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1話「あの出来事までは」

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 私、オレッタは、金髪碧眼のどこにでもいるような平凡な女。
 ただ、実は平凡から僅かに離れているところがあって、それは『魔法が使える』というところだ。

 私は生まれながらに水属性の魔法を使えた。

 だからといって誰かに危害を加えるわけではないのだが――それでもなかなか良くは思ってもらえないことが多くて。

 どうしても、皆からは遠巻きに見られてしまうことが多かった。

 そもそも両親が私の力を恐れていたし時に私を化け物と呼ぶこともあったくらい。

 私はそんな環境で育ってきた。

 それでも学生時代勉強に打ち込んで、そしてようやく手に入れた王子バトレッサ・オーディオンとの婚約――これは国王が私を気に入ってくれての婚約であった。

 それゆえ、誰も文句を言うことなどできず。

 おかげで順調に進んでいた――結婚直前、ある事件が起きるまでは。


 ◆


 その日は平凡な日だった。
 私はバトレッサと共にそれほど広くない部屋でお茶を飲んでいた。

 しかし事件が起こる。

 火事であった。

 突如起こった火災。皆動揺し、彼もまたかなり動揺していて。彼は恐怖に耐えきれず窓から飛び降りようとする始末。このままでは火が迫る前に彼が自滅してしまう、そう思った私は、徐々に迫るそれに向けて魔法を発動した。我が魔法は水属性、それゆえ火には対応できる。だからこそ魔法を使ったのだ。その場にいる人々、そして誰よりも大事な存在である彼、その生命を守るために。

 ――だがそれが間違いだったのだ。

「オレッタ……君は、本当に……化け物だったのだな」

 火事騒ぎが落ち着いた後、バトレッサは私を怖いものでも見るかのような目で見てきて。

「あの火を掻き消してしまえるほどの魔法……とんでもないものだ、凄まじい。そして……人の息を超越した力、どこまでも恐ろしい……」

 彼は私を異端として見ていた。

 嫌な予感がする……。

 そして後日、彼から「婚約を破棄する」と伝えられた。

「そんな、どうして……」
「君は怪物だ、王家の人間と結ばれるのに相応しい女性ではない」
「怪物って……酷いですよ、さすがに、そんなの……」

 どうしてそんな目で私を見るの?

 ……私はただ皆を救っただけじゃない。

 あのままだったら火に呑み込まれるかあるいは危険な行動をとるかして死んでしまっていた。だから私は、それらを防ぐために魔法を使ったのだ。それはそんなにも悪いことなのだろうか。婚約破棄に至るほどのことなのだろうか。

「この国では古くから魔法を使う女は呪われていると言われている。父はあまり気にしていないようだが、大抵の人間は気にするものだ。君だってこの国で育ってきたのだから知っているだろう?」
「……そうですね、避けられることはありました」
「魔法を使える者は前世の行いが悪かったのか血が穢れているのだ」

 バトレッサは淡々と述べる。

 目の前にいる私が傷ついていることなんて気づいていないのだろう。

「君は同じような出の者とくっつくべきだ」
「……私の行動はそこまで罪でしたか」
「話を逸らすな。今は婚約破棄するという話をしているだけだ」
「……あの時、私は、皆さんの生命を救うべきではなかったのですか」

 言えば。

「うるさい!!」

 叫ばれてしまった。
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