悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第九十二回 クリスマス(1)

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 由紀とクリスマスに会う約束をしてからの僕の毎日は、ワクワクとドキドキに満ちていた。

 僕は自分を彼女に釣り合う人間だとは思っていない。だから、不必要な期待をしないように気をつけつつ、日々を過ごすよう意識しておいた。が、それでも、胸の高鳴りが消え失せることはなく。期待してはならないと自分を制止しながらも、何か幸せな変化が起こるのではないかと、少しだけ期待してしまっていたのだった。

 心に力が満ちている時、世界はいつもより、ずっと明るく華やかに見える。

 凄く不思議な感覚だった。

 冬の空、枝だけの街路樹、道の端のゴミのような色をした枯葉。それらは今までとまったく変わらず侘しい雰囲気を漂わせている。

 ……にもかかわらず、道を歩いても侘しい気分にはならない。

 まるで、魔法にかかったかのようだ。


 十二月二十五日、クリスマス当日。

 若者。カップル。家族を持つ者。
 今年も、様々な立場の者たちが皆揃って浮き足立つ日が、当たり前のようにやって来た。

 昼過ぎ、僕はマフラーや手袋やコートなど防寒具をしっかりと装着し、鞄とお菓子の箱を持って、待ち合わせ場所である根源駅へ向かう。

 ちなみに、お菓子の箱というのは、母親が勝手に用意したものである。

 僕が「クリスマスは由紀と出掛ける」と伝えると、母親は張りきって、勝手にお菓子を買ってきたのだ。可愛らしい雪だるまの柄の白い箱だが、母親の話によれば、中身は焼き菓子らしい。

 中身が無くなる物だとはいえ、由紀にいきなり贈り物をするというのは恥ずかしく、最初は断った。しかし母親が「母からって言っていいから!」と言いつつ圧力をかけてきたので、仕方なく持っていくことにしたのだ。


「こんにちは!」

 僕が根源駅の改札付近へ着いた時、由紀は既にそこにいた。

「こんにちは。大丈夫だった? 岩山手くん」
「は、はい!」

 由紀は、襟や袖にファーがついていて膝までぐらいの丈がある、豪華な雰囲気の茶色い上着を着ている。彼女にはシンプルな服装が似合うというイメージがあったが、豪華な雰囲気というのも悪くはなかった。意外と馴染んでいて、違和感がない。

「今日も寒いねー」
「はい。クリスマスという感じがしますね」
「だね!」

 そんな風にあっさりした言葉を交わしながら、僕たちはホームへと上がった。

 由紀と二人で出掛けるというシチュエーションにも、そろそろ慣れてきた。初めてではないから、不安さはあまりない。

 ただ、今日はクリスマスだ。

 それゆえ、今までのような何でもない日に出掛けるというのとは、気分が若干違ってくる。

「それで、今日はどこへ行くのですか?」
「双葉駅の駅前にあたしのオススメのショップがあるから、そこを案内しようかなーって」

 双葉駅は確か、根源駅から二駅くらいのところだったはず。わりと早く到着しそうだ。

「へぇ。ショップですか」
「うん!」
「何のショップなんですか?」
「怪人グッズ!」

 えー……。

 内心そんな風に思ってしまったことは黙っておこう。

「良いですね、怪人グッズ」
「でしょー?」
「はい。そう思います」

 取り敢えず楽しもう。
 僕は自分の心にそう誓った。
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