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episode.13 フランシスカは良い娘?
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「それじゃあマレイちゃん、申し訳ないんだけど、今日だけフランの部屋で過ごしてくれるかな? 明日までにはちゃんと一人部屋を用意するから」
「分かったわ、トリスタン」
私はトリスタンに連れられ、フランシスカの部屋に向かう。
部屋の手配が間に合わないため、今夜だけ自室は無しで凌がなくてはならない。そこでトリスタンが、フランシスカの部屋に泊まれるよう手配してくれたようだ。凄くありがたい。
それにしても——この基地はかなり豪華である。
ここはレヴィアス帝国軍の基地だ。しかし、すべての軍人がここを利用しているわけではない、とトリスタンは話す。
「この基地はほとんど、僕やフランが所属する『化け物狩り部隊』の人間が使っているんだ」
「他の軍人さんは使わないの?」
トリスタンは歩きながら頷く。
絹のような長い金髪が滑らかに揺れていた。
「なんせこの辺りには化け物がよく出る。だから、いつでも出動できるように、ここで暮らし始めたんだよ」
「帝都も何げに大変なのね……」
栄えてはいるものの都会ではないダリアで暮らしていた私は、帝都は夢や希望に溢れているものと思い込んでいた。当たり前のようにそう信じ、それを疑ったことは一度ない。
だが、トリスタンの話を聞いていると、私の想像は間違いだったのだとひしひしと感じる。帝都だからといって誰もが幸福に満ちているのではない。その事実は、そこそこ衝撃的だった。
「僕は慣れているから平気だよ。ただ、初めて来た人なら戸惑うかもしれないね」
確かに、その通りだ。実際に、初めて来た人——私は、今、色々な意味で戸惑っている。
私の場合それに加えて、新たな土地にいることによる緊張と待ち受ける未来への不安もあり、脳内が滅茶苦茶だ。脳内が滅茶苦茶というのはつまり、頭の中が、十二色ほどの絵の具を手当たり次第混ぜたような状態だ、という意味である。
「あ、着いた」
「フランさんの部屋?」
「そうだよ」
トリスタンがドアをノックすると、中から「はーいっ」とフランシスカの明るい声が聞こえてきた。続けて、パタパタという軽快な足音。そしてようやくドアが開く。
そこから現れたのは、ミルクティー色のボブヘアが愛らしいフランシスカ。
「トリスタン! 待ってたよっ」
彼女は、太股の真ん中くらいまでの長さの桜色のワンピースに、いつの間にやら着替えていた。丈はかなり短いが、色気はあまりない。
「トリスタン! 遅かったから心配したっ……!」
「心配は要らないよ。それより、マレイちゃんをよろしく」
フランシスカの大袈裟な言葉を軽く受け流すと、トリスタンは私の背をそっと押す。
「今夜だけだから」
「よ、よろしくお願いします!」
私は慌てて頭を下げた。
部屋を借りるのは今日だけとしても、これから同じ部隊の隊員としてお世話になる予定なのだから、印象は大切だ。いきなり悪い印象を持たれてはまずい。
するとフランシスカは、その可愛らしい顔に明るい笑みを浮かべる。
「……よろしくねっ」
一瞬の空白は気になるところだが、私はあまり気にしないよう努めた。聞けもしない、分かりもしない、そんなことを気にしても無意味だからだ。
「じゃあフラン、後はよろしく」
トリスタンは淡々とした声で言う。しかも、「こんな顔もするんだ」と思うような無表情だった。
彼が去った後、私とフランシスカは二人きりになり、気まずい空気に包まれる。
「えっと……マレイちゃん、入る?」
「あ、はい」
「それじゃあ、どうぞっ!」
桜色のワンピースが可愛いフランシスカは、声も笑顔も明るい。はつらつとしている。
……しかし、どこかぎこちない。
フランシスカの部屋は、いかにも女の子のものといった感じだった。
あまり広い部屋ではない。しかし、ベッドの掛け布団や椅子とテーブルのセットなど、すべてが可愛らしい物だ。桜色を基調とし、ところどころ、レースやリボンなどで飾られている。
「そこに座っていていいよっ。あ、コーヒー飲める?」
「飲めないことはないです」
「好きじゃない?」
「えっと……あまり」
私は椅子に腰を掛け、フランシスカの問いに答えていく。だが、不必要に緊張してしまい、上手く話せない。トリスタンの時はそんなことはなかったのに。
「じゃあ、ハーブティーとかにするっ?」
彼女は明るく接してくれる。なのに私は、同じように明るく返せない。
「……あ、はい」
「はいはーい! じゃ、ハーブティーにするねっ!」
私は椅子に座ったまま、彼女の背を見つめていた。
背筋はピンと伸び、脚はすらりと長く。後ろ姿からでさえ、自信がみなぎっているのが分かる。彼女は可愛い顔立ちだが、顔が見えずとも、魅力的な女性であると察することができてしまう。
——私とは大違い。
つい、はぁ、と溜め息を漏らしてしまった。
私は、私の顔を、不細工だと思ったことはない。しかし美人と思ったこともない。ただ、私はどこにでもいるような普通の女だ。顔立ちはもちろん、髪色も毛質も、平凡である。他の女性に勝てるような部分は一つもない。
「——ちゃん! マレイちゃん!」
はっとして、顔を上げる。
すると目の前にフランシスカの姿があった。マグカップを持ち立っている彼女は、怪訝な顔をしている。
「ぼんやりして、どうしたの?」
「……あ。ごめんなさい。少し、考え事を」
ますます気まずくなってしまった。
「考え事? えー、なになにっ?」
フランシスカはマグカップを私の前へ置くと、トントンと数歩歩いて、ベッドに腰掛ける。それから、その長い脚をパタパタと動かす。
「フランで良かったら聞いてあげるよっ」
彼女は優しかった。
ほんの一瞬怪しんだりはしたけれど、彼女はやはり、親切で良い娘だ。
きっと、そうに違いない。
「分かったわ、トリスタン」
私はトリスタンに連れられ、フランシスカの部屋に向かう。
部屋の手配が間に合わないため、今夜だけ自室は無しで凌がなくてはならない。そこでトリスタンが、フランシスカの部屋に泊まれるよう手配してくれたようだ。凄くありがたい。
それにしても——この基地はかなり豪華である。
ここはレヴィアス帝国軍の基地だ。しかし、すべての軍人がここを利用しているわけではない、とトリスタンは話す。
「この基地はほとんど、僕やフランが所属する『化け物狩り部隊』の人間が使っているんだ」
「他の軍人さんは使わないの?」
トリスタンは歩きながら頷く。
絹のような長い金髪が滑らかに揺れていた。
「なんせこの辺りには化け物がよく出る。だから、いつでも出動できるように、ここで暮らし始めたんだよ」
「帝都も何げに大変なのね……」
栄えてはいるものの都会ではないダリアで暮らしていた私は、帝都は夢や希望に溢れているものと思い込んでいた。当たり前のようにそう信じ、それを疑ったことは一度ない。
だが、トリスタンの話を聞いていると、私の想像は間違いだったのだとひしひしと感じる。帝都だからといって誰もが幸福に満ちているのではない。その事実は、そこそこ衝撃的だった。
「僕は慣れているから平気だよ。ただ、初めて来た人なら戸惑うかもしれないね」
確かに、その通りだ。実際に、初めて来た人——私は、今、色々な意味で戸惑っている。
私の場合それに加えて、新たな土地にいることによる緊張と待ち受ける未来への不安もあり、脳内が滅茶苦茶だ。脳内が滅茶苦茶というのはつまり、頭の中が、十二色ほどの絵の具を手当たり次第混ぜたような状態だ、という意味である。
「あ、着いた」
「フランさんの部屋?」
「そうだよ」
トリスタンがドアをノックすると、中から「はーいっ」とフランシスカの明るい声が聞こえてきた。続けて、パタパタという軽快な足音。そしてようやくドアが開く。
そこから現れたのは、ミルクティー色のボブヘアが愛らしいフランシスカ。
「トリスタン! 待ってたよっ」
彼女は、太股の真ん中くらいまでの長さの桜色のワンピースに、いつの間にやら着替えていた。丈はかなり短いが、色気はあまりない。
「トリスタン! 遅かったから心配したっ……!」
「心配は要らないよ。それより、マレイちゃんをよろしく」
フランシスカの大袈裟な言葉を軽く受け流すと、トリスタンは私の背をそっと押す。
「今夜だけだから」
「よ、よろしくお願いします!」
私は慌てて頭を下げた。
部屋を借りるのは今日だけとしても、これから同じ部隊の隊員としてお世話になる予定なのだから、印象は大切だ。いきなり悪い印象を持たれてはまずい。
するとフランシスカは、その可愛らしい顔に明るい笑みを浮かべる。
「……よろしくねっ」
一瞬の空白は気になるところだが、私はあまり気にしないよう努めた。聞けもしない、分かりもしない、そんなことを気にしても無意味だからだ。
「じゃあフラン、後はよろしく」
トリスタンは淡々とした声で言う。しかも、「こんな顔もするんだ」と思うような無表情だった。
彼が去った後、私とフランシスカは二人きりになり、気まずい空気に包まれる。
「えっと……マレイちゃん、入る?」
「あ、はい」
「それじゃあ、どうぞっ!」
桜色のワンピースが可愛いフランシスカは、声も笑顔も明るい。はつらつとしている。
……しかし、どこかぎこちない。
フランシスカの部屋は、いかにも女の子のものといった感じだった。
あまり広い部屋ではない。しかし、ベッドの掛け布団や椅子とテーブルのセットなど、すべてが可愛らしい物だ。桜色を基調とし、ところどころ、レースやリボンなどで飾られている。
「そこに座っていていいよっ。あ、コーヒー飲める?」
「飲めないことはないです」
「好きじゃない?」
「えっと……あまり」
私は椅子に腰を掛け、フランシスカの問いに答えていく。だが、不必要に緊張してしまい、上手く話せない。トリスタンの時はそんなことはなかったのに。
「じゃあ、ハーブティーとかにするっ?」
彼女は明るく接してくれる。なのに私は、同じように明るく返せない。
「……あ、はい」
「はいはーい! じゃ、ハーブティーにするねっ!」
私は椅子に座ったまま、彼女の背を見つめていた。
背筋はピンと伸び、脚はすらりと長く。後ろ姿からでさえ、自信がみなぎっているのが分かる。彼女は可愛い顔立ちだが、顔が見えずとも、魅力的な女性であると察することができてしまう。
——私とは大違い。
つい、はぁ、と溜め息を漏らしてしまった。
私は、私の顔を、不細工だと思ったことはない。しかし美人と思ったこともない。ただ、私はどこにでもいるような普通の女だ。顔立ちはもちろん、髪色も毛質も、平凡である。他の女性に勝てるような部分は一つもない。
「——ちゃん! マレイちゃん!」
はっとして、顔を上げる。
すると目の前にフランシスカの姿があった。マグカップを持ち立っている彼女は、怪訝な顔をしている。
「ぼんやりして、どうしたの?」
「……あ。ごめんなさい。少し、考え事を」
ますます気まずくなってしまった。
「考え事? えー、なになにっ?」
フランシスカはマグカップを私の前へ置くと、トントンと数歩歩いて、ベッドに腰掛ける。それから、その長い脚をパタパタと動かす。
「フランで良かったら聞いてあげるよっ」
彼女は優しかった。
ほんの一瞬怪しんだりはしたけれど、彼女はやはり、親切で良い娘だ。
きっと、そうに違いない。
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