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episode.22 生まれる絆、生まれる企み
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女二人のお茶が一段落した後、私たちはさらに商店街を歩いた。
隣の彼女——フランシスカにすれば見慣れた光景なのだろうが、初めてここへ来た私の目には、何もかもすべてが新しく映る。
言葉にならないくらい、驚きや感動の連続だった。
そんな中で徐々に絆を深めていった私とフランシスカは、次第に打ち解け、交わす言葉さえも柔らかく変化していく。
「帝都って、本当に凄いのね。こんなに大勢の人がいて、こんなにたくさんのお店があって。まるで夢の国みたい」
こんなことを言えばまた笑われるだろうか。
一瞬そう思ったけれど、心に生まれたこの感動を言葉にしないことなど不可能だった。
「夢の国? 何それ、変なのっ。もしかしてマレイちゃん、かなりの田舎出身だったりしてー」
フランシスカはいつも通りの軽やかな口調で言って笑う。
愛らしい顔に浮かぶ純真な笑みに、私は、彼女には「綺麗」という言葉が相応しいと思った。
出会った頃は信用できない部分もあったけれど、今はもう、すっかり信用している。休日を潰してまで私を外へ連れ出してくれる彼女が悪人なわけがない。そう思うから。
「マレイちゃん、今日は楽しめたっ?」
夕暮れ時、基地へ帰る途中でフランシスカが尋ねてきた。
「えぇ。もちろん。凄く楽しかったわ」
まもなく訪れる夜の闇に備え、人々は帰りを急いでいる。誰もが、不自然なほどに急ぎ足だ。だが、今の私にはその理由を察することができる。夜になれば化け物が出る可能性があるからだろう。
「帝都って素敵なところね」
「そうだよっ。でも……昔はもっと素敵だったかな」
長い睫毛の生えた大きな目を、彼女は悲しげに伏せる。
その様子を目にして、私は、彼女もまた被害者だったのかもしれないと思った。
「フランさん、もしかして貴方も過去に何か……」
私が口を開きかけると、彼女はハッとしてこちらへ笑みを向ける。
「何もないよっ」
屈託のない笑みに明るい声。
先ほどの表情は見間違いだったのかと思ってしまいそうなくらいだ。
しかし、私は確かに、彼女が目を伏せるところを見た。これだけは絶対に間違いではない。
「でも、今……」
「えっ。何もないよ。マレイちゃん、どうしちゃったの?」
「あ、ううん。何でもない」
聞かない方が良かったのかな、と思い、私はそれ以上聞かなかった。
気になる気持ちが消えたわけではない。ただ、他人に話したくないことの一つや二つは、誰にでもあるものだ。
だから、そっとしておくことに決めた。
ちょうどそんな時だった——背後から女性の声がしたのは。
「あの、少し構わないかしら」
聞き慣れない声に戸惑いながらも、私とフランシスカは同時に振り返る。
するとそこには、見知らぬ女性が立っていた。
「どちら様ですかっ?」
フランシスカが明るい笑顔のまま返すと、その女性は小さな声で言う。
「帝国軍の方……よね?」
私服の私たちを見て帝国軍の人間だと気づくなんて、一体何者だろう。腕時計は装着しているが、まさかそれを見て? いや、しかし腕時計程度でここまでの確信を持った言い方はできないはず。
「何かご用ですかっ?」
「わたし、その……実は」
「はい」
「今日、初めて、帝都へ来たの。帝国軍の基地を一目見てみたくて……ここから見えるかしら」
女性の話し方はややぎこちなかった。
もしかしたら、レヴィアス帝国外からの旅行客かもしれない。
「なるほど。帝国軍の基地はあれですよっ」
フランシスカは道の向こうに見える大きな建物を指差す。
すると女性は、暫しその建物を見つめていた。それから彼女は、さらに質問を重ねる。
「一日中活動してらっしゃるの?」
「はい、一応! ただ、夜の方が人が増えます。夜になると化け物が出るのでっ」
「どのくらいの人数、働いてらっしゃるの?」
「ま、常駐しているのは十人前後ですかねっ。夜間だともう少し多いですけど!」
フランシスカが丁寧に答えると、女性は嬉しそうに頬を緩める。帝国軍によほど興味があるようだ。
「まぁ。素敵ね……」
それにしても、帝国軍の労働状況について聞き興奮したように頬を赤らめる女性とは、なかなか珍妙である。
良く言えば個性的、悪く言えば不審。
「他には何かありますかっ?」
「いいえ。勉強に、なったわ。ありがとう」
「いえいえっ。さよなら!」
「さようなら」
こうして私たちは、女性と別れ基地へと帰る。
最初はどうなることかと思ったが、なかなか楽しい休日だった。できるなら、また行きたい。
——マレイらが基地へ帰った頃。
帝都近郊の雑木林の中。
「あぁ、疲れた。疲れたわ」
一人の女が溜め息を漏らしていた。
髪ははっきりとした緑色、毛先が蛇のようにうねり長い。女性らしい体は黒のボディスーツで包み、膝上までのロングブーツを履いている。そして目元には、青緑に輝くゴーグルのようなものを着用している。その材質は近未来的だ。
「お帰りなさい。どうでした? カトレアの様子は」
女に声をかけたのは、木の陰から現れた男。
闇に溶ける黒いマントを羽織り、銀色の仮面で顔を隠している。
「……ゼーレ。残念ながら、彼女とは話せなかったわ」
「でしょうねぇ。あんなでしゃばり娘がいては」
「あら。覗き見ていたの? お前も趣味が悪いわね」
女に蔑むように笑われたゼーレは、顎を軽く上げて言い返す。
「趣味が悪い、とは酷いですねぇ。これでも心配して差し上げているのですよ?」
すると女は、彼の頬に当たる部分ををビンタした。パァン、と、乾いた音が雑木林にこだまする。
「お前の失態を、あたしが埋めてあげているのよ。それを忘れないことね」
「……ふん、馬鹿らしい。貴女はボスに気に入られたいだけでしょう」
「うるさいわね!」
女とゼーレは、どうも気が合わないようだ。
「ま、いいわ。とにかく、決行は今宵。兵はあたしが叩くから、お前は例の娘を確保なさい」
彼女はひと呼吸空けて続ける。
「もう失敗は許されないわよ。特にゼーレ、お前はね」
隣の彼女——フランシスカにすれば見慣れた光景なのだろうが、初めてここへ来た私の目には、何もかもすべてが新しく映る。
言葉にならないくらい、驚きや感動の連続だった。
そんな中で徐々に絆を深めていった私とフランシスカは、次第に打ち解け、交わす言葉さえも柔らかく変化していく。
「帝都って、本当に凄いのね。こんなに大勢の人がいて、こんなにたくさんのお店があって。まるで夢の国みたい」
こんなことを言えばまた笑われるだろうか。
一瞬そう思ったけれど、心に生まれたこの感動を言葉にしないことなど不可能だった。
「夢の国? 何それ、変なのっ。もしかしてマレイちゃん、かなりの田舎出身だったりしてー」
フランシスカはいつも通りの軽やかな口調で言って笑う。
愛らしい顔に浮かぶ純真な笑みに、私は、彼女には「綺麗」という言葉が相応しいと思った。
出会った頃は信用できない部分もあったけれど、今はもう、すっかり信用している。休日を潰してまで私を外へ連れ出してくれる彼女が悪人なわけがない。そう思うから。
「マレイちゃん、今日は楽しめたっ?」
夕暮れ時、基地へ帰る途中でフランシスカが尋ねてきた。
「えぇ。もちろん。凄く楽しかったわ」
まもなく訪れる夜の闇に備え、人々は帰りを急いでいる。誰もが、不自然なほどに急ぎ足だ。だが、今の私にはその理由を察することができる。夜になれば化け物が出る可能性があるからだろう。
「帝都って素敵なところね」
「そうだよっ。でも……昔はもっと素敵だったかな」
長い睫毛の生えた大きな目を、彼女は悲しげに伏せる。
その様子を目にして、私は、彼女もまた被害者だったのかもしれないと思った。
「フランさん、もしかして貴方も過去に何か……」
私が口を開きかけると、彼女はハッとしてこちらへ笑みを向ける。
「何もないよっ」
屈託のない笑みに明るい声。
先ほどの表情は見間違いだったのかと思ってしまいそうなくらいだ。
しかし、私は確かに、彼女が目を伏せるところを見た。これだけは絶対に間違いではない。
「でも、今……」
「えっ。何もないよ。マレイちゃん、どうしちゃったの?」
「あ、ううん。何でもない」
聞かない方が良かったのかな、と思い、私はそれ以上聞かなかった。
気になる気持ちが消えたわけではない。ただ、他人に話したくないことの一つや二つは、誰にでもあるものだ。
だから、そっとしておくことに決めた。
ちょうどそんな時だった——背後から女性の声がしたのは。
「あの、少し構わないかしら」
聞き慣れない声に戸惑いながらも、私とフランシスカは同時に振り返る。
するとそこには、見知らぬ女性が立っていた。
「どちら様ですかっ?」
フランシスカが明るい笑顔のまま返すと、その女性は小さな声で言う。
「帝国軍の方……よね?」
私服の私たちを見て帝国軍の人間だと気づくなんて、一体何者だろう。腕時計は装着しているが、まさかそれを見て? いや、しかし腕時計程度でここまでの確信を持った言い方はできないはず。
「何かご用ですかっ?」
「わたし、その……実は」
「はい」
「今日、初めて、帝都へ来たの。帝国軍の基地を一目見てみたくて……ここから見えるかしら」
女性の話し方はややぎこちなかった。
もしかしたら、レヴィアス帝国外からの旅行客かもしれない。
「なるほど。帝国軍の基地はあれですよっ」
フランシスカは道の向こうに見える大きな建物を指差す。
すると女性は、暫しその建物を見つめていた。それから彼女は、さらに質問を重ねる。
「一日中活動してらっしゃるの?」
「はい、一応! ただ、夜の方が人が増えます。夜になると化け物が出るのでっ」
「どのくらいの人数、働いてらっしゃるの?」
「ま、常駐しているのは十人前後ですかねっ。夜間だともう少し多いですけど!」
フランシスカが丁寧に答えると、女性は嬉しそうに頬を緩める。帝国軍によほど興味があるようだ。
「まぁ。素敵ね……」
それにしても、帝国軍の労働状況について聞き興奮したように頬を赤らめる女性とは、なかなか珍妙である。
良く言えば個性的、悪く言えば不審。
「他には何かありますかっ?」
「いいえ。勉強に、なったわ。ありがとう」
「いえいえっ。さよなら!」
「さようなら」
こうして私たちは、女性と別れ基地へと帰る。
最初はどうなることかと思ったが、なかなか楽しい休日だった。できるなら、また行きたい。
——マレイらが基地へ帰った頃。
帝都近郊の雑木林の中。
「あぁ、疲れた。疲れたわ」
一人の女が溜め息を漏らしていた。
髪ははっきりとした緑色、毛先が蛇のようにうねり長い。女性らしい体は黒のボディスーツで包み、膝上までのロングブーツを履いている。そして目元には、青緑に輝くゴーグルのようなものを着用している。その材質は近未来的だ。
「お帰りなさい。どうでした? カトレアの様子は」
女に声をかけたのは、木の陰から現れた男。
闇に溶ける黒いマントを羽織り、銀色の仮面で顔を隠している。
「……ゼーレ。残念ながら、彼女とは話せなかったわ」
「でしょうねぇ。あんなでしゃばり娘がいては」
「あら。覗き見ていたの? お前も趣味が悪いわね」
女に蔑むように笑われたゼーレは、顎を軽く上げて言い返す。
「趣味が悪い、とは酷いですねぇ。これでも心配して差し上げているのですよ?」
すると女は、彼の頬に当たる部分ををビンタした。パァン、と、乾いた音が雑木林にこだまする。
「お前の失態を、あたしが埋めてあげているのよ。それを忘れないことね」
「……ふん、馬鹿らしい。貴女はボスに気に入られたいだけでしょう」
「うるさいわね!」
女とゼーレは、どうも気が合わないようだ。
「ま、いいわ。とにかく、決行は今宵。兵はあたしが叩くから、お前は例の娘を確保なさい」
彼女はひと呼吸空けて続ける。
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