悪の怪人☆お悩み相談室

四季

文字の大きさ
上 下
65 / 116

第六十四回 ナヤ・ミオオ(1)

しおりを挟む
「こんにっちゃ!」

 今日僕が担当する怪人は、ナヤ・ミオオ。

 事前に渡された書類で、その名を知った。
 いかにも悩みが多そうな名前だが、どのような相談をしてくるか気になるところだ。僕に適さない相談でなければ良いのだが。

「こんにちは。担当の岩山手と申します。よろしくお願いします」

 個室へ入ってきた老人風の怪人に、僕は普段通りの挨拶をする。

「わしゃ、ナヤ・ミオオじゃ。よろしくのぅ、若造よ」

 ……若造、か。

 いきなりの若造呼ばわりは、少し失礼な気がする。だが、完全に間違いというわけでもないので、そう呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。

 実際、僕はまだ若いから。

「お待ちしておりました」
「そういうのはええぞ。べつに気を遣うことはないわ」

 言いながら、ナヤは自ら椅子へ腰掛ける。
 年寄りアピールなのか何なのか知らないが、椅子に腰掛けた後、彼は片手で腰辺りを擦っていた。

「では相談をどうぞ」

 僕はそう声をかける。
 しかし、ナヤは首を横に振る。

「人生の後輩である若造に相談することなどないのじゃ」
「え……」
「今日は、ただ、わしの愚痴を聞いてもらえればそれでええ」

 彼の場合、どうやら、解決してほしい悩みがあるというわけではないようだ。ただ愚痴を聞いてほしいだけのようである。

 それはお悩み相談室の職務なのか?

 甚だ疑問ではあるけれど、予約の時点で由紀が断っていないということは、問題ないのだろう。

「話をお聞きすれば良いのですか?」
「あぁ! そうじゃ!」

 聞くだけ、というのは、ある意味難しいかもしれない。態度によっては、ぼんやり聞いていると誤解される可能性もあるわけだから。

 でも、だからといって逃げるわけにはいかない。

 一生懸命、今の僕にできることをやる。目の前に存在する道は、ただそれだけ。一本道だ。

「職場のお話ですか?」
「そうじゃな」
「では、その前に少し、ナヤさんの職場について教えていただけますか?」

 彼を取り巻く環境を知らずに愚痴だけ聞くなど、世界観を知らずに小説を読むようなもの。それでは理解が深まらない。

「そうじゃな、そこは大切と言えるじゃろう。では」

 少し空けて、ナヤは話し出す。

「わしが勤めとるのは、この国の最東端の県に本社を置く悪の組織ワルザスの、根源基地。三十人ほどの怪人が働く、中規模基地じゃな。ちなみに、わしゃそこの基地副長じゃ」

 ナヤは妙に喋る。
 一度口を動かし始めると、止まらない。

「しっかし、なぜ基地長がわしより若いもんなのか……上の考えはまったくもって分からんのぅ。厳しい時代を生き抜いてきたわしからすれば、基地長とはいえただの若造じゃ」

 話が長い。
 いちいち長い。

 だが、これも仕事のうちだ。

「なるほど。どのようなお仕事をなさっている組織なのですか?」
「現世という枷から人々を解放するお仕事じゃな!」

 ……おっと、何やら危なげだ。

「学校に通うのが辛い者には、偽の成績表を作り、通わずともきちんと卒業できるようにする。嫌な上司に苛められ日々鬱屈な者には、裏から手を回し、その上司をクビにする。そうやって人のためになることをし、善行を積んでゆく組織じゃ」

 いや、最初思ったほど危なくはなかった。

 ……が。

 いいのか? それは。
しおりを挟む

処理中です...