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第八十三回 ヒーローショー(2)
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そのうちにヒーローショーは始まった。
ヒーローのスーツをまとった役者と、正真正銘の怪人。それらが善と悪として戦っている様は、極めて奇妙としか言い様がない。
いや、もちろん、ヒーローと悪の怪人が戦うという構図そのものに問題はないのだ。
思想の違う者たちが戦いを繰り広げるというのは、いつの世も起こっていること。それは何も、特別なことではない。対立というのは、生命が存在する限り、世に在り続ける。
真に奇妙なのは、怪人役だけが本当の怪人であることだ。
悪は現実に存在するもので、善は作られたもの。
その構図が、何とも言えない。
「なかなかかっこいいショーですね」
「うん! そうだね」
僕は由紀と言葉を交わす。
もちろん、小さな声で。
「リッタータンさんの登場はまだですかね?」
「うん。まだみたいだね」
「早く見てみたいです」
「台詞、短くなってるといいね」
それから数分、ついに、リッタータンの出番がやって来た。
「我が輩の名はカタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ブルーリンクス! これまで、六の世界と二の大陸、百八十八人の女の子を支配下においてきた、ティクンティリクティカン星出身の怪人なり! 母は、カタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ブルーリンクス! 父は田辺 太郎! 両者とも、誇り高き、正真正銘のティクンティリクティカン星人である!」
それが、リッタータンの最初の台詞だった。
これは、本当に、短くなっているのだろうか?
……いや、少しは短くなっている気がする。が、いまいち分からない。
僕は元々の台詞を丸暗記していたわけではない。だから、どのくらい短くなっているのか、パッと判断することはできなかった。
「……由紀さん」
「ん?」
「今の台詞、短くなっていましたか?」
一応由紀に確認してみる。
すると彼女は「うん。少し短くなってるね」と答えてくれた。
「確か最初の台詞は『我が輩の名はカタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・バルロ・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! これまで、百十六の世界と二百八の大陸、二人の女の子を支配下においてきた、ポティクンポティリクポティカン星出身の怪人なり! 母は、カタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ルミナス・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! 父は田辺 洋一! 両者とも、誇り高き、正真正銘のポティクンポティリクポティカン星人である!』だったよね」
いや、そこまで覚えていない。
「そう考えると、若干短くなってるね?」
「は、はい……」
雰囲気でそう返してしまったが、正直なことを言うと、元の台詞はほぼ覚えていなかった。
無論、今さらそんなことは言えないが。
——それからもヒーローショーは続いた。
リッタータンはそれなりに上手く演技していた。怪人らしく悪さを醸し出し、ヒーローを少しばかり翻弄し、観客の子どもを湧かせ。最終的にやられる悪役ではあるけれど、彼の存在がヒーローショーを盛り上げていたことは確かだ。
そして、彼の他にも怪人は出てきた。
詳しいことは知らないが、恐らく、彼らもガンセッキが手配してくれた怪人なのだろう。
彼らもまた、ヒーローショーを盛り上げる要素となっていた。それは素晴らしいことだ。僕はそう思う。
ヒーローのスーツをまとった役者と、正真正銘の怪人。それらが善と悪として戦っている様は、極めて奇妙としか言い様がない。
いや、もちろん、ヒーローと悪の怪人が戦うという構図そのものに問題はないのだ。
思想の違う者たちが戦いを繰り広げるというのは、いつの世も起こっていること。それは何も、特別なことではない。対立というのは、生命が存在する限り、世に在り続ける。
真に奇妙なのは、怪人役だけが本当の怪人であることだ。
悪は現実に存在するもので、善は作られたもの。
その構図が、何とも言えない。
「なかなかかっこいいショーですね」
「うん! そうだね」
僕は由紀と言葉を交わす。
もちろん、小さな声で。
「リッタータンさんの登場はまだですかね?」
「うん。まだみたいだね」
「早く見てみたいです」
「台詞、短くなってるといいね」
それから数分、ついに、リッタータンの出番がやって来た。
「我が輩の名はカタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ブルーリンクス! これまで、六の世界と二の大陸、百八十八人の女の子を支配下においてきた、ティクンティリクティカン星出身の怪人なり! 母は、カタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ブルーリンクス! 父は田辺 太郎! 両者とも、誇り高き、正真正銘のティクンティリクティカン星人である!」
それが、リッタータンの最初の台詞だった。
これは、本当に、短くなっているのだろうか?
……いや、少しは短くなっている気がする。が、いまいち分からない。
僕は元々の台詞を丸暗記していたわけではない。だから、どのくらい短くなっているのか、パッと判断することはできなかった。
「……由紀さん」
「ん?」
「今の台詞、短くなっていましたか?」
一応由紀に確認してみる。
すると彼女は「うん。少し短くなってるね」と答えてくれた。
「確か最初の台詞は『我が輩の名はカタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・バルロ・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! これまで、百十六の世界と二百八の大陸、二人の女の子を支配下においてきた、ポティクンポティリクポティカン星出身の怪人なり! 母は、カタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ルミナス・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! 父は田辺 洋一! 両者とも、誇り高き、正真正銘のポティクンポティリクポティカン星人である!』だったよね」
いや、そこまで覚えていない。
「そう考えると、若干短くなってるね?」
「は、はい……」
雰囲気でそう返してしまったが、正直なことを言うと、元の台詞はほぼ覚えていなかった。
無論、今さらそんなことは言えないが。
——それからもヒーローショーは続いた。
リッタータンはそれなりに上手く演技していた。怪人らしく悪さを醸し出し、ヒーローを少しばかり翻弄し、観客の子どもを湧かせ。最終的にやられる悪役ではあるけれど、彼の存在がヒーローショーを盛り上げていたことは確かだ。
そして、彼の他にも怪人は出てきた。
詳しいことは知らないが、恐らく、彼らもガンセッキが手配してくれた怪人なのだろう。
彼らもまた、ヒーローショーを盛り上げる要素となっていた。それは素晴らしいことだ。僕はそう思う。
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