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36.水着の女性の本について!
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聖夜祭終了後、フレアはリカルドと合流する。
その時には、リカルドは精神的に疲れ果てていた。開催中ずっと女子生徒に絡まれ続けたからだ。親しくなりたいという雰囲気を醸し出しつつやたら積極的に話しかけてくる女子生徒たちの存在は、リカルドにとって苦痛でしかなったのだ。
「お疲れ様。リカルド。何だか凄く疲れてるみたいね」
「あぁ」
リカルドの顔面が異様にげっそりしていたから、フレアも異変に気づいた。
「女の子と楽しんだから、かしら」
「……ったく、何を言ってる。楽しんでいない。あんなものは苦痛でしかなかった」
ばっさり言ってのけたリカルドを見て、ミルフィは「相変わらず愛想ないですねぇ」と発する。その顔は笑っていた。元より不愉快に思っていたリカルドが疲れているのを見て、楽しかったのかもしれない。
「苦痛なの? リカルド」
フレアは茶化すような目つきで正面のリカルドを見る。
それに対し、リカルドは溜め息をついた。
「俺が女好きに見えるか」
「そうね。見えないわ」
「……ったく、それなら言うなよ。疲れる」
日頃から愛想ない。酷な言葉を突きつける。それがリカルドという人間ではあるが、今日はまた一段と機嫌が悪い。言動一つ一つに棘ができている。今の彼を見て良い印象を受ける者は、この世にはほとんど存在しないことだろう。
「ごめんごめん。とにかく、休んだ方が良さそうね」
外はもう暗い。生徒や教師で賑わっていたホールも、既に暗くなった。明日は授業がないので急いで寝なくてはならないわけではないが、それでも、まもなく就寝の時間。寮へ戻らねばならない。
「じゃあ、お休み! リカルド、また明日ね!」
「あぁ」
かくして、フレアはリカルドと別れた。
同室のミルフィと共に寮の部屋へと向かう。
数日後の休み時間、前の席のハインがいきなり話しかけてくる。
「見よ。この美ボディと美水着を」
ハインはいつもと変わらず水着の女性の写真が載っている本を手にしていた。しかも、見開きの大きな写真のページを開いた状態にして、フレアに見せようとしている。
「わぁ! 凄い! 素敵な写真ね」
フレアは水着を持っていない。小さい頃は水遊び用に水着を所持していたが、成長していくうちに水遊びなんてしなくなった。だから、今のフレアが着ることのできる水着は持っていないのだ。それに、そもそも欲しいと思わないのだが。
けれど、ハインが見せてきた女性が着用している水着には、同性のフレアでさえ惚れそうだった。
強い日差しの下にいるとは到底考え難いような透明感のある肌。唇と頬はほんのりと優しい桜色で、手足は長い。着ている水着は上下が別になっているタイプのもので、唇や頬と同じような桜色をしている。水着自体はかなりシンプルなもの。ただし、腰の側面についた細めのリボンが遊び心を加えていて、退屈な仕上がりにはなっていない。
「これが今のお気に入りなの?」
女性の背後の海と空——その爽やかな色合いも印象的だ。
「うむ。その通り」
「へぇー。ハインはセンスが良いのね」
フレアが軽く共感を示すと、ハインは急に語り出す。
「まず注目してほしいのは、ウエストから腰にかけてのライン。ウエストはきゅと締まり、腰は少々ふっくらと。そこをまず見よ。触れている指先を想像しつつ眺めるも良し。次に、太ももと腕の付け根。太ももは肉付きの良さを、腕の付け根は胸へ繋がる曲線を、それぞれ楽しむことを推奨する」
日頃は静かで多くを語らないのに、興味がある分野の話になった途端物凄い勢いで話し始める者というのも、世の中にはたくさんいる。今のハインはまさにその真骨頂のようなものだ。興味に偏りがある、と言うと悪いことのようだが、爆発力があるという意味ではこういった者も悪い存在ではない。
「す、凄く詳しいのね……」
異様に長い解説を受けてしまったフレアは、戸惑いつつ、そんなことを返す。
「うむ? 関心がない、と?」
「え。……い、いいえ! 興味ならあるわよ! ただ少し話についていけなかっただけなの」
「愚かと思っているわけではないか?」
「まさか! それはないわよ」
正直、フレアにはハインの話のすべてを理解することはできなかった。ただ、理解できなかった訳は分かる。フレアは女体への興味が薄い——すべてはそれが原因だ。
「なぬ? 理解できぬと?」
「この女性が素敵なことくらいしか……正直言うと掴めていないわ」
フレアは飾らない。知ったかぶりも極力しないよう心掛けている。なぜなら、そんなことをしても化けの皮が剥がれた時に惨めなだけだから。無理矢理分かったような顔をしても、後で恥をかくだけのこと。それなら最初からありのままの方が良い。分からないことは尋ね、知らないことは知らないと認められたなら、それが一番成長できる。
「改めて、一つずつ説明してもらっても良いかしら」
フレアは正直に言った。しかしハインが不機嫌になることはなかった。ハインは付き合う気でいるようだ。写真をさらに深く解説する気満々である。
「この写真の魅力を、か?」
「えぇ! 素人に教えてちょうだい!」
「うむ。よかろう」
「ありがとう! きちんと聞くわねっ」
水着本がとにかく好きなハインと、いずれ王国の頂点に立つであろうフレア。二人は真逆のような存在だ。しかしながら、性格が合わないということはなかった。フレアは水着本に前向きな興味を持っているし、ハインもそんなフレアをそっと受け止めようとしている。そういう意味では、二人の関係は良好と言えるだろう。
「えっと……まず最初は、ウエストから腰だったかしら?」
机の上には水着本。しかも、見開きで大きく女性が載っている。モデルの女性は美人さんだ。ただし、どこの誰かは知りようがない。
「うむ。そう。ラインを感じつつ見つめて楽しむ」
「奥深いのね……!」
「最初は顔を見てしまいがちなそうな。だが、注目すべきは絶対にそこではない。忘れぬように」
その時には、リカルドは精神的に疲れ果てていた。開催中ずっと女子生徒に絡まれ続けたからだ。親しくなりたいという雰囲気を醸し出しつつやたら積極的に話しかけてくる女子生徒たちの存在は、リカルドにとって苦痛でしかなったのだ。
「お疲れ様。リカルド。何だか凄く疲れてるみたいね」
「あぁ」
リカルドの顔面が異様にげっそりしていたから、フレアも異変に気づいた。
「女の子と楽しんだから、かしら」
「……ったく、何を言ってる。楽しんでいない。あんなものは苦痛でしかなかった」
ばっさり言ってのけたリカルドを見て、ミルフィは「相変わらず愛想ないですねぇ」と発する。その顔は笑っていた。元より不愉快に思っていたリカルドが疲れているのを見て、楽しかったのかもしれない。
「苦痛なの? リカルド」
フレアは茶化すような目つきで正面のリカルドを見る。
それに対し、リカルドは溜め息をついた。
「俺が女好きに見えるか」
「そうね。見えないわ」
「……ったく、それなら言うなよ。疲れる」
日頃から愛想ない。酷な言葉を突きつける。それがリカルドという人間ではあるが、今日はまた一段と機嫌が悪い。言動一つ一つに棘ができている。今の彼を見て良い印象を受ける者は、この世にはほとんど存在しないことだろう。
「ごめんごめん。とにかく、休んだ方が良さそうね」
外はもう暗い。生徒や教師で賑わっていたホールも、既に暗くなった。明日は授業がないので急いで寝なくてはならないわけではないが、それでも、まもなく就寝の時間。寮へ戻らねばならない。
「じゃあ、お休み! リカルド、また明日ね!」
「あぁ」
かくして、フレアはリカルドと別れた。
同室のミルフィと共に寮の部屋へと向かう。
数日後の休み時間、前の席のハインがいきなり話しかけてくる。
「見よ。この美ボディと美水着を」
ハインはいつもと変わらず水着の女性の写真が載っている本を手にしていた。しかも、見開きの大きな写真のページを開いた状態にして、フレアに見せようとしている。
「わぁ! 凄い! 素敵な写真ね」
フレアは水着を持っていない。小さい頃は水遊び用に水着を所持していたが、成長していくうちに水遊びなんてしなくなった。だから、今のフレアが着ることのできる水着は持っていないのだ。それに、そもそも欲しいと思わないのだが。
けれど、ハインが見せてきた女性が着用している水着には、同性のフレアでさえ惚れそうだった。
強い日差しの下にいるとは到底考え難いような透明感のある肌。唇と頬はほんのりと優しい桜色で、手足は長い。着ている水着は上下が別になっているタイプのもので、唇や頬と同じような桜色をしている。水着自体はかなりシンプルなもの。ただし、腰の側面についた細めのリボンが遊び心を加えていて、退屈な仕上がりにはなっていない。
「これが今のお気に入りなの?」
女性の背後の海と空——その爽やかな色合いも印象的だ。
「うむ。その通り」
「へぇー。ハインはセンスが良いのね」
フレアが軽く共感を示すと、ハインは急に語り出す。
「まず注目してほしいのは、ウエストから腰にかけてのライン。ウエストはきゅと締まり、腰は少々ふっくらと。そこをまず見よ。触れている指先を想像しつつ眺めるも良し。次に、太ももと腕の付け根。太ももは肉付きの良さを、腕の付け根は胸へ繋がる曲線を、それぞれ楽しむことを推奨する」
日頃は静かで多くを語らないのに、興味がある分野の話になった途端物凄い勢いで話し始める者というのも、世の中にはたくさんいる。今のハインはまさにその真骨頂のようなものだ。興味に偏りがある、と言うと悪いことのようだが、爆発力があるという意味ではこういった者も悪い存在ではない。
「す、凄く詳しいのね……」
異様に長い解説を受けてしまったフレアは、戸惑いつつ、そんなことを返す。
「うむ? 関心がない、と?」
「え。……い、いいえ! 興味ならあるわよ! ただ少し話についていけなかっただけなの」
「愚かと思っているわけではないか?」
「まさか! それはないわよ」
正直、フレアにはハインの話のすべてを理解することはできなかった。ただ、理解できなかった訳は分かる。フレアは女体への興味が薄い——すべてはそれが原因だ。
「なぬ? 理解できぬと?」
「この女性が素敵なことくらいしか……正直言うと掴めていないわ」
フレアは飾らない。知ったかぶりも極力しないよう心掛けている。なぜなら、そんなことをしても化けの皮が剥がれた時に惨めなだけだから。無理矢理分かったような顔をしても、後で恥をかくだけのこと。それなら最初からありのままの方が良い。分からないことは尋ね、知らないことは知らないと認められたなら、それが一番成長できる。
「改めて、一つずつ説明してもらっても良いかしら」
フレアは正直に言った。しかしハインが不機嫌になることはなかった。ハインは付き合う気でいるようだ。写真をさらに深く解説する気満々である。
「この写真の魅力を、か?」
「えぇ! 素人に教えてちょうだい!」
「うむ。よかろう」
「ありがとう! きちんと聞くわねっ」
水着本がとにかく好きなハインと、いずれ王国の頂点に立つであろうフレア。二人は真逆のような存在だ。しかしながら、性格が合わないということはなかった。フレアは水着本に前向きな興味を持っているし、ハインもそんなフレアをそっと受け止めようとしている。そういう意味では、二人の関係は良好と言えるだろう。
「えっと……まず最初は、ウエストから腰だったかしら?」
机の上には水着本。しかも、見開きで大きく女性が載っている。モデルの女性は美人さんだ。ただし、どこの誰かは知りようがない。
「うむ。そう。ラインを感じつつ見つめて楽しむ」
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