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第八十六回 スノゥ(1)
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十二月。
今年も、楽しいイベントが目白押しの季節がやって来た。
ここのところ、寒い日が続いている。
数日前などは、朝方、零度に近いくらいまで温度が下がっていた。
が、十二月という時期のせいか、街行く人々は浮かれている。足取りも軽い。
しかし、僕からしてみれば、ただただ寒いだけだ。
ただ、そんな冬であっても、『悪の怪人お悩み相談室』の仕事は絶えない。怪人には季節なんて関係ないようである。
「やぁ、こんにちは!」
十二月中旬のある日、やって来たのは雪だるま風の怪人。
よりによって彼との出会いが冬とは。複雑な心境である。
彼がやって来たのが夏場であったなら、少しは涼しい気分を味わうことができたはず。それだけに、彼が来たのが冬場であったことが残念でならない。
「ぼくスノゥ! 赤いマフラー、赤い帽子、赤いブーツで覚えてね!」
確かに、マフラーと帽子とブーツが赤だ。
「自己紹介ありがとうございます、スノゥさん。僕は岩山手。よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「では、椅子にお座り下さい」
「うん!」
スノゥは明るく返事をして、速やかに椅子へ腰掛けた。
「それにしてもスノゥさん」
「ん? 何かな」
「スノゥさんは赤がお好きなのですね」
それは重要なところではない。スノゥが赤が好きでも青が好きでも、僕には関係ないのだ。興味が湧いたため、質問してみた。ただそれだけのことである。
「うん! ぼくは赤好きだよ!」
「何か理由が?」
「血の色みたいだからだよ!」
えー……。
少し引いてしまった。
いや、もちろん、こういったことを言う存在を見たことがないわけではない。創作物の世界でなら、今スノゥが言ったようなことを言う人物は、幾人か見かけたことがある。
しかし、現実で言われたのは初めてだ。
「え? どうして黙るの?」
スノゥはきょとんとした顔で、そんな風に声をかけてくる。その表情から察するに、悪気はまったくないようだ。
「あ、いえ……少し驚いてしまって……」
「驚いてって、どうして?」
「いえ。お気になさらず……」
「えー? 気になるよ!」
不満げに漏らすスノゥ。
「し、しかし……その、失礼なことを申し上げることになってしまうかもしれず……」
何とかごまかそうと僕はそう返す。
するとスノゥは笑顔で「べつにいいよ!」と言ってきた。さらに「失礼とかないから聞かせてほしいな!」と続けられてしまう。
できれば言わずに済ませたかったのだが、そういうわけにもいかない雰囲気なので、思いきって真実を述べることに決めた。
「血の色みたいだからという理由に、驚いてしまいました」
するとスノゥは軽やかに「あはは」と笑う。
「そういうことだったんだね!」
「は、はい。すみません……」
「えー? どうして謝るのかな?」
スノゥは首を傾げている。
「世の中にいろんな感性の方がいるのは当然なのに、勝手に引いてしまったのが、申し訳なくて……」
するとスノゥは、また「あはは」と笑った。無邪気な笑い方だ。
「気にしなくていいよ! 引かれるのには慣れてるから!」
「し、しかし……」
「そっちが普通の感覚なんだよ、きっと。だってぼく、仲間からも『変』って言われてるし!」
言われているのか、仲間からも。
……ということは、珍しい感性をしている自覚はある、ということなのだろうか。
「それより、相談させてもらってもいい?」
「あ、はい。失礼しました」
「ううん! じゃあ、早速相談させてもらうね!」
今年も、楽しいイベントが目白押しの季節がやって来た。
ここのところ、寒い日が続いている。
数日前などは、朝方、零度に近いくらいまで温度が下がっていた。
が、十二月という時期のせいか、街行く人々は浮かれている。足取りも軽い。
しかし、僕からしてみれば、ただただ寒いだけだ。
ただ、そんな冬であっても、『悪の怪人お悩み相談室』の仕事は絶えない。怪人には季節なんて関係ないようである。
「やぁ、こんにちは!」
十二月中旬のある日、やって来たのは雪だるま風の怪人。
よりによって彼との出会いが冬とは。複雑な心境である。
彼がやって来たのが夏場であったなら、少しは涼しい気分を味わうことができたはず。それだけに、彼が来たのが冬場であったことが残念でならない。
「ぼくスノゥ! 赤いマフラー、赤い帽子、赤いブーツで覚えてね!」
確かに、マフラーと帽子とブーツが赤だ。
「自己紹介ありがとうございます、スノゥさん。僕は岩山手。よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「では、椅子にお座り下さい」
「うん!」
スノゥは明るく返事をして、速やかに椅子へ腰掛けた。
「それにしてもスノゥさん」
「ん? 何かな」
「スノゥさんは赤がお好きなのですね」
それは重要なところではない。スノゥが赤が好きでも青が好きでも、僕には関係ないのだ。興味が湧いたため、質問してみた。ただそれだけのことである。
「うん! ぼくは赤好きだよ!」
「何か理由が?」
「血の色みたいだからだよ!」
えー……。
少し引いてしまった。
いや、もちろん、こういったことを言う存在を見たことがないわけではない。創作物の世界でなら、今スノゥが言ったようなことを言う人物は、幾人か見かけたことがある。
しかし、現実で言われたのは初めてだ。
「え? どうして黙るの?」
スノゥはきょとんとした顔で、そんな風に声をかけてくる。その表情から察するに、悪気はまったくないようだ。
「あ、いえ……少し驚いてしまって……」
「驚いてって、どうして?」
「いえ。お気になさらず……」
「えー? 気になるよ!」
不満げに漏らすスノゥ。
「し、しかし……その、失礼なことを申し上げることになってしまうかもしれず……」
何とかごまかそうと僕はそう返す。
するとスノゥは笑顔で「べつにいいよ!」と言ってきた。さらに「失礼とかないから聞かせてほしいな!」と続けられてしまう。
できれば言わずに済ませたかったのだが、そういうわけにもいかない雰囲気なので、思いきって真実を述べることに決めた。
「血の色みたいだからという理由に、驚いてしまいました」
するとスノゥは軽やかに「あはは」と笑う。
「そういうことだったんだね!」
「は、はい。すみません……」
「えー? どうして謝るのかな?」
スノゥは首を傾げている。
「世の中にいろんな感性の方がいるのは当然なのに、勝手に引いてしまったのが、申し訳なくて……」
するとスノゥは、また「あはは」と笑った。無邪気な笑い方だ。
「気にしなくていいよ! 引かれるのには慣れてるから!」
「し、しかし……」
「そっちが普通の感覚なんだよ、きっと。だってぼく、仲間からも『変』って言われてるし!」
言われているのか、仲間からも。
……ということは、珍しい感性をしている自覚はある、ということなのだろうか。
「それより、相談させてもらってもいい?」
「あ、はい。失礼しました」
「ううん! じゃあ、早速相談させてもらうね!」
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