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第六十四回 ナヤ・ミオオ(1)
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「こんにっちゃ!」
今日僕が担当する怪人は、ナヤ・ミオオ。
事前に渡された書類で、その名を知った。
いかにも悩みが多そうな名前だが、どのような相談をしてくるか気になるところだ。僕に適さない相談でなければ良いのだが。
「こんにちは。担当の岩山手と申します。よろしくお願いします」
個室へ入ってきた老人風の怪人に、僕は普段通りの挨拶をする。
「わしゃ、ナヤ・ミオオじゃ。よろしくのぅ、若造よ」
……若造、か。
いきなりの若造呼ばわりは、少し失礼な気がする。だが、完全に間違いというわけでもないので、そう呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。
実際、僕はまだ若いから。
「お待ちしておりました」
「そういうのはええぞ。べつに気を遣うことはないわ」
言いながら、ナヤは自ら椅子へ腰掛ける。
年寄りアピールなのか何なのか知らないが、椅子に腰掛けた後、彼は片手で腰辺りを擦っていた。
「では相談をどうぞ」
僕はそう声をかける。
しかし、ナヤは首を横に振る。
「人生の後輩である若造に相談することなどないのじゃ」
「え……」
「今日は、ただ、わしの愚痴を聞いてもらえればそれでええ」
彼の場合、どうやら、解決してほしい悩みがあるというわけではないようだ。ただ愚痴を聞いてほしいだけのようである。
それはお悩み相談室の職務なのか?
甚だ疑問ではあるけれど、予約の時点で由紀が断っていないということは、問題ないのだろう。
「話をお聞きすれば良いのですか?」
「あぁ! そうじゃ!」
聞くだけ、というのは、ある意味難しいかもしれない。態度によっては、ぼんやり聞いていると誤解される可能性もあるわけだから。
でも、だからといって逃げるわけにはいかない。
一生懸命、今の僕にできることをやる。目の前に存在する道は、ただそれだけ。一本道だ。
「職場のお話ですか?」
「そうじゃな」
「では、その前に少し、ナヤさんの職場について教えていただけますか?」
彼を取り巻く環境を知らずに愚痴だけ聞くなど、世界観を知らずに小説を読むようなもの。それでは理解が深まらない。
「そうじゃな、そこは大切と言えるじゃろう。では」
少し空けて、ナヤは話し出す。
「わしが勤めとるのは、この国の最東端の県に本社を置く悪の組織ワルザスの、根源基地。三十人ほどの怪人が働く、中規模基地じゃな。ちなみに、わしゃそこの基地副長じゃ」
ナヤは妙に喋る。
一度口を動かし始めると、止まらない。
「しっかし、なぜ基地長がわしより若いもんなのか……上の考えはまったくもって分からんのぅ。厳しい時代を生き抜いてきたわしからすれば、基地長とはいえただの若造じゃ」
話が長い。
いちいち長い。
だが、これも仕事のうちだ。
「なるほど。どのようなお仕事をなさっている組織なのですか?」
「現世という枷から人々を解放するお仕事じゃな!」
……おっと、何やら危なげだ。
「学校に通うのが辛い者には、偽の成績表を作り、通わずともきちんと卒業できるようにする。嫌な上司に苛められ日々鬱屈な者には、裏から手を回し、その上司をクビにする。そうやって人のためになることをし、善行を積んでゆく組織じゃ」
いや、最初思ったほど危なくはなかった。
……が。
いいのか? それは。
今日僕が担当する怪人は、ナヤ・ミオオ。
事前に渡された書類で、その名を知った。
いかにも悩みが多そうな名前だが、どのような相談をしてくるか気になるところだ。僕に適さない相談でなければ良いのだが。
「こんにちは。担当の岩山手と申します。よろしくお願いします」
個室へ入ってきた老人風の怪人に、僕は普段通りの挨拶をする。
「わしゃ、ナヤ・ミオオじゃ。よろしくのぅ、若造よ」
……若造、か。
いきなりの若造呼ばわりは、少し失礼な気がする。だが、完全に間違いというわけでもないので、そう呼ばれるのも仕方がないのかもしれない。
実際、僕はまだ若いから。
「お待ちしておりました」
「そういうのはええぞ。べつに気を遣うことはないわ」
言いながら、ナヤは自ら椅子へ腰掛ける。
年寄りアピールなのか何なのか知らないが、椅子に腰掛けた後、彼は片手で腰辺りを擦っていた。
「では相談をどうぞ」
僕はそう声をかける。
しかし、ナヤは首を横に振る。
「人生の後輩である若造に相談することなどないのじゃ」
「え……」
「今日は、ただ、わしの愚痴を聞いてもらえればそれでええ」
彼の場合、どうやら、解決してほしい悩みがあるというわけではないようだ。ただ愚痴を聞いてほしいだけのようである。
それはお悩み相談室の職務なのか?
甚だ疑問ではあるけれど、予約の時点で由紀が断っていないということは、問題ないのだろう。
「話をお聞きすれば良いのですか?」
「あぁ! そうじゃ!」
聞くだけ、というのは、ある意味難しいかもしれない。態度によっては、ぼんやり聞いていると誤解される可能性もあるわけだから。
でも、だからといって逃げるわけにはいかない。
一生懸命、今の僕にできることをやる。目の前に存在する道は、ただそれだけ。一本道だ。
「職場のお話ですか?」
「そうじゃな」
「では、その前に少し、ナヤさんの職場について教えていただけますか?」
彼を取り巻く環境を知らずに愚痴だけ聞くなど、世界観を知らずに小説を読むようなもの。それでは理解が深まらない。
「そうじゃな、そこは大切と言えるじゃろう。では」
少し空けて、ナヤは話し出す。
「わしが勤めとるのは、この国の最東端の県に本社を置く悪の組織ワルザスの、根源基地。三十人ほどの怪人が働く、中規模基地じゃな。ちなみに、わしゃそこの基地副長じゃ」
ナヤは妙に喋る。
一度口を動かし始めると、止まらない。
「しっかし、なぜ基地長がわしより若いもんなのか……上の考えはまったくもって分からんのぅ。厳しい時代を生き抜いてきたわしからすれば、基地長とはいえただの若造じゃ」
話が長い。
いちいち長い。
だが、これも仕事のうちだ。
「なるほど。どのようなお仕事をなさっている組織なのですか?」
「現世という枷から人々を解放するお仕事じゃな!」
……おっと、何やら危なげだ。
「学校に通うのが辛い者には、偽の成績表を作り、通わずともきちんと卒業できるようにする。嫌な上司に苛められ日々鬱屈な者には、裏から手を回し、その上司をクビにする。そうやって人のためになることをし、善行を積んでゆく組織じゃ」
いや、最初思ったほど危なくはなかった。
……が。
いいのか? それは。
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