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episode.40 緑の女と空飛ぶ少女
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白銀の剣を手に、トリスタンは化け物を確実に切り裂いていく。その華麗な動きといったら、彼の美しい容姿と相まって、まるで神聖な舞のようだ。
私は言葉を発することなく、彼の戦う姿を見守っておく。
そんな時だった。
狼型化け物の一体が、彼の背後に迫る。
「トリスタン! 危ないっ!」
私は半ば無意識に叫んだ。
その声を聞き、トリスタンは振り返る。しかし、間に合わない距離まで接近されていた。
このままではトリスタンが怪我をする、と思い、私は咄嗟に右腕を伸ばす。そして光球を放つ。
放たれた深紅の光球は、狼型化け物の足下を掠める。化け物の意識がこちらへ向く。
……よし!
今度は私が危険な状況に陥っていることは間違いない。だが、既に何体もの化け物を相手にしているトリスタンがさらに背後から狙われるよりかは、ましだろう。
狼型化け物は、目標を、トリスタンから私へと変える。
「マレイちゃん!?」
私の方へ向かう狼型化け物の姿を見、トリスタンは驚きの声をあげた。信じられない、といった風に目を見開いている。
「こっちは大丈夫!」
根拠のないことを叫んだ。
私は弱い。大丈夫な保証など、どこにもありはしない。それでも私は、迷いのないはっきりとした声で言った。
第三者には馬鹿だと笑われるかもしれない。ただ、それが今の私にできるすべてだったのである。
それからどのくらい経っただろう。どこからともなく、カツンカツンという足音が聞こえてきた。
「見つけたわよ。マレイ・チャーム・カトレア」
振り返ると、女性の姿が視界に入った。
蛇のようにうねった緑色の髪。黒いボディスーツに包んだ凹凸のある体。全身から溢れ出るミステリアスな色気。
間違いなくリュビエだ。
「リュビエさん……!」
トリスタンはまだ気づいていない様子である。
「久しぶりね」
「……何のご用ですか」
私は身を固くしつつ、低い声で尋ねる。
彼女はどんな手を使ってくるか分からない。だから、ほんの一瞬さえ警戒を怠るわけにはいかない。
「マレイ・チャーム・カトレア。今日は覚悟してもらうわよ」
「狙いは……私?」
「そうよ。あのゼーレとかいう馬鹿が何度も逃すものだから、ボスがお怒りなの。だからあたしがこうして迎えに来たってわけ」
リュビエは不満げに話す。ゼーレが私を捕らえ損ねたことに苛立っているのだろう。
「さ。一緒に来てちょうだい」
「お断りします」
「ふん。そう言うと思ったわよ」
リュビエへの警戒は続けたままで、後ろのトリスタンを一瞥する。
距離がそこそこあるため詳しくは見えないが、どうやら、まだ狼型化け物と戦っているようだ。
「だから、強制的に連れていくわ」
彼女は長く美しい指のついた手を、私がいる方に向けて出す。
すると、それを合図として、細い蛇の化け物たちがこちらへ向かってくる。一匹一匹は細いが、数が凄まじい。
ゼーレの蜘蛛に比べればまだましだが、かなりえげつない光景だ。
「強制できるものではありません!」
私は敢えて強気に言い放つ。
そして、右手首の腕時計から、赤い光球を撃ち出した。
「来ないで下さい!」
トリスタンの力を借りられない危険な状況にあるからというのもあってか、光球はそこそこの威力を持っていた。
次から次へと迫りくる蛇たちを、光球は、確実に潰していく。
「あらあら。少しはやるようになったわね。でも……、その程度では、あたしからは逃れられないわよ」
見下したような笑みを浮かべつつ述べるリュビエ。
「いいわね」
冷ややかな声を放ちながら、次はリュビエ本人が私へと迫ってくる。
細い蛇は何とか倒せた。しかし、私一人で彼女を倒すというのは、恐らく不可能だろう。なんせ、彼女の戦闘能力は未知数で、しかも、ゼーレのような隙が見当たらないのだ。勝ちようがない。
ただ、このまま大人しくしていては、本当に連れていかれてしまうことだろう。それは避けなくてはならない。
「マレイ・チャーム・カトレア、覚悟なさい!」
よりによって一対一。
なんてついていないのだろう。
「……っ」
リュビエが目前まで迫る。
このままでは確実にやられる——そう思った時だった。
「マレイちゃん! いくよっ!」
ちょうど私の真上辺り、上空から、愛らしい女声が聞こえてきた。
そして数秒後。
桃色に光る小さな弾丸が、リュビエに向けて、大量に降り注いだ。
「何事!?」
降り注ぐ弾丸に素早く気づいた彼女は、咄嗟に後ろへ下がる。
素早い判断と動作によって、リュビエは、降り注ぐ弾丸の多くをかわした。だが、さすがにすべてを避けることはできず、いくつかだけ食らってしまったようだ。
被弾したリュビエが静止している間に、一人の少女が舞い降りてくる。
天使のように地上へ降り立ったその少女は、フランシスカだった。
「えっ! フランさん!?」
「マレイちゃん、怪我はないっ?」
ミルクティー色の柔らかな髪に、整いつつも浮世離れはしていない愛らしい顔立ち。
見間違えるはずがない。彼女はフランシスカだ。
しかし、彼女がなぜここにいるのか、疑問でしかない。彼女は今夜は非番だったはずなのである。それなのに今ここにいるのは、おかしい。
「フランさんがどうしてここに!? 非番なんじゃ……」
すると彼女は、軽やかな口調で返してくる。
「マレイちゃんのことだからピンチになるだろうと思って、こっそり見てたんだよっ。やっぱりピンチになったね」
グサリと刺さる発言に、何とも形容し難い、複雑な気持ちになった。
「でも、もう大丈夫! 安心して! 怪しいやつはフランが叩きのめしてあげるからっ」
フランシスカは、屈託のない笑顔で、意外と過激なことを言う。彼女らしいと言えば彼女らしいが、リュビエを不必要に刺激してしまいそうなところは不安だ。
ただ、トリスタンがこちらへ来れない今、フランシスカの存在はかなり大きいと思われる。
フランシスカの強さは知らない。だが、私一人でリュビエに挑むよりかは、ずっとましなはずだ。
私は言葉を発することなく、彼の戦う姿を見守っておく。
そんな時だった。
狼型化け物の一体が、彼の背後に迫る。
「トリスタン! 危ないっ!」
私は半ば無意識に叫んだ。
その声を聞き、トリスタンは振り返る。しかし、間に合わない距離まで接近されていた。
このままではトリスタンが怪我をする、と思い、私は咄嗟に右腕を伸ばす。そして光球を放つ。
放たれた深紅の光球は、狼型化け物の足下を掠める。化け物の意識がこちらへ向く。
……よし!
今度は私が危険な状況に陥っていることは間違いない。だが、既に何体もの化け物を相手にしているトリスタンがさらに背後から狙われるよりかは、ましだろう。
狼型化け物は、目標を、トリスタンから私へと変える。
「マレイちゃん!?」
私の方へ向かう狼型化け物の姿を見、トリスタンは驚きの声をあげた。信じられない、といった風に目を見開いている。
「こっちは大丈夫!」
根拠のないことを叫んだ。
私は弱い。大丈夫な保証など、どこにもありはしない。それでも私は、迷いのないはっきりとした声で言った。
第三者には馬鹿だと笑われるかもしれない。ただ、それが今の私にできるすべてだったのである。
それからどのくらい経っただろう。どこからともなく、カツンカツンという足音が聞こえてきた。
「見つけたわよ。マレイ・チャーム・カトレア」
振り返ると、女性の姿が視界に入った。
蛇のようにうねった緑色の髪。黒いボディスーツに包んだ凹凸のある体。全身から溢れ出るミステリアスな色気。
間違いなくリュビエだ。
「リュビエさん……!」
トリスタンはまだ気づいていない様子である。
「久しぶりね」
「……何のご用ですか」
私は身を固くしつつ、低い声で尋ねる。
彼女はどんな手を使ってくるか分からない。だから、ほんの一瞬さえ警戒を怠るわけにはいかない。
「マレイ・チャーム・カトレア。今日は覚悟してもらうわよ」
「狙いは……私?」
「そうよ。あのゼーレとかいう馬鹿が何度も逃すものだから、ボスがお怒りなの。だからあたしがこうして迎えに来たってわけ」
リュビエは不満げに話す。ゼーレが私を捕らえ損ねたことに苛立っているのだろう。
「さ。一緒に来てちょうだい」
「お断りします」
「ふん。そう言うと思ったわよ」
リュビエへの警戒は続けたままで、後ろのトリスタンを一瞥する。
距離がそこそこあるため詳しくは見えないが、どうやら、まだ狼型化け物と戦っているようだ。
「だから、強制的に連れていくわ」
彼女は長く美しい指のついた手を、私がいる方に向けて出す。
すると、それを合図として、細い蛇の化け物たちがこちらへ向かってくる。一匹一匹は細いが、数が凄まじい。
ゼーレの蜘蛛に比べればまだましだが、かなりえげつない光景だ。
「強制できるものではありません!」
私は敢えて強気に言い放つ。
そして、右手首の腕時計から、赤い光球を撃ち出した。
「来ないで下さい!」
トリスタンの力を借りられない危険な状況にあるからというのもあってか、光球はそこそこの威力を持っていた。
次から次へと迫りくる蛇たちを、光球は、確実に潰していく。
「あらあら。少しはやるようになったわね。でも……、その程度では、あたしからは逃れられないわよ」
見下したような笑みを浮かべつつ述べるリュビエ。
「いいわね」
冷ややかな声を放ちながら、次はリュビエ本人が私へと迫ってくる。
細い蛇は何とか倒せた。しかし、私一人で彼女を倒すというのは、恐らく不可能だろう。なんせ、彼女の戦闘能力は未知数で、しかも、ゼーレのような隙が見当たらないのだ。勝ちようがない。
ただ、このまま大人しくしていては、本当に連れていかれてしまうことだろう。それは避けなくてはならない。
「マレイ・チャーム・カトレア、覚悟なさい!」
よりによって一対一。
なんてついていないのだろう。
「……っ」
リュビエが目前まで迫る。
このままでは確実にやられる——そう思った時だった。
「マレイちゃん! いくよっ!」
ちょうど私の真上辺り、上空から、愛らしい女声が聞こえてきた。
そして数秒後。
桃色に光る小さな弾丸が、リュビエに向けて、大量に降り注いだ。
「何事!?」
降り注ぐ弾丸に素早く気づいた彼女は、咄嗟に後ろへ下がる。
素早い判断と動作によって、リュビエは、降り注ぐ弾丸の多くをかわした。だが、さすがにすべてを避けることはできず、いくつかだけ食らってしまったようだ。
被弾したリュビエが静止している間に、一人の少女が舞い降りてくる。
天使のように地上へ降り立ったその少女は、フランシスカだった。
「えっ! フランさん!?」
「マレイちゃん、怪我はないっ?」
ミルクティー色の柔らかな髪に、整いつつも浮世離れはしていない愛らしい顔立ち。
見間違えるはずがない。彼女はフランシスカだ。
しかし、彼女がなぜここにいるのか、疑問でしかない。彼女は今夜は非番だったはずなのである。それなのに今ここにいるのは、おかしい。
「フランさんがどうしてここに!? 非番なんじゃ……」
すると彼女は、軽やかな口調で返してくる。
「マレイちゃんのことだからピンチになるだろうと思って、こっそり見てたんだよっ。やっぱりピンチになったね」
グサリと刺さる発言に、何とも形容し難い、複雑な気持ちになった。
「でも、もう大丈夫! 安心して! 怪しいやつはフランが叩きのめしてあげるからっ」
フランシスカは、屈託のない笑顔で、意外と過激なことを言う。彼女らしいと言えば彼女らしいが、リュビエを不必要に刺激してしまいそうなところは不安だ。
ただ、トリスタンがこちらへ来れない今、フランシスカの存在はかなり大きいと思われる。
フランシスカの強さは知らない。だが、私一人でリュビエに挑むよりかは、ずっとましなはずだ。
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