64 / 116
第六十三回 昼時の遭遇
しおりを挟む
今、僕は、駅から歩いて数分のところに位置する喫茶店へ来ている。
無論、一人で、である。
特にこれといった理由があるわけではない。今日は『悪の怪人お悩み相談室』へ行かなくていい日だったにもかかわらず昼前に起きてしまったから、昼食を食べに来ただけだ。
それにしても——働き始めて僕の生活は大きく変わった。
つい数ヵ月前までは、昼食を食べに一人で外へ行くことなんてなかったのに、今はこうして家の外で食べているのだから、驚きだ。
「しかし美味しいな。このガーリックサンドは」
パンに挟まっている、香ばしいガーリックソースとガーリックスライス。それらが、何とも言えない旨みを生んでいる。堪らない。放っておいたら、いつまでも食べ続けてしまいそうだ。
そんな風に孤独な昼食を楽しんでいた時。
「お! 岩山手!?」
何者かに突然声をかけられた。
驚きつつ顔を上げると——そこにいたのはイカルド。
「おっす!」
平均的な成人男性程度の背、人間より一回り大きい体つき。イカを擬人化したような姿でありながらも、イカらしからぬ奇抜な色合い。
相談室へ勤め始めてすぐ、僕が最初に出会った怪人だ。
「あ、イカルドさん。お久しぶりです」
「昼食っすか?」
イカルドは気さくに話しかけてくる。
「はい」
「一緒に食べてもいいっすか?」
彼がそんなことを言ってくるとは少し意外だったが、一人であることにこだわりがあるわけでもないので、頷いておいた。
「どーも! じゃ、失礼するっす」
そう言って、彼は僕の向かいに座った。
「ここって、注文はどうなってるんっすか?」
「あそこのカウンターで注文して受け取ったらいいと思いますよ」
「ありがとう! じゃ、行ってくるっす!」
イカルドは再び立ち上がり、カウンターの方へと歩いていく。その背を、僕は、ぼんやりと見つめていた。
その後、僕はイカルドと、いろんなことを話した。
共通点があまりない僕たちの話題といったら、どうでもいいような細やかなことばかりで。
でも、それでも楽しかった。
生まれ育った環境どころか、種族も住んでいる世界も違う僕たち。それでも、話してみると案外楽しくて。むしろ、同じ世界に暮らす人間同士で話すよりも、刺激があってワクワクする。
そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎた。
「いやー、楽しかったっすね!」
「はい。とても」
「岩山手も?」
「はい。こんな風に楽しく話せたのは、久々な気がします」
その言葉に偽りはない。
話すのが楽しかった——それは、まぎれもない事実だ。
「もし機会があれば、またお話しませんか」
「おぉ! いい提案っすね!」
楽しかったのは僕だけではないようだ。イカルドも楽しんでくれたようである。
お互い楽しめたのなら、一番理想形だ。
「俺は夕方から仕事っすから。そろそろ帰るっす」
「お仕事頑張って下さい」
「おっす!」
イカルドは軽く頭を下げる。
「岩山手も頑張ってくれよーっす!」
「はい。ありがとうございます」
こうして、僕たちは別れた。
また話したいな。
僕の胸には、それだけが残った。
無論、一人で、である。
特にこれといった理由があるわけではない。今日は『悪の怪人お悩み相談室』へ行かなくていい日だったにもかかわらず昼前に起きてしまったから、昼食を食べに来ただけだ。
それにしても——働き始めて僕の生活は大きく変わった。
つい数ヵ月前までは、昼食を食べに一人で外へ行くことなんてなかったのに、今はこうして家の外で食べているのだから、驚きだ。
「しかし美味しいな。このガーリックサンドは」
パンに挟まっている、香ばしいガーリックソースとガーリックスライス。それらが、何とも言えない旨みを生んでいる。堪らない。放っておいたら、いつまでも食べ続けてしまいそうだ。
そんな風に孤独な昼食を楽しんでいた時。
「お! 岩山手!?」
何者かに突然声をかけられた。
驚きつつ顔を上げると——そこにいたのはイカルド。
「おっす!」
平均的な成人男性程度の背、人間より一回り大きい体つき。イカを擬人化したような姿でありながらも、イカらしからぬ奇抜な色合い。
相談室へ勤め始めてすぐ、僕が最初に出会った怪人だ。
「あ、イカルドさん。お久しぶりです」
「昼食っすか?」
イカルドは気さくに話しかけてくる。
「はい」
「一緒に食べてもいいっすか?」
彼がそんなことを言ってくるとは少し意外だったが、一人であることにこだわりがあるわけでもないので、頷いておいた。
「どーも! じゃ、失礼するっす」
そう言って、彼は僕の向かいに座った。
「ここって、注文はどうなってるんっすか?」
「あそこのカウンターで注文して受け取ったらいいと思いますよ」
「ありがとう! じゃ、行ってくるっす!」
イカルドは再び立ち上がり、カウンターの方へと歩いていく。その背を、僕は、ぼんやりと見つめていた。
その後、僕はイカルドと、いろんなことを話した。
共通点があまりない僕たちの話題といったら、どうでもいいような細やかなことばかりで。
でも、それでも楽しかった。
生まれ育った環境どころか、種族も住んでいる世界も違う僕たち。それでも、話してみると案外楽しくて。むしろ、同じ世界に暮らす人間同士で話すよりも、刺激があってワクワクする。
そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎた。
「いやー、楽しかったっすね!」
「はい。とても」
「岩山手も?」
「はい。こんな風に楽しく話せたのは、久々な気がします」
その言葉に偽りはない。
話すのが楽しかった——それは、まぎれもない事実だ。
「もし機会があれば、またお話しませんか」
「おぉ! いい提案っすね!」
楽しかったのは僕だけではないようだ。イカルドも楽しんでくれたようである。
お互い楽しめたのなら、一番理想形だ。
「俺は夕方から仕事っすから。そろそろ帰るっす」
「お仕事頑張って下さい」
「おっす!」
イカルドは軽く頭を下げる。
「岩山手も頑張ってくれよーっす!」
「はい。ありがとうございます」
こうして、僕たちは別れた。
また話したいな。
僕の胸には、それだけが残った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる