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前編

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 あたしには婚約者がいる。
 名はオーズ。
 学園時代、彼があたしとくっつくことを望み彼の親があたしの親に頼み込んだことで、この婚約が成立した。

 だが、最近になって状況は一変。

 オーズの職場の女性らしいのだが、彼に近づいてくる女性が出現したのだ。

 その女性アーネットは、オーズに婚約者がいることを知っている。が、だからこそ燃えるというものなのか、婚約者の存在などお構いなしにオーズにすり寄り甘い言葉をかけ続けた。

 その結果。
 オーズはまんまと罠にはまってしまった。

 ここのところ、オーズはいつもアーネットの話ばかりする。彼女のことを隠そうとはしていない。だが、あまりにも嬉しそうに「可愛い女性でさ~、も~、ホント好きになっちゃいそうなんだよね~」とか「惚れるわ~」とか「いっつもかっこいいって言ってくれるんだよ~」とか言ってくるものだから、呆れてしまった。

 隠すより良いのかもしれないけれど。

 でも普通婚約者に別の女の話をするか?
 かっこいいと言ってもらったことを自慢したりするものなのか?

 そんな疑問を抱いていた、ある日。

「ごめんね、急に」
「いいえ」

 オーズに呼び出された。
 場所は彼の家の近くにある公園。

「ところで、どうして女性もいるのかしら」

 オーズはなぜか女性を連れてきていた。

「実は……君との婚約を破棄することにしたんだ」

 そう述べる彼は真面目な顔をしていた。

「急すぎない?」
「うん。でも……もう、早く、君と離れたいんだ。で、この女性と結婚したいんだ」

 彼は何の躊躇いもなくそう発した。

「……そう、分かったわ」

 もはや彼の心を取り戻すことはできないのだろう。

「あたし、慰謝料は請求するわよ。躊躇なく、ね」
「払うよ」
「分かった。ならいいわ。……じゃあね」
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