誰もが居場所を求めてる。 ~人と魔の者の物語~

四季

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episode.33 道はそれぞれ

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 客室に一人佇む。
 手には先端が鎌の刃部分のようになっている武器。

 万が一魔の者が現れたなら、これで倒す。

 戦うなんてなれない。経験もほぼない。ただそれでも今は一人一人が己にできることをやるしかない状況。だから私も、もし敵が現れたなら何とか倒すつもりでいる。目の前に現れたのが強力な敵だったらどうしようもない、でも、弱めの敵なら少しは何かできるはず。

 ――そんな風に思って客室にいたところ、既に一度は魔の者を倒すことができた。

 幸い巨大なタイプではなかった。もやもやだけのひ弱な感じの魔の者だった。なので私でもこの武器だけで倒すことができた。無論、幸運あってこその勝利ではあるけれど。それでも一つ自信となった。

「ソレア!」

 次に備えて武器を両手で握り構えていたら、急に名を呼ばれた。

 そちらへ目をやれば、声の主がノワールであるとすぐに分かった。

「帰ってきたの?」
「……良かったよ、生きてて」

 思ったより早い合流だった。

「で、その武器は何?」

 ノワールは眉間に軽くしわを寄せて尋ねてくる。
 その視線は私が持つ武器へ向いていた。

「これはね、アオイさんがくれたの。討伐隊から支給されたものなんですって」
「そ。で、使えた?」
「ええ! 一体倒したのよ、私!」

 ここぞとばかりに自慢すれば、ノワールは信じられないような顔をして「嘘でしょ」とこぼす。

 妥当な反応だろう。
 私のような弱い人間が魔の者を倒す、なんてこと、普通は考えられないだろうと思う。

「ふふ、本当なのよ! 嘘みたいだけれど嘘じゃないわ」
「……怪我はない?」
「ええ」
「そう、なら良かった」

 そんなありふれたやり取りを重ねて。

「ノワールは何か倒したの?」
「うん、中くらいのを何体か」
「凄い!」
「……ソレア、いちいち大袈裟だよ」
「私もそんな風になりたいなぁ、いつかはきっと……」

 夢を語るような演技をすれば。

「ならなくていいよ」

 彼はそう言いきった。

 額から少し浮き上がって見えるようにセットされた前髪は、戦闘後であろう今でもきちんと整っている。それに加えて涼しい顔。まるで何もなかったかのようにノワールの見た目は整っている。戦闘後には見えない。

「……ソレアはそんな風にならなくていい」

 彼は目を伏せ気味にして小さくそう呟いていた。


 ◆


 街中、そこでは数え切れぬほどの魔の者と討伐隊の隊員らが交戦している。その中に交じって戦う女が一人――彼女の名はルナ。そう、ノワールらのもとを離れたルナは今人々のために戦っている。彼女が動くのはすべてノワールのためであり、彼女自身人々のためなどという崇高な意思で動いているわけではないが――それでも、魔の者を倒すというその行動が結果的に人々のためになっているのである。

 武器もなく、防具もまとわず、舞うように魔の者を次々倒してゆく女性。そんなものは異端の極み。それゆえ人々の目に留まる。その強さと麗しさという魅力は、隊員たちの目すらも釘付けにするほどのものであった。

「無類の強さですね、あの女性」
「そうですな……信じられないですな……」
「しかも美女とか最高だよな!」
「コレ! やめんかっ」
「うっす……黙っる……」

 しなやかかつ力強いルナの前では並の魔の者などまともに抵抗できない。

 ただ潰される。
 ただ仕留められる。

 ルナの前に立つこととなった魔の者の未来はそれしかない。

 そして、コルトもまた、そんな鬼神のごとき強さのルナに目を奪われていた。

「お強いですね」

 ルナが一旦下がったタイミングを見計らい、コルトは声をかける。

「あら? アタシに何か用かしら」
「自分はコルトと申します! 魔の者討伐隊の隊員です。お姉さん、お名前は――」
「ルナよ、よろしくね坊や」
「へっ!?」

 いきなりの上から目線に戸惑うコルト。

「何か変かしら」
「あ、い、いえ……少し、びっくりしまして」

 コルトは緊張気味な面持ちでいる。

「ま、討伐隊と名乗るからにはしっかり討伐することね」

 ルナはふふっと余裕のある大人びた笑みを見せ、再び魔の者との戦いへと身を投じる。

「……ルナ、さん」

 その場に残されたコルトは誰に届けるでもなく聞いたばかりの名を繰り返す。

「かっこいい……」


 ◆


 あれからも私とノワールはぷちぷちと魔の者を潰した。

 客室へ来た個体だけだけれど、確実に仕留めた。

「ソレア、疲れてない?」
「ええ大丈夫よ」
「……ホントに、いいんだよ寝てて」
「寝て!?」
「……その、ホントにさ、ボク一人で大丈夫だから」

 ノワールはいつも私の身を気にかけてくれるけれど、今は彼の体力の方が少し心配だ。これだけずっと戦っていて体力が尽きないのだろうか、と思ってしまって。どうしても見ていて不安になってしまう。

 そんな時だ、突如震動が身も空間もを貫いた。

 足もとどころか地下深くからせり上がるような衝撃。思わず前方にふらける。幸い前にノワールがいたので彼に支えてもらったことで幼児のような転倒だけは避けられた。

 ただ、震動に驚いて武器から手を離してしまったため、武器だけは床に倒れた。

「何が起きたの……?」
「……分かんない。でも」
「でも?」
「凄く……凄く、嫌な感じがする」

 ノワールの口角が僅かに下がった。

「これって、もしかして……」

 彼は低く固い声でこぼす。

「ゼツ、ボーノ――?」

 ここからは少し距離があるけれど、窓の外が墨汁をこぼしたかのように黒く染まっていくのが見えた。

 これはただごとじゃない、強くそう思う。

「そんな、どうして」
「分かるわけないでしょボクに。ケド……良くないことを企んでるっていうのは何となく想像できるところだよね」
「怖いわ」
「……大丈夫、一緒にいるから」
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