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第九十四回 クリスマス(3)
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怪人グッズショップでの買い物を終えた僕と由紀は、どこかでお茶をしようという話になり、ショップの近くにあった喫茶店に入った。
「いやー、今日もいい買い物ができたわ! 岩山手くん、付き合ってくれてありがとう!」
喫茶店に入り、窓辺の席に並んで腰掛けるや否や、由紀は感謝を述べてくる。
「いえいえ。良い物が買えましたか?」
「うん!」
由紀は買ったグッズをテーブルに並べようとする。が、その直前に、女性店員が水の入ったグラスを持ってやって来た。どうせなので、と、このタイミングで注文することとなり、僕はアイスフルーツティー、由紀はウーロンマラカスティーを、それぞれ注文した。
女性店員が去っていってから、由紀は袋から購入した怪人グッズを取り出す。
「小型怪人が入った琥珀を使った時計。これ結構良かったよね」
「琥珀なんて渋いですよね」
怪人が入った琥珀。
最初に聞いた時は戸惑いを隠せなかった。
「うんうん。……あと、コレ!」
「何でしたっけ」
「スティック飴! いろんな怪人の顔の柄だよ」
「へぇ」
直径一センチの円柱。どこで割っても同じ柄になるという、あの飴だ。
「岩山手くん、どれにする?」
「え。いや、僕はいいですよ」
「カニの怪人、イカの怪人、タラの怪人の三柄あるから、どれか一本あげる!」
そんなことを言われても、という気分だ。
カニ、イカ、タラ。
どれも微妙で、どれか一つを選べと言われると難しい。
「えぇと……ではイカで」
「オッケー! はい、どうぞ!」
由紀は明るく言いながら、イカの怪人柄の飴を差し出してくれる。僕はそれを、静かに受け取った。
その時、ふと、忘れていたことを思い出す。
「あ、そうでした」
「ん?」
「由紀さん、これ……」
母親から預かっていた、由紀へ渡す用のお菓子。会ったらすぐに渡そうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
「何これ? 箱?」
「母からの……差し入れです」
差し入れ、という言い方は、少々相応しくなかったかもしれない。
「岩山手くんのお母さんから?」
「あ、はい」
直後、由紀の表情が一気に晴れやかになる。
「ありがとう!」
彼女は曇りのない瞳で言った。
「嬉しい! ありがとう! ちゃんと伝えておいてね」
「は、はい」
「よろしくね!?」
「はい! もちろんです!」
いきなりお菓子を渡したりしたら戸惑われてしまわないだろうかと、少し不安だった。が、由紀は純粋に喜んでくれて。笑顔になっている彼女を見たら、僕も自然と嬉しい気持ちになった。
「そうだ。この後どうする?」
「晩御飯にはまだ少し早いですよね……」
「散歩でもする?」
「……はい!」
これをしたいだとか、これは嫌だとか、そういった意見は特にない。しかし、だからといって早く別れたいということもないので、由紀の提案に頷いておいた。
「じゃ、少し散歩して、それから晩御飯食べに行こっか!」
「はい。それがいいと思います」
それからしばらくは、お茶を飲みながら喫茶店の店内で寛いだ。
僕が注文していた、瑞々しいフルーツが入ったアイスティーは、香りが非常に素晴らしかった。
「いやー、今日もいい買い物ができたわ! 岩山手くん、付き合ってくれてありがとう!」
喫茶店に入り、窓辺の席に並んで腰掛けるや否や、由紀は感謝を述べてくる。
「いえいえ。良い物が買えましたか?」
「うん!」
由紀は買ったグッズをテーブルに並べようとする。が、その直前に、女性店員が水の入ったグラスを持ってやって来た。どうせなので、と、このタイミングで注文することとなり、僕はアイスフルーツティー、由紀はウーロンマラカスティーを、それぞれ注文した。
女性店員が去っていってから、由紀は袋から購入した怪人グッズを取り出す。
「小型怪人が入った琥珀を使った時計。これ結構良かったよね」
「琥珀なんて渋いですよね」
怪人が入った琥珀。
最初に聞いた時は戸惑いを隠せなかった。
「うんうん。……あと、コレ!」
「何でしたっけ」
「スティック飴! いろんな怪人の顔の柄だよ」
「へぇ」
直径一センチの円柱。どこで割っても同じ柄になるという、あの飴だ。
「岩山手くん、どれにする?」
「え。いや、僕はいいですよ」
「カニの怪人、イカの怪人、タラの怪人の三柄あるから、どれか一本あげる!」
そんなことを言われても、という気分だ。
カニ、イカ、タラ。
どれも微妙で、どれか一つを選べと言われると難しい。
「えぇと……ではイカで」
「オッケー! はい、どうぞ!」
由紀は明るく言いながら、イカの怪人柄の飴を差し出してくれる。僕はそれを、静かに受け取った。
その時、ふと、忘れていたことを思い出す。
「あ、そうでした」
「ん?」
「由紀さん、これ……」
母親から預かっていた、由紀へ渡す用のお菓子。会ったらすぐに渡そうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
「何これ? 箱?」
「母からの……差し入れです」
差し入れ、という言い方は、少々相応しくなかったかもしれない。
「岩山手くんのお母さんから?」
「あ、はい」
直後、由紀の表情が一気に晴れやかになる。
「ありがとう!」
彼女は曇りのない瞳で言った。
「嬉しい! ありがとう! ちゃんと伝えておいてね」
「は、はい」
「よろしくね!?」
「はい! もちろんです!」
いきなりお菓子を渡したりしたら戸惑われてしまわないだろうかと、少し不安だった。が、由紀は純粋に喜んでくれて。笑顔になっている彼女を見たら、僕も自然と嬉しい気持ちになった。
「そうだ。この後どうする?」
「晩御飯にはまだ少し早いですよね……」
「散歩でもする?」
「……はい!」
これをしたいだとか、これは嫌だとか、そういった意見は特にない。しかし、だからといって早く別れたいということもないので、由紀の提案に頷いておいた。
「じゃ、少し散歩して、それから晩御飯食べに行こっか!」
「はい。それがいいと思います」
それからしばらくは、お茶を飲みながら喫茶店の店内で寛いだ。
僕が注文していた、瑞々しいフルーツが入ったアイスティーは、香りが非常に素晴らしかった。
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