悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第七十六回 リッタータン(3)

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 長すぎる台詞に関するやり取りは、三十分ほど続いた。というのも、長すぎる台詞の数が少なくはなかったのである。厳密には分からないが、十数個はあったように思う。

 ヒーローショー自体は三十分で一公演となっているらしい。それゆえ、そんなに長い公演ではない。にもかかわらず、こんな奇妙な長台詞が十数個もあるというのは、なかなか厳しいところである。

 リッタータンは真面目だから真剣に悩んでいるが、もし僕が彼の立場だったとしたら、悩むなど軽く通り越して、逃げ出してしまっていたことだろう。

「公演一日目まで、あと数日しかありません。しかし、まだ半分くらいしか暗記できていないのです。……岩山手さんはどう思われますか?」

 リッタータンは申し訳なさそうな顔をしながら意見を求めてくる。

「これは台本に問題があると思います」

 こんなことを言ったら、このヒーローショーの台本を書いた人に怒られてしまうかもしれない。「書き手の苦労を分かっていない!」と言われてしまう可能性も、ゼロではないだろう。

 だが、それでも、僕は本心を述べた。

 なぜか?

 理由は簡単。
 この台本を書いた人は、台詞を覚える側のことをまったく考えていない——そう確信できたからである。

「リッタータンさんが悪いわけではないと思います。こんな奇妙な長台詞、一般人がいきなり覚えられるわけがありませんよ」
「そう言っていただけると、少しは心が軽くなります。ありがとうございます」

 リッタータンの丁寧な言葉遣いからは、彼の真面目な人柄が窺える。

「しかし、だからといって『覚えられません』と言うわけにはいかず……」
「そうですよね……」

 部屋が静まり返る。

 リッタータンは困ったように顔を軽く俯けていて、言葉を失っている。僕の方も、これといった気の利いた言葉をかけることはできず、上手く口を開けない。

 ただ、時だけが過ぎてゆく。


 ——そんな時。

 誰かが、個室の入り口の扉を、軽く二三回ノックしてきた。
 絶対とは言えないが、恐らく由紀だろう。

 僕はリッタータンに会釈してから、ノックに対して「はい!」と返事をした。扉越しでも聞こえるように、はっきりとした勢いのある声で。すると、扉の向こう側から、「あたしよ。入ってもいいかな」と聞こえてくる。その声は、予想通り由紀のもので。だから僕は、もう一度「はい!」と返事をした。

 数秒後、扉がゆっくりと開く。
 そして由紀が現れた。

「調子はどう?」

 心なしか男性的な整った顔に、笑みを浮かべる由紀。
 軽く首を傾げると、茶色がかった短い髪が、重力によって華麗に揺れる。それはどこか色っぽく、しかし、短めの髪ゆえ爽やかさも消えてはいない。

「ゆ、由紀さん!? いきなり入ってこられるなんて、珍しいですね」

 いつもは相談中に入ってくることなんてない。彼女がそんなことをしたのは、ナヤの時のように、何かしら理由があった時だけだ。

 それだけに、彼女が部屋へ入ってきたことには、正直驚いてしまった。

「どうして……?」
「え。どうしても何もないよ。ちょっと様子を見に来ただけ」
「け、けど、今は相談中で……」
「厳密には仕事じゃないからいいでしょ?」

 そう言って、由紀は視線をリッタータンへ向ける。

「問題ありませんよね?」
「はい」

 リッタータンは真面目に、首を縦に動かしていた。
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