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2話

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「実は、その……明日婚約者候補の方に会いにいくのだけれど……怖くって」
「婚約者候補? 婚約者ではなく?」
「そうなの、違うの。婚約者……とまだ決まったわけではないの。もしかしたら婚約するからもしれない人なの」

 そんな人に私を会わせるなんて、何のつもり?

「待って。無理よ。私はその場所へ行くべき人間ではないわ」
「男の人に一人で会うのが怖いの……お願い、一緒に来て!」

 妹は私の袖を掴み演技しているかのように大袈裟に頼んでくる。

 まるで女優か何かのようだ。

 私以外の人になら通じるのでしょう。でも無駄。私にはそんな演技は通じない。だって私は知っているもの、彼女が仮面をつけた人間だと。瞳を震わせるのも、捨てられた子猫のような視線を送るのも、すべて演技でしかないのでしょう。

「私は行かないわ」
「どうして?」
「行くべきだと思わないからよ」
「妹が困ってるのに……見放すの? 何も言わず、手も貸さず、放置するの?」

 私は断り続けた。けれども彼女はいつになく粘ってきた。これまでは、最初は頼んできていても、断るうちにぷいっと去っていくことも少なくはなくて。だから、今回もそうなるだろうと思っていたのに、そうはならなくて。私の想定通りには進まなかった。

 そして私はついに折れてしまった。
 同行する、と、言ってしまったのだった。

 こんなに懸命に頼んできているのだから一度くらい良いだろう、と考えて。


 ◆


 当日、私は妹と共に、彼女の婚約者となるかもしれない人に会いにいった。

 婚約者となるかもしれない青年、その人は、整った顔立ちの人物だった。こんなことを言っては失礼かもしれないけれど、正直驚いた。まさかこんな凛々しく素敵な人だなんて、と。

 でもすべて私には関係ないことだ。
 彼が美形だからといって私の人生が変わるわけではない。彼と出会ったからといって希望が生まれるわけでもない。

 もしも彼が私の婚約者候補であったなら、何か変わっただろうか?

 ……考えるのはやめよう、無意味だ。

 私は静かに妹と青年の交流を見守ることを選んだ。いや、そもそも、私は他人の婚約者候補に勝手に手を出すような質の人間ではない。誰の婚約者候補か、くらい、きちんと理解している。
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