悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第七十五回 リッタータン(2)

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 個室へ移動し、向かい合わせに座る。

 こうして向かい合うと、リッタータンはただ者ではない空気を漂わせていた。
 西洋甲冑のような頭部は、まるで、時を越えて来たかのよう。背中の棘は厳つく、銀に輝いている。

「実は、ヒーローショーの件で聞いていただきたいことがありまして」

 先に口を開いたのは、リッタータン。

「あ、はい。何でしょうか」
「お恥ずかしながら、台詞せりふが覚えられないのです」

 どんなことを言われるかと身構えていたのだが、意外と普通な内容だった。正直予想外。戸惑わざるを得ない。

「台詞……そんなにたくさんあるのですか?」

 するとリッタータンは、片手で、右脇腹のチャックをぴーっと開ける。そして、何やら冊子を取り出してきた。

 厚みは一センチくらいある、比較的分厚い冊子だ。

 ヒーローショーの台本だろうか……。

「こちらが台本になっているのですが」

 そう言って、リッタータンは冊子を開く。

「まず、冒頭のこの台詞が難しくて」

 リッタータンが指差している辺りへ視線を注ぐ。そこには、数行に渡る長い台詞が印刷されていた。

『我が輩の名はカタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・バルロ・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! これまで、百十六の世界と二百八の大陸、二人の女の子を支配下においてきた、ポティクンポティリクポティカン星出身の怪人なり! 母は、カタルーニャ・タマティン・モッツァレールリャ・ルミナス・タムァチャン・ポティクン・ブルーリンクス! 父は田辺たべ 洋一よういち! 両者とも、誇り高き、正真正銘のポティクンポティリクポティカン星人である!』

 僕の想像を遥かに越える、非常に長い台詞であった。

「練習してはいるのですが、なかなか覚えられず……困っているのです」

 リッタータンが困るのも、無理はない。
 こんな長い台詞を短期間で覚えなくてはならないなんて、酷だ。

「何か、上手く覚えられる方法など、ありませんでしょうか?」
「えーと……」

 力になってあげたいとは思う。何か良い方法を考えて、アドバイスできたなら、それが理想だ。

 だが僕は、劇に出たことなど、ほとんどない。

 最後に劇をしたのは、幼稚園最後の年の生活発表会という行事だったと思う。あの時、僕は、『海シーの藻屑もくず革命レボリューション』という作品の中でワカメの役をした。が、台詞は「ワカワカメメワカワカメメメ」しかない役で。だから、台詞を覚える苦労はほぼなかった。

「こんなに長い台詞、短期間で覚えるなんて無理ですよね」
「やはり岩山手さんもそう思われますか……」
「はい。そう思います」

 少し間を空けて、僕は尋ねる。

「ところで、長いのはこの台詞だけですか?」

 僕の問いに、リッタータンは「いえ」と首を横に振った。彼はそれから、台本を捲り始める。

「ここも非常に長く、覚えづらいです」
「うわ。本当だ」
「また、ここは似た単語が多いため言いづらいです」
「これはややこしいですね……」

 リッタータンが指を差し、そこに書かれている長い台詞を見て驚く——しばらく、そんなことが繰り返された。
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