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episode.70 真紅の光は止まらない
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ダリアの砂浜にて、今私は、リュビエと対峙している。
よく晴れた爽やかな空とは対照的に、私の心にはもやがかかっている。誰の助力も望めない状況で、リュビエと戦わなくてはならないからだ。
だが、それでも私は前を向いた。
魔の手から逃れる方法がそれしかないのならば、私は迷わずに戦う。それが、今の私にできる最善だから。
「覚悟なさい」
リュビエは冷淡な声で述べた。情など存在しない、と宣言しているかのような声色で。
そして、次の瞬間。
緑色の髪をなびかせながら、大きく、一歩、二歩、と接近してくるリュビエ。彼女は全身から、尋常でない迫力を放っている。
だが怯んでいるわけにはいかない。
私は心の中で「大丈夫」と呟き、自身を鼓舞する。
シブキガニとの戦いの時に発生した剣は消えてしまった。けれど、私には腕時計がある。だから最低でも光球は使える。攻撃手段があれば、ある程度は戦えるはずだ。
——とその時、リュビエの長い脚が回し蹴りを繰り出してきた。
私は咄嗟に数歩下がる。
それにより、すれすれのところで回し蹴りをかわすことができた。
「……よし」
攻撃直後を狙い、リュビエに向かって赤い光球を放つ。光球は炎のように輝きながら、リュビエへ迫る。
「遅いわ」
口元に余裕の笑みを浮かべるリュビエ。
彼女はしっかりと反応し、蛇の化け物を作り出す。そして、それで、私が撃ち出した光球を防いだ。
対応の早さには感心せざるを得ない。
「その程度じゃ、あたしからは逃れられないわよ」
「……でしょうね」
「そろそろ諦めればどう?」
「いいえ……諦めなんてしません!!」
私は日頃より調子を強めて言い放った。
そして、勝負に出る。
まずはジグザグにリュビエへと駆け寄っていく。捉えづらい動き方をすることで、少しでも翻弄できれば、と思ったからだ。
「そんな動きであたしを翻弄できると思ったなら、間違いよ」
リュビエは、淡々とそう言ってから、踏み込んでくる。この程度で下がってはくれないようだ。
ロングブーツを履いた美脚による蹴りがくる。
ジャンプしながらの、大振りな蹴りだ。
私はスライディングするようにして地面を進み、リュビエの背後へ回った。
私はつい、いつもこのパターンを使ってしまう。そのため、回を重ねれば重ねるほど、読まれる可能性は高くなる。しかし、慣れているためか、このパターンの成功率は比較的高い気がする。
そして放つ。光線を。
「馬鹿な!」
私の意思通り、腕時計から放たれたのは光線だった。赤くて太い、あの強力な光線である。
「このタイミングで光線っ!?」
胸の前で両腕を交差させて赤い光線を防ぎながら、動揺したように叫ぶリュビエ。かなり驚いているように見える。
だが、一番驚いているのは私だ。
これまで、自分の意思で光線を出すことはできなかった。しかし、今は間違いなく、私自身の意思によって光線を放った。
良い意味でかなり大きな変化だと思う。
「いけーっ!」
私は腹の底から叫んだ。
晴れたこの空に響き渡るほどの、大きな声で。
「……そんな」
リュビエの声が引きつる。
この時、ついに、リュビエの唇から笑みが消えた。
「馬鹿な! あり得ない!」
両腕で必死に防御していたリュビエだったが、耐え切れなくなり、数メートル後ろへ吹っ飛んだ。
リュビエの体が、派手に宙に浮く。
彼女の女性にしては大きな体を吹っ飛ばせるとは思わなかったため、少々驚いたが、今までにないくらいの好調だ。この波に乗っていけば、何とかなるかもしれない。
「くっ!」
地面を派手に転がるリュビエ。
さすがの彼女も、すぐには体勢を立て直せない。
そこを狙い、私は再び赤い光線を発射する。
「この……!」
リュビエは砂にまみれながらも、光線を避けようと、咄嗟に動く。地面の上を回転し、ぎりぎりのところでかわした。
今度の攻撃は避けられてしまった。しかし、諦めるにはまだ早い。まだチャンスはある。私の背を押してくれる勢いという名の波があるから、私はまだ戦える。
せっかくリュビエに攻撃を浴びせられたのだ、この機会は逃さない。
私はすぐに光球を放ちながら、リュビエへ接近していく。
「なめるな!」
鋭く叫び、たくさんの蛇の化け物を作り出すリュビエ。彼女はそれらの蛇型化け物によって、私の光球を一つ一つ確実に潰す。光球と蛇型化け物の数は互角だ。
このまま一気に近づき、至近距離から光線を叩き込む。
それなら、体格差も何もないはずである。
「なめてなんかいません!」
「調子に乗るんじゃないわよ!」
「放っておいて下さい!」
リュビエは既に立ち上がってきているが、まだ完全な体勢には戻っていない。叩き込むなら今がチャンスだ。
「覚悟!!」
右腕をリュビエに向けて伸ばし、腕時計に意識を集める。
——次は光線。
そう念じていると、念じた通りに、赤い光線が放たれた。
ダリアでトリスタンと共に巨大蜘蛛と遭遇したあの日。私の人生が動き始める原因となった、あの瞬間の軌跡——これは、その再来だった。
燃ゆるような真紅の光線は、まばゆい光をまといながら、立ち上がりかけのリュビエを襲う。
「……っ!」
さすがのリュビエも言葉を詰まらせていた。避けようと動くのではなく、身構えているところを見ると、かなり警戒しているようだ。
だが、身構えても無駄。
いくら体勢を整えていたところで、この光線を浴びて無事でいられるはずがない。
一筋の真紅は宙を駆ける。
そして、大爆発と共に、凄まじい砂煙が辺りを包み込んだ。
よく晴れた爽やかな空とは対照的に、私の心にはもやがかかっている。誰の助力も望めない状況で、リュビエと戦わなくてはならないからだ。
だが、それでも私は前を向いた。
魔の手から逃れる方法がそれしかないのならば、私は迷わずに戦う。それが、今の私にできる最善だから。
「覚悟なさい」
リュビエは冷淡な声で述べた。情など存在しない、と宣言しているかのような声色で。
そして、次の瞬間。
緑色の髪をなびかせながら、大きく、一歩、二歩、と接近してくるリュビエ。彼女は全身から、尋常でない迫力を放っている。
だが怯んでいるわけにはいかない。
私は心の中で「大丈夫」と呟き、自身を鼓舞する。
シブキガニとの戦いの時に発生した剣は消えてしまった。けれど、私には腕時計がある。だから最低でも光球は使える。攻撃手段があれば、ある程度は戦えるはずだ。
——とその時、リュビエの長い脚が回し蹴りを繰り出してきた。
私は咄嗟に数歩下がる。
それにより、すれすれのところで回し蹴りをかわすことができた。
「……よし」
攻撃直後を狙い、リュビエに向かって赤い光球を放つ。光球は炎のように輝きながら、リュビエへ迫る。
「遅いわ」
口元に余裕の笑みを浮かべるリュビエ。
彼女はしっかりと反応し、蛇の化け物を作り出す。そして、それで、私が撃ち出した光球を防いだ。
対応の早さには感心せざるを得ない。
「その程度じゃ、あたしからは逃れられないわよ」
「……でしょうね」
「そろそろ諦めればどう?」
「いいえ……諦めなんてしません!!」
私は日頃より調子を強めて言い放った。
そして、勝負に出る。
まずはジグザグにリュビエへと駆け寄っていく。捉えづらい動き方をすることで、少しでも翻弄できれば、と思ったからだ。
「そんな動きであたしを翻弄できると思ったなら、間違いよ」
リュビエは、淡々とそう言ってから、踏み込んでくる。この程度で下がってはくれないようだ。
ロングブーツを履いた美脚による蹴りがくる。
ジャンプしながらの、大振りな蹴りだ。
私はスライディングするようにして地面を進み、リュビエの背後へ回った。
私はつい、いつもこのパターンを使ってしまう。そのため、回を重ねれば重ねるほど、読まれる可能性は高くなる。しかし、慣れているためか、このパターンの成功率は比較的高い気がする。
そして放つ。光線を。
「馬鹿な!」
私の意思通り、腕時計から放たれたのは光線だった。赤くて太い、あの強力な光線である。
「このタイミングで光線っ!?」
胸の前で両腕を交差させて赤い光線を防ぎながら、動揺したように叫ぶリュビエ。かなり驚いているように見える。
だが、一番驚いているのは私だ。
これまで、自分の意思で光線を出すことはできなかった。しかし、今は間違いなく、私自身の意思によって光線を放った。
良い意味でかなり大きな変化だと思う。
「いけーっ!」
私は腹の底から叫んだ。
晴れたこの空に響き渡るほどの、大きな声で。
「……そんな」
リュビエの声が引きつる。
この時、ついに、リュビエの唇から笑みが消えた。
「馬鹿な! あり得ない!」
両腕で必死に防御していたリュビエだったが、耐え切れなくなり、数メートル後ろへ吹っ飛んだ。
リュビエの体が、派手に宙に浮く。
彼女の女性にしては大きな体を吹っ飛ばせるとは思わなかったため、少々驚いたが、今までにないくらいの好調だ。この波に乗っていけば、何とかなるかもしれない。
「くっ!」
地面を派手に転がるリュビエ。
さすがの彼女も、すぐには体勢を立て直せない。
そこを狙い、私は再び赤い光線を発射する。
「この……!」
リュビエは砂にまみれながらも、光線を避けようと、咄嗟に動く。地面の上を回転し、ぎりぎりのところでかわした。
今度の攻撃は避けられてしまった。しかし、諦めるにはまだ早い。まだチャンスはある。私の背を押してくれる勢いという名の波があるから、私はまだ戦える。
せっかくリュビエに攻撃を浴びせられたのだ、この機会は逃さない。
私はすぐに光球を放ちながら、リュビエへ接近していく。
「なめるな!」
鋭く叫び、たくさんの蛇の化け物を作り出すリュビエ。彼女はそれらの蛇型化け物によって、私の光球を一つ一つ確実に潰す。光球と蛇型化け物の数は互角だ。
このまま一気に近づき、至近距離から光線を叩き込む。
それなら、体格差も何もないはずである。
「なめてなんかいません!」
「調子に乗るんじゃないわよ!」
「放っておいて下さい!」
リュビエは既に立ち上がってきているが、まだ完全な体勢には戻っていない。叩き込むなら今がチャンスだ。
「覚悟!!」
右腕をリュビエに向けて伸ばし、腕時計に意識を集める。
——次は光線。
そう念じていると、念じた通りに、赤い光線が放たれた。
ダリアでトリスタンと共に巨大蜘蛛と遭遇したあの日。私の人生が動き始める原因となった、あの瞬間の軌跡——これは、その再来だった。
燃ゆるような真紅の光線は、まばゆい光をまといながら、立ち上がりかけのリュビエを襲う。
「……っ!」
さすがのリュビエも言葉を詰まらせていた。避けようと動くのではなく、身構えているところを見ると、かなり警戒しているようだ。
だが、身構えても無駄。
いくら体勢を整えていたところで、この光線を浴びて無事でいられるはずがない。
一筋の真紅は宙を駆ける。
そして、大爆発と共に、凄まじい砂煙が辺りを包み込んだ。
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