、一人がっかりするアウディーだった。
「調子はどうかしら、アウディー」
部屋の主である扉を開けるとすぐそこにレフィエリシナが立っていた。
しかし優しさに満ちた表情ではない。
「あ……れ、レフィエリシナ、様」
気まずさに上下の唇を近づけるアウディー。
「少しは反省できた?」
「できました」
今はもう夜、外は暗い。そして、人通りもあまりない。神殿内は一応常に警備されているため安全ではあるのだが、見た目はどことなく怪しげだ。そう感じさせるのは、恐らく、通路などの多くの部分が無機質な素材でできているからだろう。
「もうあのようなことをしないように、良いですね?」
「……はい」
アウディーは叱られた子どものように俯き気味だった。
大きな身体の持ち主なのに小さくなっている。
「では明日午後より外へ出ることを認めます」
「ありがとうございます……!」
「リベルからそのようにしてほしいとの話があったからよ、感謝は彼にしなさい」
「そ、そうでしたか……」
そこで沈黙が訪れる。
どちらも言葉を発さず、無の時間だけが流れてゆく。
「あ、そうでした、レフィエリシナ様にお聞きしたいことが……」
やがて口を開いたのはアウディー。
本当は直接聞いてみるなんて気が進まない――それでもリベルから頼まれ引き受けてしまったから今さらなかったことにもできず、思いきってここで問いを放ってみることにしたのである。
「レフィエリシナ様に隠し事が、あると……聞きまして、それで……隠していることとは何なのです……?」
レフィエリシナの顔面からすっと熱が引く。
そして恐ろしいほど冷ややかな顔つきになる。
「――リベルね」
ガラス細工のような彼女の唇を通り過ぎて流れ出る言葉。
「彼が問わせているのでしょう?」
アウディーは気まずそうに視線を逸らす。
「皆揃って暴こうとして――何なのかしら」
「あ、いや、俺はただ……何か、レフィエリシナ様がお悩みだったらと、不安で……」
うにうにしてしまうアウディー。
それに対し、レフィエリシナは口角を僅かに持ち上げて笑みを浮かべる。
「残念だけれど、わたしには隠し事などないわ」
目つきはどこか冷ややかなままで。けれども口もとには笑みが浮かんでいる。それこそ、絶対に暴かせない、とでも言っているかのような笑み。絶対的な自信を窺わせるような色。
「嘘だと思うかしら」
「……いえ」
「そうよね?」
「ああ、はい。もちろん。俺はレフィエリシナ様を信じています」
少し間を空けて、けど、と続ける。
「もし、本当に、どうしようもなくなったら……その時は誰かに頼ってくださいよ」
アウディーは勇気を振り絞るように声を発している。
大柄な肉体に似合わない繊細さである。
「レフィエリシナ様が辛い想いをなさるようなことがあってはなりませんから……そんなことになっては妻に顔向けできません……」
するとレフィエリシナは顔を軽く右へ傾けて微笑む。
「そうですね、ありがとうアウディー」
その後レフィエリシナはアウディーの前から去った。
話は一見綺麗にまとまったかのようだが――肝心なところはまったく聞き出せなかった。
すべて済んでから、一人がっかりするアウディーだった。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる