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9話「気持ちと本当の目的」
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フルービルが突然真剣な眼差しを向けてきたものだから、私はすぐには言葉を返せなかった。
人の気配のない場所で静寂だけが私たちを見守る。
「僕、実は、以前から貴女のことが気になっていたんです。もし良かったら、ですけど、僕と付き合ってくれませんか?」
ついに言われてしまった。
直球で想いを伝えられ、頭のてっぺんから足のつま先まで熱が一気に広がる。
彼のことは信頼しているし、嫌いとも思っていない。可能なら共に過ごしたい、という気持ちも、抱いていないわけではない。ただ、それでも、いきなり想いを告げられると速やかには対応できなかった。こんな風に気持ちを伝えられた経験がないから、こういう時どう対処すれば良いのかが分からないのである。
「えっと……その、本気……ですか? ネタではなく?」
「本気ですよ。腸が三倍の長さになるくらい本気です」
腸が三倍の長さになるくらい……それは『かなり』という意味で解釈して問題ないのだろうか。
「僕は良家の人間ではないです。でも、できるなら、リリアンさんを幸せにしたいのです」
「……正直戸惑っています」
「ですよねー。そうなると思いました。すみません、いきなりで」
訪れる沈黙。お互いにどうすれば良いか分からないまま、時間だけが過ぎてゆく。今の私にできることは、規則的に交互に足を前に出すことだけ。それ以外はどう頑張ってもできない。そんな状態のまま、湖畔へ向かうこととなってしまう。
大切に想ってくれているなら、それに応えなくてはならないだろうか? ……でも、何もどうすれば応えられたことになるのだろう。話を進めることが一番?あるいは、それ以外のことを何かすることが大切?
よく分からない部分が大きすぎて、自力で判断することはできない。
「あっ……!」
モヤモヤしながら歩いていると、湖が見えてきた。
「あれが湖ですよね!」
それまでの気まずさを一時的に忘れていた私は、自然とそんなことを口にしてしまっていた。
「え。はい。そうですそうですー」
私がいきなり明るく話しかけたからだろうか、フルービルの表情は心なしか引きつったような感じになっていた。顔の筋肉が即座に対応できなかったのかもしれない。
「綺麗ですね!」
「ええっ。もう綺麗と思われたんですかっ」
「……おかしいですか?」
「いやいや、そんなつもりじゃなくてですねーっ……その、素晴らしい感性をお持ちだな、と」
フルービルは心なしか恥ずかしそうな顔つきをしている。
意外と可愛らしいところもあるじゃないか、なんて、思ってしまった。
「この湖がフルービルさんのオススメなんですよね」
「あー……まぁ、そんな感じ……?」
フルービルの言い方はかなり曖昧なもので、不自然に思い尋ねる。
「もしかして、それが本題ではなかったのですか?」
すると彼は、急に頬を赤く染めた。こちらへ真っ直ぐに向かってきていた視線がぶれ始め、手や体の動きも心なしかぎこちなくなる。
「あー……は、はい……実は。その……そう、です」
人の気配のない場所で静寂だけが私たちを見守る。
「僕、実は、以前から貴女のことが気になっていたんです。もし良かったら、ですけど、僕と付き合ってくれませんか?」
ついに言われてしまった。
直球で想いを伝えられ、頭のてっぺんから足のつま先まで熱が一気に広がる。
彼のことは信頼しているし、嫌いとも思っていない。可能なら共に過ごしたい、という気持ちも、抱いていないわけではない。ただ、それでも、いきなり想いを告げられると速やかには対応できなかった。こんな風に気持ちを伝えられた経験がないから、こういう時どう対処すれば良いのかが分からないのである。
「えっと……その、本気……ですか? ネタではなく?」
「本気ですよ。腸が三倍の長さになるくらい本気です」
腸が三倍の長さになるくらい……それは『かなり』という意味で解釈して問題ないのだろうか。
「僕は良家の人間ではないです。でも、できるなら、リリアンさんを幸せにしたいのです」
「……正直戸惑っています」
「ですよねー。そうなると思いました。すみません、いきなりで」
訪れる沈黙。お互いにどうすれば良いか分からないまま、時間だけが過ぎてゆく。今の私にできることは、規則的に交互に足を前に出すことだけ。それ以外はどう頑張ってもできない。そんな状態のまま、湖畔へ向かうこととなってしまう。
大切に想ってくれているなら、それに応えなくてはならないだろうか? ……でも、何もどうすれば応えられたことになるのだろう。話を進めることが一番?あるいは、それ以外のことを何かすることが大切?
よく分からない部分が大きすぎて、自力で判断することはできない。
「あっ……!」
モヤモヤしながら歩いていると、湖が見えてきた。
「あれが湖ですよね!」
それまでの気まずさを一時的に忘れていた私は、自然とそんなことを口にしてしまっていた。
「え。はい。そうですそうですー」
私がいきなり明るく話しかけたからだろうか、フルービルの表情は心なしか引きつったような感じになっていた。顔の筋肉が即座に対応できなかったのかもしれない。
「綺麗ですね!」
「ええっ。もう綺麗と思われたんですかっ」
「……おかしいですか?」
「いやいや、そんなつもりじゃなくてですねーっ……その、素晴らしい感性をお持ちだな、と」
フルービルは心なしか恥ずかしそうな顔つきをしている。
意外と可愛らしいところもあるじゃないか、なんて、思ってしまった。
「この湖がフルービルさんのオススメなんですよね」
「あー……まぁ、そんな感じ……?」
フルービルの言い方はかなり曖昧なもので、不自然に思い尋ねる。
「もしかして、それが本題ではなかったのですか?」
すると彼は、急に頬を赤く染めた。こちらへ真っ直ぐに向かってきていた視線がぶれ始め、手や体の動きも心なしかぎこちなくなる。
「あー……は、はい……実は。その……そう、です」
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