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10話「お出掛け終了」

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 その後、私たち二人は団子を貰った。

 桜色に白、薄緑に空色。葉のようなものが練り込まれていたり、タレがかかっていたり。丸い皿にいろんな団子が乗っていて、目で見ても楽しいものだった。
 トウロウは、こしあんを包んだ白いものを気に入っているらしい。食べている最中、本人が教えてくれた。私はそれも美味しいと思ったけれど、一番気に入ったのは葉が練り込まれているもの。柔らかい緑色をしたそれが、大人びた甘さで口に合った。

「また来てほしいですわ!」

 サクラに見送られ、私たちはアカリの宿へと帰る。
 最初はどうなることかと思ったが、実際出掛けてみたら意外と楽しむことができた。雑貨屋を見るのも楽しかったし、団子屋で休憩しつつ喋るのも悪くはなかったし。それなりに充実した時間になった気がする。

「二人とも! 帰ってきたのかい!」

 扉を開けると、テーブルを掃除していたアカリがすぐに気づいてくれた。

「お出掛けはどうだったんだい?」

 アカリは和服のような服を着ているが、その上にエプロンを装着していた。縁にさりげなくフリルがついた、可愛らしいデザインのエプロンだ。気が強そうな顔のアカリとは合わないような愛らしい系デザインのエプロンだが、案外似合っている。

「それなりに盛り上がりましたよー」
「本当かい!?」
「はい。見た目は好みじゃないですけどー、まぁ、仲良くはできそうです」

 見た目は好みじゃない、なんて言葉を、どうしていちいち付けるのか。そこが私には理解できない。そんな嫌みのようなことを敢えて言う必要がどこにあるというのか。いちいち嫌みのようなことを言わなければ、少しは仲良くなれそうなものなのに。

「まったく……見た目を批判するのはその辺にしておきなよ。見放されてから後悔しても知らないからね」

 トウロウの余計な一言に、アカリは呆れていた。

「はい、分かってます。気をつけますよー」

 アカリに言葉を返すトウロウは、まるで反抗期の子どものよう。彼が何歳なのかは知らないが、精神的には少し幼稚なのかもしれない。詳しい事情は知らないから何とも言えないけれど。でも、どう考えても、大人の対応とは言えない。

「で、今夜はどうするんだい? また泊まっていくのかい?」
「えぇ。もうしばらく泊まります。どうせ行くところもないんでー」
「そうかい。ま、泊まってってくれるならありがたいけどねぇ」
「部屋は昨日と同じところでいいんでー」
「分かったよ。泊まってってくれ。……マコト、後で話してもいいかい?」

 アカリの意識と視線が急にこちらへ向いた。

「え。わ、私ですか」
「そうだよ。これからのことについてなんだけどね」
「は、はい。分かりました」

 これからのこと、か。
 どんな話が待っているのやら。


 私はアカリに呼び出され、二人で話をすることになった。
 密室で二人きり。でも特別なときめきはない。いや、それは同性だから当然といえば当然のことなのだが。ただ「どんな話が始まるのだろう?」という不安による胸の高鳴りはあった。

「彼はどうだい?」
「トウロウさんのこと……ですか」

 話というのは彼のことだったのだろうか。

「始まりは最悪だったかもしれないけど、今は? 出掛けてみて、どうだった? まだ今も嫌いかい」

 私は俯き返事を考える。

 アカリが言う通り、トウロウの第一印象は最悪だった。いきなり他人のことを「好みでない」などと言ってきて、それによって、私の脳には「彼は失礼な人」というイメージがこびり付いた。
 でも今は、そのイメージが多少変わってきているように感じる。
 はっきり言いすぎ。遠慮なさすぎ。そういった悪いイメージは徐々に薄れ、代わりに良いところがないわけではないというイメージがついてきている。

「そう……ですね。今は怒ってはいません」
「ほう。少しは印象が変わったかい?」
「はい、本当に少しだけですけど。出掛けてみて……案外楽しかったです」

 正直なことを言うと、もっと最悪なお出掛けになるだろうと想像していた。
 盛り上がる可能性なんて想像してみていなかった。

「どうだい? 彼を人にしてやるのは」
「そ、それは……その、彼のプロポーズを受けるということですよね」
「そういうことだよ」
「さすがにそれは……まだ、難しいといいますか……。そもそも! トウロウさんが嫌がると思いますし!」

 そう言っても、アカリは頷かなかった。

「そんなことないよ。彼はアンタを気に入ってる」

 アカリは断言した。
 まるでトウロウから「気に入っている」と聞いてきたかのように。

「そんなの、本人に聞いてみないと分からないじゃないですか」

 私は落ち着きを保ちつつ放つ。
 するとアカリはニヤリと口もとに笑みを浮かべた。

「聞いたんだよ? 本人から、ね」

 その言葉が私に大きな衝撃を与える。
 雷が落ちたかのような恐ろしいほどの衝撃が、全身を駆け巡った。
 最初私は「ネタとして言っているだけなのでは?」と自分を納得させようとした。トウロウと私を上手く進展させるため適当なことを言っているのだとしたら、アカリの発言も理解不能ではない。
 だが、追撃が来る。

「言っとくけど、作り話じゃないよ? 本当のことだからね?」

 ネタじゃないとしたら……。
 本当に、トウロウが気に入っているって言っていたのだとしたら……。

 衝撃を与えてくる情報と込み上げてくる感情が脳内で混ざり合い、私のそれほど賢くない脳を混乱させる。

「あ、あり得ないです……そんな……」

 ――そこで意識は途切れた。
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