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第六十八回 ミニマムーン(1)
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今日は雨。
それも、結構本格的な雨だ。
梅雨頃は今年もそれなりに降雨があった。が、夏に入るにつれ徐々に減り、ここしばらくは晴れの日ばかり。そのせいで非常に暑いことになっていた。
しかし、今日、久しぶりに雨が降った。
そのおかげで、少しは気温が下がったような気もする。
もっとも、むわぁ……と広がる蒸し暑さのせいで、快適ではないのだが。
しかし雨だからといって仕事がなくなるわけではなく。
僕は今日も、いつもと変わらず『悪の怪人お悩み相談室』へ向かう。
今日僕が担当する怪人は、とても可愛らしい容姿の怪人だった。
「こ……こんにちは。ぼく、ミニマムーン……よろしくお願いします」
百センチあるかどうかくらいの低い背で、きな粉をまぶしたおはぎのような顔。体つきは肥え気味で、尻には丸い尻尾がついている。
ぬいぐるみのような愛らしさだ。
僕は、可愛いものが凄く好きということはない。が、目の前の怪人の可愛らしさには、心奪われてしまう。
こんなにも愛らしい怪人、初めてだ。
「ミニマムーンさんですね」
「うん……そう、よろしくお願いします」
ミニマムーンはペコリとお辞儀をした。
その動作を目にすると、可愛らしすぎて「可愛いぃぃぃ‼︎」と叫びたくなってしまう。たまらない。
「岩山手と申します。こちらこそよろしくお願いします」
「うん……よろしくお願いします」
またしても「よろしくお願いします」と言ってきた。
なんて丁寧なのだろう!
しかも可愛いし!
……おっと、つい冷静さを失ってしまっていた。
「では。どうぞ、そちらの椅子にお座り下さい」
「分かった……座るね」
ミニマムーンはちょこちょこした頼りない足取りで椅子の方へと歩いてくる。そして、椅子のすぐ近くまで来ると、足を止めた。軽く首を傾げつつ、椅子の脚をじっと見つめている。
「どうかなさいましたか?」
あまりにじっとしているものだから、何か問題でもあるのかと思い、僕はそう尋ねた。
すると、ミニマムーンは小さく答える。
「このいす……座れないよ」
「えっ」
「ぼくとどかない……どうしたら、いいかな……?」
どうやら、背の関係で椅子に座りづらいようだ。
「あっ、すみません。お手伝いしましょうか」
「いいの……?」
きな粉をまぶしたおはぎのような顔に遠慮の色が浮かぶ。
「はい。ミニマムーンさんがお望みであれば、お体を椅子の高さまで持ち上げさせていただきます」
ミニマムーンは控えめな性格だ。それゆえ、自分から頼むというのは難しいだろう。となると、こちらから提案する方がスムーズ。
そんな風に考え、僕は提案した。
するとミニマムーンは、数秒考えてから「うん……よろしくお願いします」と、小さな声で返してきた。
その後、僕は両手でミニマムーンの体を抱え上げ、ゆっくり椅子に座らせた。
「……ありがとう」
椅子に座った後、ミニマムーンがそんな風にお礼を言ってくれたことが、僕はとても嬉しかった。
いや、僕だからではないだろう。
こんな可愛らしい怪人に礼を言われて嬉しくない人なんて、そうたくさんはいないはずだ。
それも、結構本格的な雨だ。
梅雨頃は今年もそれなりに降雨があった。が、夏に入るにつれ徐々に減り、ここしばらくは晴れの日ばかり。そのせいで非常に暑いことになっていた。
しかし、今日、久しぶりに雨が降った。
そのおかげで、少しは気温が下がったような気もする。
もっとも、むわぁ……と広がる蒸し暑さのせいで、快適ではないのだが。
しかし雨だからといって仕事がなくなるわけではなく。
僕は今日も、いつもと変わらず『悪の怪人お悩み相談室』へ向かう。
今日僕が担当する怪人は、とても可愛らしい容姿の怪人だった。
「こ……こんにちは。ぼく、ミニマムーン……よろしくお願いします」
百センチあるかどうかくらいの低い背で、きな粉をまぶしたおはぎのような顔。体つきは肥え気味で、尻には丸い尻尾がついている。
ぬいぐるみのような愛らしさだ。
僕は、可愛いものが凄く好きということはない。が、目の前の怪人の可愛らしさには、心奪われてしまう。
こんなにも愛らしい怪人、初めてだ。
「ミニマムーンさんですね」
「うん……そう、よろしくお願いします」
ミニマムーンはペコリとお辞儀をした。
その動作を目にすると、可愛らしすぎて「可愛いぃぃぃ‼︎」と叫びたくなってしまう。たまらない。
「岩山手と申します。こちらこそよろしくお願いします」
「うん……よろしくお願いします」
またしても「よろしくお願いします」と言ってきた。
なんて丁寧なのだろう!
しかも可愛いし!
……おっと、つい冷静さを失ってしまっていた。
「では。どうぞ、そちらの椅子にお座り下さい」
「分かった……座るね」
ミニマムーンはちょこちょこした頼りない足取りで椅子の方へと歩いてくる。そして、椅子のすぐ近くまで来ると、足を止めた。軽く首を傾げつつ、椅子の脚をじっと見つめている。
「どうかなさいましたか?」
あまりにじっとしているものだから、何か問題でもあるのかと思い、僕はそう尋ねた。
すると、ミニマムーンは小さく答える。
「このいす……座れないよ」
「えっ」
「ぼくとどかない……どうしたら、いいかな……?」
どうやら、背の関係で椅子に座りづらいようだ。
「あっ、すみません。お手伝いしましょうか」
「いいの……?」
きな粉をまぶしたおはぎのような顔に遠慮の色が浮かぶ。
「はい。ミニマムーンさんがお望みであれば、お体を椅子の高さまで持ち上げさせていただきます」
ミニマムーンは控えめな性格だ。それゆえ、自分から頼むというのは難しいだろう。となると、こちらから提案する方がスムーズ。
そんな風に考え、僕は提案した。
するとミニマムーンは、数秒考えてから「うん……よろしくお願いします」と、小さな声で返してきた。
その後、僕は両手でミニマムーンの体を抱え上げ、ゆっくり椅子に座らせた。
「……ありがとう」
椅子に座った後、ミニマムーンがそんな風にお礼を言ってくれたことが、僕はとても嬉しかった。
いや、僕だからではないだろう。
こんな可愛らしい怪人に礼を言われて嬉しくない人なんて、そうたくさんはいないはずだ。
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