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第八十九回 シュダルク(2)
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脚を組み偉そうな座り方をしているシュダルクだが、あまり元気というわけではないようで、話しながら「はぁ」と溜め息をついている。大切な妻が見知らぬ男と歩いていたという事実が、彼の心を暗く重くしているのだろう。
他人の夫婦事情など、関係ない者からすれば、正直どうでもいいことだ。
しかし、憂鬱そうに大きな溜め息をつくシュダルクを見ていたら、どうも他人事とは思えなくなってきてしまう。
「わたしは綾香を心から愛している。それに、これまでずっと、その愛を惜しみなく伝えてきたはずだった。なのに、なのに……なぜ……」
かなり応えているようだ。
これは早急にどうにかしなくてはならない案件だろう。
「落ち着いて下さい、シュダルクさん」
「……む?」
「落ち込むにはまだ早いですよ」
そう、真実は分からない。
「しかし……妻が他の男と……考えるだけで涙が……」
「落ち着いて下さい、シュダルクさん」
「落ち着いていられるものか! 不可能だよ! そんなことは!」
直前までは弱々しい声色だったのに、突然声を荒らげた。
シュダルクの心はかなり乱れているようだ。
「……いや、君に当たるのは間違いだね。乱暴な言い方をしてしまって、すまない」
声を荒らげたのから五秒ほど経って、今度はそんな風に謝ってきた。ひとまず正気に戻ったようだ。
「いえ、気にしないで下さい」
「……ありがとう。そう言ってもらえると救われるよ」
青く発光する瞳は、静かに、こちらをじっと見つめている。
「それでだね。わたしはまず、妻をたぶらかした不届き者に、罰を与えようと思うのだよ」
右手を開き、手のひらを上向ける。
提案するようなポーズ。
優雅な所作だ。
「あの男を見つけだし、手始めにこの左手で切り裂いてやろうと思うのだが……どう思う?」
最初は冗談かと思った。
切り裂く、なんて。
「ぶ、物騒ですね……」
「あぁ。だが、そのくらいしなければ分からないだろう? 馬鹿者は」
それはそうかもしれないが。
だが、それは、相手の男がたぶらかしたと確定してからにするべきではないだろうか。
シュダルクの妻——綾香と、一緒に歩いていた男性が、そういう関係ではない可能性。何か事情があって一緒に歩いていただけだったという可能性。
それらが消滅しない限り、切り裂くのは止めておくべきだ。
……いや、もし浮気だったとしても、「切り裂く」はやり過ぎと思われかねないから、止めておいた方が賢明だろう。
「罰を与えるのは——浮気だと確定してからにしましょうよ」
「あぁ、もちろん。分かっているとも。わたしとて、罪無き者を切り裂いたりはしない。そこまで野蛮ではないからね」
「あと……」
「む? 何か良案があるのかね?」
首を軽く傾げるシュダルク。
「切り裂くのは止めておいた方が良いかと」
勇気を出して言ってみる。
すると彼は、驚きに満ちた声を放つ。
「なっ……!」
シュダルクの瞳が微かに揺れる。
「君はいきなり何を言い出すのかね!?」
「そんなことをしたら、シュダルクさんが誤解されてしまいかねません。ですから、乱暴なことをするのは避けた方が良いかと」
怪人だから、と言われて辛い思いをするのは、シュダルク自身なのだから。
「むぅ……難しいな……」
他人の夫婦事情など、関係ない者からすれば、正直どうでもいいことだ。
しかし、憂鬱そうに大きな溜め息をつくシュダルクを見ていたら、どうも他人事とは思えなくなってきてしまう。
「わたしは綾香を心から愛している。それに、これまでずっと、その愛を惜しみなく伝えてきたはずだった。なのに、なのに……なぜ……」
かなり応えているようだ。
これは早急にどうにかしなくてはならない案件だろう。
「落ち着いて下さい、シュダルクさん」
「……む?」
「落ち込むにはまだ早いですよ」
そう、真実は分からない。
「しかし……妻が他の男と……考えるだけで涙が……」
「落ち着いて下さい、シュダルクさん」
「落ち着いていられるものか! 不可能だよ! そんなことは!」
直前までは弱々しい声色だったのに、突然声を荒らげた。
シュダルクの心はかなり乱れているようだ。
「……いや、君に当たるのは間違いだね。乱暴な言い方をしてしまって、すまない」
声を荒らげたのから五秒ほど経って、今度はそんな風に謝ってきた。ひとまず正気に戻ったようだ。
「いえ、気にしないで下さい」
「……ありがとう。そう言ってもらえると救われるよ」
青く発光する瞳は、静かに、こちらをじっと見つめている。
「それでだね。わたしはまず、妻をたぶらかした不届き者に、罰を与えようと思うのだよ」
右手を開き、手のひらを上向ける。
提案するようなポーズ。
優雅な所作だ。
「あの男を見つけだし、手始めにこの左手で切り裂いてやろうと思うのだが……どう思う?」
最初は冗談かと思った。
切り裂く、なんて。
「ぶ、物騒ですね……」
「あぁ。だが、そのくらいしなければ分からないだろう? 馬鹿者は」
それはそうかもしれないが。
だが、それは、相手の男がたぶらかしたと確定してからにするべきではないだろうか。
シュダルクの妻——綾香と、一緒に歩いていた男性が、そういう関係ではない可能性。何か事情があって一緒に歩いていただけだったという可能性。
それらが消滅しない限り、切り裂くのは止めておくべきだ。
……いや、もし浮気だったとしても、「切り裂く」はやり過ぎと思われかねないから、止めておいた方が賢明だろう。
「罰を与えるのは——浮気だと確定してからにしましょうよ」
「あぁ、もちろん。分かっているとも。わたしとて、罪無き者を切り裂いたりはしない。そこまで野蛮ではないからね」
「あと……」
「む? 何か良案があるのかね?」
首を軽く傾げるシュダルク。
「切り裂くのは止めておいた方が良いかと」
勇気を出して言ってみる。
すると彼は、驚きに満ちた声を放つ。
「なっ……!」
シュダルクの瞳が微かに揺れる。
「君はいきなり何を言い出すのかね!?」
「そんなことをしたら、シュダルクさんが誤解されてしまいかねません。ですから、乱暴なことをするのは避けた方が良いかと」
怪人だから、と言われて辛い思いをするのは、シュダルク自身なのだから。
「むぅ……難しいな……」
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