誰もが居場所を求めてる。 ~人と魔の者の物語~

四季

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ノワール 復讐はしない、そんな望みはない。

後編

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『なぜだ、理不尽なことをされておるというのに』
「ボクはソレアに会えたらそれでいいし」
『憎いだろう、人間が』
「だからってやり返そうってのは単純過ぎるよ」

 ゼツボーノの息はノワールの中でまだ続いている。そしてそれは時に疼きとなり苦しみともなるわけだが。それでもなおノワールは後悔してはいなかった。

「……いいじゃん、べつに。アンタが苦しむわけじゃないんだから」

 だがそんなノワールにも小さな悩みはあって。
 それは、魔の者に対して怒っている人が怒鳴り込んでくることだった。

「お前ら怪物のせいで俺の親も家族も死んだんだ!」

 また、ノワールの行動によって被害を受けた人のみならず、他の魔の者から被害を受けた者までもがノワールに怒ってくることがあるのだ。

 そういう時、ノワールは少しもやもやしていた。

「謝れよ! 責任を取れよ! 何なら、死をもって償え!」
「ごめんなさい」

 魔の者である以上責任から逃れることはできない。
 そう思ってはいても。
 それでもなお、どこか、納得できない部分があって。

「やる気なさすぎだろ! もっと真面目に謝れ!」

 特に、その日やって来た男はかなり感情的だった。
 ノワールの謝罪に納得できなかった男はノワールの暗い色の髪を掴んでそのまま頭を床へ押し付ける。

「こうやって謝れよ!」
「……申し訳ありませんでした」

 ノワールはされるがままに謝罪する、が、男の怒りはその程度では収まらなかった。男は荒い息をしながら「何だその棒読み!」と叫び、片足を豪快に持ち上げてからノワールの頭を踏みつける。その辺りで付近にいた隊員から「そちら実験体ですのであまり乱暴なことは」と注意が入るが、感情のうねりに呑み込まれている男がその程度で止まるはずもなく。土下座のような体勢を取るノワールを男はやがて蹴り飛ばす。

「俺の親も家族も生きられなかったというのに、どうしてお前が当たり前のように生きてるんだ!」
「……それは、ボクじゃどうしようもないこと、です」
「ふざけんな!!」
「気の毒には……思う、ケド、この世にはどうしようもない運命もある……」

 すると男は懐から小型の刃物を取り出す。

「ならお前が死んでも文句はないってことだな!!」

 刃物を手にノワールに襲いかかった男は――ついに傍にいた隊員によって取り押さえられた。

 善意でノワールを護ろうと思ってのことではない。ただ、討伐隊側からしても、唯一に近い協力者を壊されるわけにはいかなかったのだ。

 その後。

「……意外だね、人間がボクを護るなんて」

 取り押さえられた刃物男が退室させられていってから、隊員と二人きりになったノワールは呟くように放つ。

「そうでしょうか。一応今の貴方は隊にとって必要な存在ですから、当たり前の対応ですよ」
「都合のいい実験体だもんね」
「ま、そういうことになりますね。ただ、無意味なことではありませんよ。この国の発展には間違いなく役に立つでしょう」

 無機質な会話はすぐに途切れた。

 その日の夜も、ゼツボーノは復讐を訴える。

 なぜあんなことをされて黙っているのか、と。
 けしかけるような言葉を響かせる。

 しかしノワールは相変わらず「しない」と返すだけだった。


◆終わり◆
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