悪の怪人☆お悩み相談室

四季

文字の大きさ
上 下
72 / 116

第七十一回 ミニマムーン(4)

しおりを挟む
「そっか、うん……やっぱり、ちゃんとねなくちゃ、駄目だよね……」

 顔面をしわだらけのジャガイモのようにしながら、ミニマムーンは俯く。その表情は暗く、まるで、雨が降り出す数分前の空のようだ。

 そんなミニマムーンを見ていると、少し申し訳ない気持ちになった。

 明るい表情のミニマムーンはとにかく愛らしく、非常に魅力的だった。
 それだけに、僕の発言によって彼を暗い顔にさせてしまったということが、辛い。

「ミニマムーンさんはあまり寝られないのですか?」
「……ううん。ねようと思ったらねられるんだ。でも……つい夜更かししてしまって……」

 僕もそう。同じだ。

 ミニマムーンの発言に、僕は大いに共感した。

 今でこそそれなりにきちんとした生活ペースを築くことができている。が、ここで働き始めるまでの僕といったら、一般の人たちとはまったく違う時間帯での暮らしをしていた。それこそ、午前中に寝て夜の始まり頃に起きるだとか。

「まぁ、それは仕方ないことですよね」
「うん……でも、背をたかくするには、ねなくちゃ……」
「意識するだけでも変わりますよ、きっと」
「……そっか、そうだよね。ぼく……頑張る」

 ミニマムーンは人間ではない。それゆえ、人間と同じくらい成長するのかは不明だ。栄養を摂ったり、質の良い睡眠をとったりしたからといって、背が伸びるという保証はない。それらは、あくまで、人間の場合だからだ。

 だがそれでも、諦めるにはまだ早いだろう。

 自分の願いを信じ、その成就のために努力を続ける。そうすれば、願いはきっと叶う。いつかはきっと、望み通りになるはず。

「ありがとう……ぼく、勇気が出てきたよ……」
「良かったです」
「……じゃあ今日は、このあたりで……」

 ミニマムーンは表情を少し柔らかくして言った。

「……椅子から降ろしてほしいな」
「あ、はい!」

 相談が終わったので、僕は、椅子から立ち上がりミニマムーンの横まで移動する。そして、両手を使ってミニマムーンの体を持ち上げた。

「じっとしていて下さいね」
「……うん」

 こくりと頷くミニマムーン。

 やはり可愛い。
 今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるくらい、愛らしい。

「では降ろします」

 抱き締めたい衝動を振り払い、ミニマムーンを床に降ろした。

「これで問題ありませんか?」
「うん」

 一時はしわだらけのジャガイモになっていたミニマムーンの顔が、太陽に戻る。

「じゃあ……さようなら」
「さようなら。またいつでも来て下さい」
「ありがとう……ございました」

 こうして、マスコットのように可愛らしい怪人ミニマムーンは、部屋から去っていったのだった。


 個室に一人残された僕は、何の音もしない部屋の中、ミニマムーンの可愛らしい振る舞いを思い出す。

 そして、つい、にやけてしまった。

 小動物のように愛らしい外見。控えめな物言い。まろやかな声。穏やかで愛嬌のある振る舞い。
 そのすべてが、ミニマムーンを魅力的に見せる要素になっている。

 ミニマムーンは、甘いお菓子のような魅力を持っている怪人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

新日本警察エリミナーレ

四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。 そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。 ……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。 ※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...