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第九十五回 クリスマス(4)
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喫茶店を出た僕らは、寒い風の中、人のいない道を歩く。一歩前へ進むたび、冷たい風が肌を刺す。それでも辛いと思わないのは、隣に由紀がいるからだろう。
まずは近所の公園へ向かった。
ブランコ、シーソー、鉄棒など、様々な遊具が置かれている。色がはっきりしていることから察するに、さほど古くはないのだろう。ただ、端などがところどころ欠けているので、まったく使われていないということもなさそうだ。
春や夏の午後なら、子どもやその親で賑わっていそうな公園である。
しかし、これだけ寒いと誰もいない。
「広い公園ですね」
「うん! でも、今日は誰もいないね。前に来た時は、幼稚園の子で賑わってたんだけど」
「寒いからでしょうかねー」
こんな真冬に外で遊んでいたら、間違いなく風邪を引くだろう。
もっとも、子どもはよく風邪を引くものだから、ある意味それで良いのかもしれないが……。
その後も僕らは歩き続けた。
三階分くらいは軽くありそうな立派な外観の図書館に圧倒されたり。浅いもののしっかりと流れている川を見下ろしたり。
そんな風に、二人の時間を過ごした。
そして最後。
晩御飯を食べに店へ向かう。
由紀が案内してくれたのは、イタリアンの店だった。駅から少し離れたところにある一軒家のようなイタリアンレストランだ。
扉を開けて店内へ踏み込んだ瞬間、おしゃれな内装に心を奪われた。お手洗いの入り口の扉にリースが掛かっていたり、雪の結晶を模した置物やスノードームが置かれていたり、クリスマス感満載だ。
それに、由紀が前もって予約してくれていたらしく、スムーズに席へ案内してもらえた。
「おしゃれなお店ですね」
席へ案内してもらっている途中、僕は由紀に話しかける。
「実はここ、あたしの知り合いの店なの」
「そうなんですか!」
「うん。学生時代の友達がやってるんだ」
「へぇ、凄いですね」
輝いている人には輝いている友達がいるのだな、と、純粋に感心した。
「では、こちらへどうぞ。メニューお持ちします」
僕と由紀が案内されたのは二人席。二人席ばかりが並んでいるエリアだった。片側はソファ、片側は椅子。僕は由紀に促され、ソファに座ることになった。ふかふかのソファだ。
少し落ち着いてから、周囲を見渡す。
クリスマスというのもあってか、二人席には、カップルらしき男女の姿が多く見受けられた。
もしかしたら僕たちもそんな風に見られているかも?
だが、特別な服を着ているカップルが多い中だと、僕たちは少し浮いてしまうかもしれない。そんな風に思った。
由紀はともかく、僕は、特に浮いてしまっていそうだ。
「き、緊張します……」
思わず情けないことを漏らしてしまう。
「そう?」
「だって僕……女の人とこんなところへ来たことがないので……」
「そういうことね。なら大丈夫! すぐ慣れるよ!」
由紀は真っ直ぐに笑っていた。
それから一時間半ほどが過ぎて。
僕と由紀はイタリアンレストランから出た。
「美味しかったです!」
「ホント? そう言ってもらえたら嬉しいんだけど」
「もちろん本当ですよ。特にピザが美味しくて」
既に日は落ち、空は黒に染まっている。昼間よりも寒さは増し、吐く息が白く宙を舞う。
今は、駅へ戻るべく、足を進めているところだ。
「気に入ってもらえて安心したよー」
「良いお店を教えて下さってありがとうございます!」
「いえいえー」
大通りに差し掛かる。
車はそれなりの台数見えるが、人はそんなに多くない。
信号は青。渡れそうだ。
「青だね。岩山手くん、この青で渡る?」
「あ、はい。そうしましょう」
「オッケー! じゃ、先に行ってお——」
刹那。
少し先に車道へ出た由紀の方に向かって、トラックが走ってくるのが見えた。
信号は確かに青。
点滅し始めてもいないから、渡っていて問題ないはず。
なのにどうしてトラックが……。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
「由紀さん!!」
僕は彼女に向かって駆け出す。そして、愕然として硬直している彼女の体を、突き飛ばした。
僕はバランスを崩し、そのまま地面に転んでしまう。
迫る、ライト。
響く、急ブレーキの音。
——まずい!
そう思ったところで、意識は途切れた。
まずは近所の公園へ向かった。
ブランコ、シーソー、鉄棒など、様々な遊具が置かれている。色がはっきりしていることから察するに、さほど古くはないのだろう。ただ、端などがところどころ欠けているので、まったく使われていないということもなさそうだ。
春や夏の午後なら、子どもやその親で賑わっていそうな公園である。
しかし、これだけ寒いと誰もいない。
「広い公園ですね」
「うん! でも、今日は誰もいないね。前に来た時は、幼稚園の子で賑わってたんだけど」
「寒いからでしょうかねー」
こんな真冬に外で遊んでいたら、間違いなく風邪を引くだろう。
もっとも、子どもはよく風邪を引くものだから、ある意味それで良いのかもしれないが……。
その後も僕らは歩き続けた。
三階分くらいは軽くありそうな立派な外観の図書館に圧倒されたり。浅いもののしっかりと流れている川を見下ろしたり。
そんな風に、二人の時間を過ごした。
そして最後。
晩御飯を食べに店へ向かう。
由紀が案内してくれたのは、イタリアンの店だった。駅から少し離れたところにある一軒家のようなイタリアンレストランだ。
扉を開けて店内へ踏み込んだ瞬間、おしゃれな内装に心を奪われた。お手洗いの入り口の扉にリースが掛かっていたり、雪の結晶を模した置物やスノードームが置かれていたり、クリスマス感満載だ。
それに、由紀が前もって予約してくれていたらしく、スムーズに席へ案内してもらえた。
「おしゃれなお店ですね」
席へ案内してもらっている途中、僕は由紀に話しかける。
「実はここ、あたしの知り合いの店なの」
「そうなんですか!」
「うん。学生時代の友達がやってるんだ」
「へぇ、凄いですね」
輝いている人には輝いている友達がいるのだな、と、純粋に感心した。
「では、こちらへどうぞ。メニューお持ちします」
僕と由紀が案内されたのは二人席。二人席ばかりが並んでいるエリアだった。片側はソファ、片側は椅子。僕は由紀に促され、ソファに座ることになった。ふかふかのソファだ。
少し落ち着いてから、周囲を見渡す。
クリスマスというのもあってか、二人席には、カップルらしき男女の姿が多く見受けられた。
もしかしたら僕たちもそんな風に見られているかも?
だが、特別な服を着ているカップルが多い中だと、僕たちは少し浮いてしまうかもしれない。そんな風に思った。
由紀はともかく、僕は、特に浮いてしまっていそうだ。
「き、緊張します……」
思わず情けないことを漏らしてしまう。
「そう?」
「だって僕……女の人とこんなところへ来たことがないので……」
「そういうことね。なら大丈夫! すぐ慣れるよ!」
由紀は真っ直ぐに笑っていた。
それから一時間半ほどが過ぎて。
僕と由紀はイタリアンレストランから出た。
「美味しかったです!」
「ホント? そう言ってもらえたら嬉しいんだけど」
「もちろん本当ですよ。特にピザが美味しくて」
既に日は落ち、空は黒に染まっている。昼間よりも寒さは増し、吐く息が白く宙を舞う。
今は、駅へ戻るべく、足を進めているところだ。
「気に入ってもらえて安心したよー」
「良いお店を教えて下さってありがとうございます!」
「いえいえー」
大通りに差し掛かる。
車はそれなりの台数見えるが、人はそんなに多くない。
信号は青。渡れそうだ。
「青だね。岩山手くん、この青で渡る?」
「あ、はい。そうしましょう」
「オッケー! じゃ、先に行ってお——」
刹那。
少し先に車道へ出た由紀の方に向かって、トラックが走ってくるのが見えた。
信号は確かに青。
点滅し始めてもいないから、渡っていて問題ないはず。
なのにどうしてトラックが……。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
「由紀さん!!」
僕は彼女に向かって駆け出す。そして、愕然として硬直している彼女の体を、突き飛ばした。
僕はバランスを崩し、そのまま地面に転んでしまう。
迫る、ライト。
響く、急ブレーキの音。
——まずい!
そう思ったところで、意識は途切れた。
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