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4.いつか抱いた憧れ
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ある午後、フィオーネはリベルと共に中庭にいた。
だらだらしているわけではない。
フィオーネは魔法を習うため、リベルは魔法の指導を行うため、それぞれその場所にいるのである。
「いやー、いい天気だねー」
「は、はい」
「じゃ、早速試してみようよ」
笑顔のまま言って、リベルは右腕を前へ伸ばす。すると手もとに魔方陣のようなものが現れ、次の瞬間、光と呼ばれるものに似たエネルギーが放たれた。
「試してみてー」
「え、えと……その……は、はい! やってみます!」
リベルが見ている前でやらなくてはならない、それは、フィオーネにとってとても緊張することだった。けれども、やらねばならぬ、と思い。両手を身体の前へやって、文字で学んだ通りに思念を誘導し、魔法を発動しようとしてみる。しかし、少しばかりエネルギーが出ているような気もしなくはない、程度にしかできず。
これでは納得はできない、と、フィオーネが思っていると。
「こーんな感じかなー」
リベルは腕を今度は真横に伸ばし魔法を放った。
その凄まじさに愕然とするフィオーネ。
凄いとは思うし、尊敬もするが、言葉を上手く口から出せない。
「分かりそ?」
「……あ、その、すみません……師匠の魔法は凄いです、でも……」
「分かんないかなぁ」
「はい。……ごめんなさい」
しゅんとするフィオーネに、リベルは夏の太陽のような笑顔を向ける。
「大丈夫だよー! 謝らなくていいってー、ほら、ね? 僕ももっと何か方法考えてみるからさー」
リベルなりに励ましているのだ。
「……方法」
「でもなー、僕もどうやってできるようになったかあまり覚えてないしなー」
「そうなのですか?」
「うん! だから練習とかあまりしてないね!」
「えええ……」
才能の差、それは変えられない。
そこは人が踏み込み書き換えられる領域ではない。
フィオーネはそのことを改めて強く感じる。
向いていないのかもしれない。向いていないから、いくらやろうとしても無意味なのかもしれない。成長なんてないのかもしれない。
そんな思いもあり、けれども、だからといって諦めることはできないフィオーネで。
だから何度でも挑戦する。
時間が許す限りは。
「師匠は生まれた時から魔法を使えたのですか?」
「多分ねー」
「多分? 幼過ぎて記憶がないから、多分、ですか?」
「あー、ま、そんなところかな」
言葉を交わしながらもフィオーネは何度も魔法を使ってみる。
しかし低威力。
攻撃なんかにはどうやっても使えないような弱々しい魔法でしかない。
「そうですか。ちょっと、羨ましいです」
「えー、そうかな? フィオーネは剣使えるんだよね? それで十分強いんじゃないのー?」
「やるのは剣が好きですが、実はこっそり魔法使いに憧れているのです」
「憧れ?」
柔らかな風が吹き抜けてゆく。
仲良く話す二人を女神が優しく抱き締めるかのように。
「昔、絵本で、かっこいい大魔法使いのお姉さまの話を読んで……それで、ずっと、試してみたいなと思っていたのです」
「へー、そうなんだー」
「だから、こうして少しでも練習できて、とても嬉しいです! 上手くできない私にでも付き合ってくださって、ありがとうございます! 師匠!」
だらだらしているわけではない。
フィオーネは魔法を習うため、リベルは魔法の指導を行うため、それぞれその場所にいるのである。
「いやー、いい天気だねー」
「は、はい」
「じゃ、早速試してみようよ」
笑顔のまま言って、リベルは右腕を前へ伸ばす。すると手もとに魔方陣のようなものが現れ、次の瞬間、光と呼ばれるものに似たエネルギーが放たれた。
「試してみてー」
「え、えと……その……は、はい! やってみます!」
リベルが見ている前でやらなくてはならない、それは、フィオーネにとってとても緊張することだった。けれども、やらねばならぬ、と思い。両手を身体の前へやって、文字で学んだ通りに思念を誘導し、魔法を発動しようとしてみる。しかし、少しばかりエネルギーが出ているような気もしなくはない、程度にしかできず。
これでは納得はできない、と、フィオーネが思っていると。
「こーんな感じかなー」
リベルは腕を今度は真横に伸ばし魔法を放った。
その凄まじさに愕然とするフィオーネ。
凄いとは思うし、尊敬もするが、言葉を上手く口から出せない。
「分かりそ?」
「……あ、その、すみません……師匠の魔法は凄いです、でも……」
「分かんないかなぁ」
「はい。……ごめんなさい」
しゅんとするフィオーネに、リベルは夏の太陽のような笑顔を向ける。
「大丈夫だよー! 謝らなくていいってー、ほら、ね? 僕ももっと何か方法考えてみるからさー」
リベルなりに励ましているのだ。
「……方法」
「でもなー、僕もどうやってできるようになったかあまり覚えてないしなー」
「そうなのですか?」
「うん! だから練習とかあまりしてないね!」
「えええ……」
才能の差、それは変えられない。
そこは人が踏み込み書き換えられる領域ではない。
フィオーネはそのことを改めて強く感じる。
向いていないのかもしれない。向いていないから、いくらやろうとしても無意味なのかもしれない。成長なんてないのかもしれない。
そんな思いもあり、けれども、だからといって諦めることはできないフィオーネで。
だから何度でも挑戦する。
時間が許す限りは。
「師匠は生まれた時から魔法を使えたのですか?」
「多分ねー」
「多分? 幼過ぎて記憶がないから、多分、ですか?」
「あー、ま、そんなところかな」
言葉を交わしながらもフィオーネは何度も魔法を使ってみる。
しかし低威力。
攻撃なんかにはどうやっても使えないような弱々しい魔法でしかない。
「そうですか。ちょっと、羨ましいです」
「えー、そうかな? フィオーネは剣使えるんだよね? それで十分強いんじゃないのー?」
「やるのは剣が好きですが、実はこっそり魔法使いに憧れているのです」
「憧れ?」
柔らかな風が吹き抜けてゆく。
仲良く話す二人を女神が優しく抱き締めるかのように。
「昔、絵本で、かっこいい大魔法使いのお姉さまの話を読んで……それで、ずっと、試してみたいなと思っていたのです」
「へー、そうなんだー」
「だから、こうして少しでも練習できて、とても嬉しいです! 上手くできない私にでも付き合ってくださって、ありがとうございます! 師匠!」
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