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第七十二回 お使い
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家から歩いて五分ほどで着くコンビニがある。その日、僕は母親からお使いを頼まれ、そこへ行っていた。
最近はよく外出している。お悩み相談室の仕事があるからだ。それに、仕事場に通っているうちに、外出に慣れた。だから、一人で勝手に家から出て、昼食をとりにいくこともわりとよくある。
だが、夕方にお使いに行くというのは珍しい。
けれど、それはたいしたことではない。
何せ、コンビニは近所だ。しかも、そのコンビニへ行くまでに通る道は、いつも人通りがあまりない。
つまり、誰かに会うということは滅多にないのである。
だから僕は油断していた。
知り合いに会うなんてことはないだろうから、と——。
「えっ……岩山手くん!?」
だが、出会ってしまった。
高校時代のクラスメイトに。
いかにも染めましたとばかりに茶色いぱさついた髪は、胸の辺りまで伸び、下から三十センチくらいにはパーマがかかっている。また、肌はぬってりしていて、化粧も濃い。化粧と言っても口紅くらいしか知らない僕が見ても、厚化粧であるということが分かる。
「……あ」
由紀や怪人たちが相手なら少しは話せるのだが、昔の僕を知る彼女には上手く言葉を返せない。
「懐かしーい! アタチが誰か分かるー?」
「え、あの……」
「高三の時の! ほらー、ほらー、思い出してー」
高校を卒業して以来ほぼ会っていないというのに、この馴れ馴れしさ。
……どうも馴染めない。
わざわざ声をかけてくるくらいだから、彼女の方は暇なのだろう。しかし僕は暇ではない。お使いを頼まれ、その途中なのだ。だから、できれば邪魔しないでほしい。
「……忘れて……しまったよ」
「えぇー! 覚えてくれていないなんて、酷ぉーい!」
テンションの高さについていけない
「甘矢 瞳だよ! 忘れちゃうなんて酷ぉーい!」
そうだった。そんな名前だったな。
言われて初めて思い出せた。
よく見ると、顔つき自体は高校時代とあまり変わっていないように感じられた。が、化粧をしているため、雰囲気は当時とはかなり違っている。
また、私服であるというところも、雰囲気を変えている理由の一つかもしれない。
高校時代のクラスメイトだけに、制服を着ている姿しか見たことがなかったが、今の彼女は私服である。
「あ……甘矢さん……」
「出席番号も近かったのにー! 忘れちゃうなんてー!」
「……ごめん」
「もぉーう! 次忘れたら怒るからねー!」
甘矢はわざとらしく頬を膨らまし、可愛く怒っている感じを演出している。
だが、僕の目にはさほど可愛くは映らなかった。
というのも、先日、彼女より遥かに可愛い者を見たからである。
そう、その可愛い者とは——ミニマムーン。
「ところで、岩山手くんはお出掛け中?」
「そうだよ」
「一人でなのー?」
甘矢は妙に絡んでくる。
学生時代の僕にとってなら、今のようなシチュエーションは、恥ずかしくも嬉しいものだっただろう。しかし、今は何も感じない。特に「嬉しい」の部分は皆無だ。
「そうなんだ。少し……用事があって」
すると、甘矢は急に笑い出す。
「へー。一人でーってところが岩山手くんらしいねー。うけるー」
最近はよく外出している。お悩み相談室の仕事があるからだ。それに、仕事場に通っているうちに、外出に慣れた。だから、一人で勝手に家から出て、昼食をとりにいくこともわりとよくある。
だが、夕方にお使いに行くというのは珍しい。
けれど、それはたいしたことではない。
何せ、コンビニは近所だ。しかも、そのコンビニへ行くまでに通る道は、いつも人通りがあまりない。
つまり、誰かに会うということは滅多にないのである。
だから僕は油断していた。
知り合いに会うなんてことはないだろうから、と——。
「えっ……岩山手くん!?」
だが、出会ってしまった。
高校時代のクラスメイトに。
いかにも染めましたとばかりに茶色いぱさついた髪は、胸の辺りまで伸び、下から三十センチくらいにはパーマがかかっている。また、肌はぬってりしていて、化粧も濃い。化粧と言っても口紅くらいしか知らない僕が見ても、厚化粧であるということが分かる。
「……あ」
由紀や怪人たちが相手なら少しは話せるのだが、昔の僕を知る彼女には上手く言葉を返せない。
「懐かしーい! アタチが誰か分かるー?」
「え、あの……」
「高三の時の! ほらー、ほらー、思い出してー」
高校を卒業して以来ほぼ会っていないというのに、この馴れ馴れしさ。
……どうも馴染めない。
わざわざ声をかけてくるくらいだから、彼女の方は暇なのだろう。しかし僕は暇ではない。お使いを頼まれ、その途中なのだ。だから、できれば邪魔しないでほしい。
「……忘れて……しまったよ」
「えぇー! 覚えてくれていないなんて、酷ぉーい!」
テンションの高さについていけない
「甘矢 瞳だよ! 忘れちゃうなんて酷ぉーい!」
そうだった。そんな名前だったな。
言われて初めて思い出せた。
よく見ると、顔つき自体は高校時代とあまり変わっていないように感じられた。が、化粧をしているため、雰囲気は当時とはかなり違っている。
また、私服であるというところも、雰囲気を変えている理由の一つかもしれない。
高校時代のクラスメイトだけに、制服を着ている姿しか見たことがなかったが、今の彼女は私服である。
「あ……甘矢さん……」
「出席番号も近かったのにー! 忘れちゃうなんてー!」
「……ごめん」
「もぉーう! 次忘れたら怒るからねー!」
甘矢はわざとらしく頬を膨らまし、可愛く怒っている感じを演出している。
だが、僕の目にはさほど可愛くは映らなかった。
というのも、先日、彼女より遥かに可愛い者を見たからである。
そう、その可愛い者とは——ミニマムーン。
「ところで、岩山手くんはお出掛け中?」
「そうだよ」
「一人でなのー?」
甘矢は妙に絡んでくる。
学生時代の僕にとってなら、今のようなシチュエーションは、恥ずかしくも嬉しいものだっただろう。しかし、今は何も感じない。特に「嬉しい」の部分は皆無だ。
「そうなんだ。少し……用事があって」
すると、甘矢は急に笑い出す。
「へー。一人でーってところが岩山手くんらしいねー。うけるー」
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